キラーマシンガン


 アンノウンの研究をする人達と言うのは、このGAには欠かせない人材だ。


 未知なる存在アンノウン。異常性を理解するために様々な分野の人々が、多くの研究を経てその異常性の解明に当たる。


 その分野は多岐に渡るらしく、俺の知らない分野に精通した人も多かった。


 例えば、神秘学や占星学と言ったオカルトチックなことを専門とする研究者や、宇宙物理学や量子力学と言った科学的な事を専門としている研究者もいる。


 宇宙物理学や量子力学と言った実験と計算に基づいて証明された学問はともかく、神秘学や占星学(星の位置で占いをする)は本当に役に立つのか?と思うだろう。


 特に、神という曖昧な存在にに対して懐疑的な者が多い日本人からすれば、その学問は到底意味の無いものに見えてしまう。


 しかし、中には神に由来するアンノウンや伝承に由来するアンノウンと言ったものも存在するらしく、魂や神と言った曖昧な存在に対して研究する者達の力が必要になる事もあるそうだ。


 まぁ、そもそもアンノウンという存在自体が曖昧で正確な事が分からない存在だ。その点で言えば、アンノウンは一種の神や魂といった概念に近い存在とも言える。


「どうだった?アンノウンの研究は」

「見ていて面白かったよ。俺の知らない話が沢山聞けたし。研究者はもれなく全員が変人だってのも分かった」

「ハッハッハ!!アイツらは自分の好きなことになると急に饒舌になるからな。頭のいいオタクだよ。私もたまに捕まって色々と話を聞かされるもんだから、困るね」


 アンノウンの研究およびその監視の見学をした俺は、隊長に連れられて施設の廊下を歩く。


 やはり隊長も研究者に捕まって、あれこれ訳の分からない話を聞かされた経験があるのか、困った顔をしながら笑っていた。


「俺もあんな実験の対象になってるの?」

「なってはいる。だが、本人が意思疎通が可能で大きな人間性を維持しており、尚且つこちらに友好的な場合は経過を観察する事が多いな。一昔前は“アンノウンに人権なんてない!!”と言わんばかりに非人道的な実験もしていたらしいが、それが原因で施設が吹っ飛んだ事があってな........」

「そんなことがあったんだ」

「幸い、アメリカのだだっ広い砂漠で吹っ飛ばされたから、“核実験してました”ってカバーストーリーで何とかなったが、多くの職員の命が奪われ、アンノウン達も脱走した。だから、人間性のあるアンノウンに対して大きなストレスをかける実験はあまり行われないのさ」


 組織にも歴史ありと言った所か。


 人間性のあるアンノウンに対して非人道的な実験を繰り返し、それが原因で暴走。


 気がつけば施設は吹っ飛び、核爆発を起こすレベルの被害を生み出した。


 非人道的な実験をして同じ施設のアンノウンや職員を吹っ飛ばすぐらいなら、仲良くして上手く情報を取り出せた方が危険性も少なく今後の為にもなると判断したのだろう。


 その失敗のおかげで、俺は今こうしてある程度の自由と人権を保証されている訳だ。


「そのアンノウンには感謝しないとな。お陰で俺は人間らしさを失わずに済んでいる訳だし」

「全くだ。ただ、例外もあるんだぞ?収容しても勝手に逃げ出したり、破壊よりも収容の方が圧倒的にデメリットが大きいと、例え相手が人型で意思疎通が可能で良い奴だったとしても破壊されたりする事もある」

