天才アイドル柏木くんと2次元みたいな恋をする
藤咲ななせ
第1章 柏木くんとぼっちの出会い
第0話 思い出のフィルム
「なあ、さっき寝てただろ」
痛いところを突かれて、冷や汗が垂れた。
さっきまで大きなスクリーンに映し出されていたキラキラとした笑顔とは正反対の、凄みがある真顔。
美人の真顔は怖いというが、わたしは今この瞬間に身をもって思い知るのであった。
「いい度胸だよなァ」
じりじりと詰め寄られて、同じテンポでゆっくりと後ずさる。とん、と虚しくも背中が壁に当たり、わたしは逃げ場を失ったことを悟った。
フードを目深に被ったその下から、綺麗な形をした瞳がぎらりと光る。黒いマスクで覆い隠された分、表情が読み辛くて、それが一層怖い。
(──あ、これ、詰んだかも)
──いったいどうしてこんなことになってしまったのだろう。わたしはただ、恋愛を知りたいだけだったのに。
***
『諦め』。
一見すると子どもには難しいと思えるその感情を、わたしは小さな頃から持ち合わせていたように思える。
それは別にわたしがそういう人間だったからではなくて、そういう人間にならざるを得なかったからである。
「ずっとともだちでいようね!」
どこが分岐点だったのだろう。保育園の頃はまだ何も知らないで、純粋に笑っていたような気がする。あの頃は小さな視界に入るものが全てで、簡単に永遠を信じていられた。
「あのね、おひっこしすることになったの」
「どこにいくの?」
「とおいところだって」
「そうなんだ」
ずっとを約束した友達は案外あっさりしていたし、私も事の重大さをよく理解できていなかった。実際に引っ越した後、誰も知り合いのいない馴染みのない場所でこれから過ごしていくのだという現実を、初めて突きつけられたのだ。
人間関係がゼロからリセット。
いくら友情を築き上げても、物理的な別れによって全てが無に帰す。
二年足らずで新しい土地への引っ越しを繰り返していたわたしは、それでも小学校高学年のころまではまだ何とか前向きに生きていた。
「行かないで、もう会えなくなるなんて嫌だよ……っ」
──きっとあのときだ。
人生で三度目の引っ越しが決まったとき。
小学六年の頃、仲の良かった友達にいつものように別れを告げたら、初めて泣いて引き止められたときのこと。
自分のために誰かが泣いてくれるのも、こんな風に気持ちをぶつけられたのも初めてのことだった。
今までの思い出が甦ってくると同時に、もう二度と会うことはないかもしれないと思うと悲しくてたまらなくなって、わたしもわんわんと大きな声で泣いた。
『別れ』が辛くて苦しいものだと、わたしはそのとき初めて知った。
それと同時に、仲良くなればなるほど別れが辛いこと、誰かの人生に踏み込みすぎると傷付けてしまうことも知った。
だったら初めから近寄らなければいい。一人でいたら傷付くことはない。
そう気付いた瞬間から、わたしはひとりぼっちで生きることを選んだ。
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