研究者は大体変人


 アンノウンの実験に死刑囚や極悪非道な救いようのない犯罪者が使われているという事を知った俺は、その実験の様子を見るためにとある部屋へとやってきた。


 その部屋は監視室のようで、多くのモニターが設置されており幾つかのアンノウンが映し出されている。


 昨日先輩が鎮圧したと思われる機関銃に、孤独にぽつんと置かれた箱、その他にも目を引くようなアンノウンと思わしきものがあった。


 監視カメラによって監視され、そして収容されている。


 俺は映画に出てくるようなその壮大な施設に少しばかり、感動してしまった。


 ちょっとカッコイイ。幾つものスクリーンとそれに映し出される多くの情報。それを見ながら、管理、監視をする職員たちの姿。


 俺の中にある少年心が揺れてしまう。


「ハハッ!!茜も男の子だな?瀬名もこの監視室を見て目を輝かせていたよ」

「かっこいいじゃん。俺、こういうの大好き」

「私には分からんが、瀬名も“なんか好き”って言ってたな。男の子の心を揺さぶる何かがここにはあるのかね?」

「先輩は?あの人はこのロマンを分かってくれそうだけど」

「あの子は生憎メカメカした物に興味はないんだよ。SFよりも異世界ファンタジーの方が好きらしい」


 ........異世界から帰還した勇者が、現代日本で暴れるお話とか好きそう(偏見)。


 そうか、奏音先輩はSF系の話はあまり好きではないのか。


 俺は物語としては結構好きな部類なんだけどな。それが実在するとは思わないが、やはり心を擽られるものがある。


 隊長のしている弾丸すらも弾くその義手も、正直かっこいいとは思う程に。


 流石に地雷すぎるので触れたりはしないが。


「あ、雫さん。来たんですね」

「よォ!!花見ちゃん。悪かったな。監視及びコミュニケーションの確認の為の仕事を横取りしちまって」

「気にしてませんよ。貴方がいつも急に自分勝手に動く事は、既に皆さん知ってますから。しかも、上の許可をちゃんと取ってきているので、何も言えないじゃないですか」

「ハッハッハ!!昔無許可で動いて“収容違反”と勘違いされたからな!!私だって学ぶのさ!!」


 広い監視室の中、少し若めの綺麗な人がポニーテールを揺らしながら此方へとやってくる。


 茶色い髪は地毛なのか染めているのか分からないが、よく手入れされた綺麗なものであった。


 多分この人は研究職の人だな。だって白衣着てるし眼鏡かけてるし。


 この施設で白衣を着ている人は大体研究員だと、隊長も言ってた。


 それにしても、どこかで聞き覚えのある声だ。俺は職員と関わる事がまだ少ないんだけど........


「覚えているか?茜。お前が晴れてアンノウンとなって収容されたあの日、お前に最初に話しかけた人だ」

「こうして顔を合わせて話すのは初めてですね。蓮花花見(れんか はなみ)です」

「........あー!!あのスピーカー越しに話してた人か。途中で隊長にお仕事を取られた」

「そうです。あのお仕事を取られちゃった被害者です」


 通りで聞き覚えのある声だと思ったわけだ。この人は、俺がこの施設に収容されてから初めて話した人なのだ。


 確か、俺の事を“茜”ではなくアンノウンの識別番号と名前で読んだ人でもある。


 あの時なんて言ってたかな。“Ujp-01-98スノーシャークマン、おはようございます。気分はどうですか?”って言ってた気がする。


「おいおいやめてくれよ。私が悪者みたいじゃないか」

「実際悪者ですよ。暇だからと言って職員達を遊びに誘ったり、管理長の部屋に言ってコーヒーを勝手に飲んでたり。雫さんでなければ間違いなく収容室にぶち込まれて厳戒態勢で監視されてますからね?やってること完全にアウトですからね?」

