フレットバーグの白い鐘

維七

 ゴーン、ゴーン


 フレットバーグの町に鐘の音が響き渡る。シンボルとも言える町の中心に聳え立つ一際背の高い鐘塔のてっぺんに鎮座する黄金色の大鐘は夕暮れを告げている。ある者は店じまいをしてある者は店を開ける。家庭では夕食がテーブルに並び始め、子どもたちは、また明日、と言って帰路に着く。


 広場で遊んでいた少女アリーシアとイアも例外ではなく、鐘の音を聞いて家に帰ろうとしていた。


「イア!鐘が鳴ったよ!お家に帰らなくちゃ!」


 そう言って今にも駆け出しそうなアリーシアを


「待って!」


とイアが呼び止める。


「どうしたの?早く帰らないと怒られちゃうよ?」


とアリーシアは不思議そうに。


「ねえ、アリーシア。白い鐘って知ってる?」


 アリーシアはふるふると首を振る。


「知らないわ。あの鐘じゃないんでしょ?」


 アリーシアは鐘塔のてっぺんの鐘を指す。


「そうね、違うわ。でも半分正解」


「どういうこと?」


 アリーシアは首を傾げる。


「ふふ、じゃあ教えてあげる。白い鐘はね、夢の世界への入り口なの?」


「夢?寝ている時に見るアレのこと?」


「そうよ。夜寝る前に白い鐘を想像するの。あの塔のてっぺんの鐘を白くしたみたいなね。そうすると白い鐘が鳴り始めるの。その音を聞きながら眠ると夢の世界へ入れるのよ」


 聴いていたアリーシアは目を丸くする。


「本当?イアは言ったことあるの?」


 イアは大きく頷く。


「あるわ。昨日行ったの」


「どうだった?」


 アリーシアの目が輝く。


「つまらなかったわ。何にもないんだもの」


「何にも?」


「そう、何にも。町には誰もいないし遊び道具も何もない。この広場にも来たけどやっぱり誰もいなかったわ」


 ふーん、とアリーシアは興味をなくしたように。


「でも、アリーシアが来てくれたら…」


 イアの言葉にアリーシアの目が今日一番開く。


「一緒に遊べる!」


「そういうことよ!」


 アリーシアとイアは顔を突き合わせて笑う。


「じゃあまた、夢の中で会いましょう!」


 そう言って二人はそれぞれの帰路についた。

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