危険度レベルは信じすぎるな


 銃弾を乱射するアンノウンを見事無力化し、鎮圧に成功した奏音先輩。


 まさか、厨二病っぽい言動が能力として、本人のアイデンティティとして存在しているとは思いもしなかった。


 俺はアンノウンに食われて異常性を発現したタイプであったが、自力でアンノウンになるタイプもあるんだな。


 しかも、馬鹿みたいに強い。


 人の目では追えない程の速度で動き、銃弾を叩き落とす。


 よくSNSやネット掲示板で“ヤ〇チャ視点”とかネタで言われていたりするが、本当にヤム〇ャ視点であった。


 なんも分からん。あまりにも高速すぎてそもそも見えないし、多分見えていたとしても身体が動くかどうかは別問題。


 同じアンノウンとしての格が違う。そんな気がした。


 アンノウンを鎮圧した後、後方で待機していた回収班と呼ばれるアンノウンを回収することを専門とした部隊がやってきて、現場は引き継がれた。


 頭が吹っ飛ばされた猟師の死体も回収され、研究のために一度解剖された後にカバーストーリー(辻褄を合わせるための作り話)と共に遺族へ渡されるらしい。


 流石のGAも、死んだ人を蘇らせる術は持っていないようだ。


 そんなこんなで、この機動部隊の仕事がとても危険で残酷であるという事をしっかりと認識した翌日。


 俺はその収容されたアンノウンを見に行く事となった。


「今回のアンノウンは機関銃らしいな。どうやってそこに出現したのかは未だに調査中だが、多くのことは既に判明しているらしいぞ」

「まぁ、あれだけバカスカ撃ちまくってて、銃でもなんでもない物でしたってのは無理があるわな」

「半径150m以内に入った生物を感知して、無差別に攻撃するらしい。あの山の周囲には動物の死体が幾つか転がっていたそうだ」

「へぇ。そうなんだ。ところで、それらの異常性はどうやって見つけてるんだ?被害が出たところから推測するだけじゃ限界があるだろ」


 まだ半日近くしか経っていないのに、既にアンノウンについての異常性がある程度分かっていることに驚きつつ、俺は疑問を口にした。


 アンノウンの異常性を理解する為には、多くの実験が必要であると俺は考えている。


 現場で起きた事例から推測するのも大事だが、その推測が正しいとは限らない。


 一度ちゃんと実験をして、その特性を知ることが必要となるだろう。


「もちろん、ある程度の実験は必要だな。乗ってるカーのように安全であると推測されていたとしても、実際に研究してみたらあら不思議。これ下手したら人類滅ぶくね?みたいな奴は稀にある」

「危険度レベルがsafe(まぁ、安全性)からapocalypse(世界終わるよヤベーよ)になるって訳か?」

「流石にそこまで極端なやつはほぼ居ないが、kill(人をぶっ殺せる)からperish(国が滅ぶよ)になるやつは意外といるんだ。危険度レベルなんて、その時分かっている異常性とその他の要因から導き出される“推定”でしかないからな」


 危険度レベル。


 アンノウンの異常性が与える被害範囲や、その危険性を示したもの。しかし、これは絶対では無い。


 俺はまだそのようなものに遭遇したことは無いが、隊長の口ぶりからして危険度レベルが変わる事例は少なくないのだろう。


「逆に、世界が滅ぶよヤベーよみたいなアンノウンが、実は異常性を持っておらず普通だったなんて事もあるしな」

「そんなのもあるのか」

「科学の進歩や技術の発展により、それが自然と起こりうることだったと判明するのさ。そうだな........分かりやすい例で言うと“日食”とかかな?かつては太陽が神の怒りや災いによって隠されただのなんだの言われていたが、今じゃ月と太陽の軌道でそうなるだけだと分かっているだろう?」


 なるほど。それはとても分かりやすい例だな。


 月が太陽を覆い隠してしまう“日食”という現象。


 まだ地動説が生まれてもいない時代から観測されており、古代中国では紀元前2000年も前からその観測が行われていたと言う。


 しかし、彼らはそれが自然と起こりうるものだとは知らなかった。


 ある者は神の怒りだと騒ぎ、ある物は災いの前兆だと言う。


 今となってはその原理が解明され、遠近法によって月が太陽を隠しているだけの現象に過ぎないが、古代の人々から見たら未知なる現象、つまり、アンノウンと言っても過言では無いわけだ。


「もしかしたら、私たちもいつの日かアンノウンではなくちょっと変わった人間として危険度レベルが変わるかもしれんな」

「いや、無理でしょ。さすがにそれは。銃弾よりも早く動く人間は、人とは呼べないよ」

「ハッハッハ!!それもそうだな!!っと、話が逸れたな。実験をどうやって行っているかについてだったな。簡単さ。実験体を用意してそいつに色々とやらせればいい」


 その言い方はまるで実験動物モルモットを扱っているかのような気軽さであった。


「茜のようなちょっと特殊な個体は除いて、基本的にアンノウンの調査では“実験体”が使われる。さて、ここで問題だ茜くん。この実験体は誰だと思う?ヒントは“死んでも問題がない存在”だ」

「........死刑囚だろ?彼らは、既に死ぬことが確定している。例え実験で死んだとしても、死刑執行されましたよって言えば、表向きには問題もない」

「大正解だ。正確には死刑囚及び、救いようのない極悪犯だな。昨今、死刑制度が無い国も多くある。どうやっても懲役が寿命を超えるような奴や、終身刑を言い渡されているやつを使っているのさ。日本だけだと足りないから、海外から仕入れてきていたりもする。犯罪者共が品切れで実験できないなんてこともあるらしいがな」


 そんな事だろうとは思っていたよ。


 倫理や組織の理念からして、そこら辺の人間を捕まえて実験体に使うなんてことは考えられない。


 このGAと言う組織に来てから6日が経ったが、彼らは思っている以上にフレンドリーで友好的なのだ。


 そんな彼らが、そこら辺の人を使って実験するとは思えない。


 では、何を使うのか?


 死んでも問題なく、職員の精神的にも楽な“犯罪者”を使うのである。


 死刑囚はかなり使いやすいだろう。元々死ぬ予定の人間だ。今後の人類のために死ねて光栄に思えとか言われてそうである。


「司法取引で刑期を軽くしてやるから実験に参加しろと持ち掛け、承諾した奴は実験職員として配属される。ちなみに、生活は刑務所とそう変わらん。そして、死ぬまで扱き使われる訳だ。中にはスゲェ優秀さを発揮して、一般職員に昇格するやつも居るけどな」

「本当に刑期は軽くなるのか?」

「まさか。人殺しをしたヤツや、幼い子供に手を出したやつが許されるとでも?情状酌量の余地があるならまだしも、ここに流れ着くやつは基本救いようが無いやつばかりだからな。慈悲は無い。記憶改竄でもして、刑期を軽くするという取引を無かったことにするのさ」


 人権なんて言葉はクソ喰らえって感じだな。まぁ妥当といえば妥当なのか?


 俺としては、死刑囚や犯罪者を持ってこれるだけの権力とツテがある方が驚きだが。


 やはり、この組織を敵に回してはならない。逃げ出そうとしなかった俺は、正しい選択をしたのだ。


 逃げ出していたら、ワンチャン殺されていたかもしれないと思うとヤベーな。


「ま、そんな訳だから実験体に同情なんてするなよ」

「........今回は実験とかないよな?」

「安心しろ。流石に入ってきて三日目の新人にんなもの見せねぇよ」


 俺は内心ホッとしつつ、いつの日かその残酷な光景を見なければならないという事実から目を背けるのであった。

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