「いいじゃんいいじゃん。ほら、みんな私の監視と実験って言うテイにしてあるんだしさ」

「だとしても困りますよ。貴方一応、アンノウンですからね?監視対象であり、収容対象なんですからね?」


 普段余程好き勝手にやっているのか、小言が止まらない花見さん。


 しかし、本気で怒ってない辺り、うちの隊長は上手いこと人間関係を築けているのだろう。


 花見さん以外にも隊長を見ていた人が何人かいるのだが、彼らもみなどこか呆れた顔はしつつも嫌そうな顔はしていなかった。


「はいはい分かった。分かったから。花見ママは厳しいでちゅねー」

「誰がママですか。雫さんのような大きな子を持った覚えはありませんよ。それで、今日は確か奏音ちゃんが鎮圧したアンノウンの実験を見学しに来たんですよね?」

「そうそう。うちの新入りにこの組織のお仕事を一通り見せてあげようと思ってね。組織とアンノウンの信頼関係と言うのは大事だよ。一部を除いてね」

「それには同意です。特に、私たちとコミュニケーションを取れるアンノウンは」


 花見さんは“案内します”と言うと、俺達をあるひとつのモニターの前まで案内する。


 そこには、黒い機関銃のようなものがポツンとたっていた。


「現在、このアンノウン“Ujp-03-46 キラーマシンガン”は様々な研究が行われています。今回は茜さんがいるという事で、比較的刺激の少ない実験をお見せしましょう」


 花見さんはそう言うと、置いてあったアナウンサーが使いそうなマイクにスイッチを入れる。


 そして、実験を命令した。


「始めてください」

『了解』


 それと同時に、黒い機動部隊の格好をした人が上から降ってきた。


 そして何度か機関銃の上の部分を触り、何やらガチャガチャをいじくり回したあと、そのまま撤収していく。


 一体何がしたかったんだ?


『任務完了。撤収する』

「お疲れ様でした........と、こんな感じに色々なことを実験しそれを監視するのが私達のお仕事です」

「えーと、今回の実験はなんだったんだ?」

「キラーマシンガンの銃弾を回収してもらったんです。既にあのアンノウンは、上への攻撃手段が無いという事が判明しています。おそらく射角が足りないんでしょうね。しかし、どのようにして無限に弾丸を発射しているのかは判明していません。ですので、その弾丸を採取し、その成分や生成条件を研究するのです」

「つまり異常性を見つけ、その解明のために部品を少し回収したって事だ」

「なるほど」


 弾丸の回収をしていたのか。だからガチャガチャしてたんだな。


 俺がその説明に納得していると、変なスイッチが入ってしまったのか急に饒舌になった花見さんがペラペラと語り始める。


「この回収された弾丸を研究するのですが、先ずはどのような物質でできているのかを調査します。おそらく通常の50口径弾丸と変わらないフルメタルジャケット弾のはずですが、機関銃にはその射線確認として曳光弾が混入しているのが一般的です。しかし、実験の過程で曳光弾の混入がなかった事から、このアンノウンは自らの照準に絶対的な自信があると考えられ───────」


 うーん。専門的な言葉を言われても俺にはさっぱりなんですが。


 そのフルなんちゃら弾ってなんですか?曳光弾ってなんですか?


 全くもってさっぱりなお話だ。俺は途中からそれを理解するのを諦めて、右から左へと聞き流していた。


「始まったよ。研究者共の知識披露会。何が何だかさっぱりだろう?」

「うん。なんもわからん」

「この専門用語ばっかりの報告書なんて読んでも、その知識がなければ何も分からないわけだ。だから報告書は、誰が呼んでもある程度理解できる簡易的な奴と、専門的な知識が詰め込まれた事が書かれたものが作成されるのさ。私達が読むのはその簡易的な方。専門的な方は本当に訳が分からん」

「とても合理的で、有難い配慮なのはよく分かったよ。この言葉をまんま報告書にされたら、読む気が失せる」

「同感だ」


 そりゃ分かりやすい報告書を作るわけだ。


 俺は花見さんのような研究者にこの手の話はできる限りしないようにしようと、心に決めたのであった。

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