「異常性次第ってことだね」

「そういう訳だ。くっそ良い奴で優しいやつだけど、歩くだけで世界が滅ぶようなやつは破壊するしかないだろう?つまりはそういう事さ」


 基本は人道的な試みをするが、それには限度がありますよという訳だ。


 あたり前だわな。むしろ、何から何まで収容しようとするあの某財団がおかしい。


 世界が滅ぶような危険性を孕んでいるやつは破壊しろよ。そもそも破壊ができない。破壊したらもっとやばいなら話は別だが。


「今回の機関銃はそこら辺は問題なかった。そもそも人ですらないしな。んで、これがその報告書だ」

「........なんで持ってるの?」

「パクってきたからに決まってるだろう?ちょろいもんだぜ」


 ........うちの隊長は厳重に収容した方がいい気がしてきた。


 そりゃ、職員達から呆れられた顔をされる訳だ。


 俺はこんな上司を持ってしまったことに軽く頭を抱えたくなりながらも、その報告書を受け取って目を通してみることにした。


 えーと、今回は物質系のアンノウンだから03のナンバーが入ってたはずである。


 ───────


 Ujp-03-46 キラーマシンガン


 危険度レベル

 kill


 状況

 収容


 説明

 ・Ujp-03-46は1.5mほどの高さを持った自立した機関銃です。新潟県■■にて、2人の猟師が行方不明となりその通報によって発覚しました。

 ・Ujp-03-46の撃ち出す弾丸は、50口径(12.7×99mm)です。

 ・Ujp-03-46を中心に、半径150m以内に許可なく入らないでください。撃ち抜かれて死にます。

 ・Ujp-03-46はその危険性はありながらも、比較的管理が容易なため研究、エネルギー生産のために収容されます。


 詳細

 ・Ujp-03-46は、自身を中心に半径150m以内の生物に反応し弾丸を撃ち込む異常性を所持しています。

 ・Ujp-03-46の使用する弾丸は通常の50口径弾と同じものです。また、これらはUjp-03-46の異常性によって生産されていると考えられています。

 ・Ujp-03-46は、生物を感知する赤外線の信号を発している事が明らかとなっています。赤外線を乱す機器を使った実験はまだ行われておりません。


 ────────


 うーん。普通。


 今まで見てきた報告書の中で、いちばん普通でなんともコメントしづらい報告書であった。


 マッチョちゃんとか、乗ってるカーの報告書って面白かったんだな。


「何だこのつまんねぇ報告書はって顔だな」

「つまらないというか、普通過ぎて反応に困ってる。要は150m範囲内に入ったやつはぶち抜くぞって事でしょ?」

「そうだな。マッチョちゃんやあのノリノリ車みたいなネタ感は無いわな」


 しかも、別に不気味さも何も感じない。本当に面白みが何も無い報告書だ。


 これが普通なのかな?マッチョちゃんの様な一発ネタみたいなやつは、意外と少ないのかもしれない。


「これが普通なの?」

「どうかな?できる限り面白くを意識して作られているのが報告書だ。読む側に興味を持たせて、全文に目を通してもらうのが目的でな。だから、多分書き直されるぞ」


 書き直しもあるんだ。


 そりゃそうか。アンノウンについて判明したことがあれば、その都度情報を更新し続けなければならない。


 既に破壊されたものはともかく、研究が続けられる収容されたものや監視中のものには新たな事柄が加わるだろう。


「面白くなったらまた読もうかな」

「そうするといい。暇つぶしに報告書を読み直していたりすると、面白くなった報告書と出会うこともある。偶に傑作が来るから、結構楽しいんだぞ?」

「へぇ。それは楽しみだね」


 このUjp-03-46キラーマシンガンの報告書も、時間が経てば面白い報告書に変わっているかもしれない。


 俺はそう思いながら、またこの報告書と出会う日を楽しみにしているとふと思い出したかのように隊長は言った。


「あ、そういえば家に顔を出していい許可が出てたぞ。お袋さん達に会ってくるといい」

「........それ、滅茶苦茶重要なんだが?」

「すまんすまん忘れてた」


 このッ........!!


 俺はヘラヘラと笑う隊長に軽い殺意が湧きながらも、久々に会える家族との再会を楽しみにするのであった。


 そしてまさか、その帰り道にあんな事になるとは思いもしていなかったのだ。




【神秘学】

 別名オカルト。日本では西洋の用法だけでなく、「怪奇・異様」な印象を受けるものを広く含む雑多で曖昧な言葉としても使われている。

 19世紀の西洋では、現代ではオカルトの範疇とされる「催眠術」や「動物磁気」の研究は、個としての意識の限界を超える何かを求める、科学として、医学者や物理学者によって実践されてきた。

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