人の死
とある田舎町にまでやってきた俺達は、アンノウンが存在していると言う山の麓に車を止める。
時刻は既に夕方の五時過ぎ。
冬の時期というのは本当に日が落ちるのが早く、既に辺りは暗くなり始めていた。
暗い中、山に入る行為は自殺に近い。出来ることなら日が出ている間に山の中に入りたいものだが、これ以上アンノウンによる被害を出さないためにも迅速に処理をすることが求められているのだろう。
GAという組織は、人々の為にあり、人類の滅亡を、被害を防ぐためにあるのだ。
「ここにアンノウンがいるのか」
「既に山への立ち入りを行政機関にお願いして禁止してある。この山にはイノシシが出るらしくてな。この時期には猟師がライフル片手に山へと入るらしいんだが、ある日、猟師の一人が帰ってこなったそうだ」
「アンノウンによる被害によって?」
「あぁ。更にその翌日にもう1人の猟師も帰ってこず、警察に捜索願いが出されたことで事件が発覚。念の為に観測班が調査を行ったところ、アンノウンの反応が見つかり業務が警察からこちらに引き継がれたって訳だ」
前回の爆音でEDMを流す車とは違い、今回のアンノウンは既に被害が出ている。
車の中で今回のアンノウンについて軽い報告書を読んだが、恐らく人が死ぬレベルの事件が起きていた。
機動部隊が既に投入されていたらしいのだが、1人が重症となった為に撤退しているらしい。
その隊員は今も治療中なのだとか。
あの物騒な装備を身に纏った人達でも敵わない相手。これ以上の被害を避けるために、u機動部隊を使うのは妥当な判断だと言えるだろう。
ちなみに、隊長曰く、こんな感じで急に仕事が入ることはよくあるらしい。
u機動部隊は日本各地を転々とすることが多く、施設にいる時に使い勝手のいい戦力として色々と任されるんだとか。
「機動部隊員も一人死にかけた。油断するなよ」
「大丈夫。私が全部壊してあげるから!!報告書を読んだ限り、この右目に封印された力を使わざるを得ない程の相手でもなさそうだしね」
「推定危険度レベルはkillだったね。まぁ、茜が遭遇したアンノウンはBreakだったし、それに比べたらマシかな?」
えっ、俺が遭遇したアンノウンって危険度レベルBreakだったの?
アンノウンが与える被害の規模を表した危険度レベル。
色々と複雑な要因が絡まりあってその危険度レベルを出しているため、強さや異常性だけでそのレベルが決められる訳では無いが、基本的に影響の大きいアンノウンは危険度レベルが高い。
そして、Breakと言えば“街が破壊される程度”の規模だ。
その街の規模は隊長曰く“日本で言うと県が吹っ飛ぶと考えていいかな”との事らしい。
俺、そんなヤベー奴と鬼ごっこしてたんだ。
「油断するなって言ってるでしょーが。怪我をしても治療してやんねぇぞ。ったく。茜は私から離れるなよ。先頭は奏音ちゃん、後方は瀬名。今回のアンノウンは出来れば鎮圧後に収容したいらしい」
「“出来れば”って事は、破壊してもいいのかな?」
「構わんよ。あくまでも余裕があったらとの事らしいし、現場の判断に任せるんだと」
「わかった」
こうして、暗い空の下で山登りが始まる。
雪が山を白く染め上げ、一歩を踏み出す度に足が沈む中、山の中をゆっくりと歩いていく。
一応、今回は雪山登りという事で、俺の履いている靴はそれに適したものを支給されている。
お陰で、かなり登りやすい。
暫く山の中を歩いていると、ピタリと奏音先輩の足が止まる。
それに釣られて俺達の足も止まり、前を見た。
「........後輩は目を瞑った方がいいかも。行方不明になっていた猟師の死体と思わしきものがあるよ。冬だからかな?随分と綺麗なままだね」
「これで遺族に遺体を渡してやれるな。研究のために一度回収されて、検死されるだろうが。茜、心してその光景を見るといい。私達がやっている仕事は、こういう現場なんだよ。奏音ちゃん、どいて」
「........」
俺を気遣ったのか、俺から死体を見えないようにしていた先輩が体を横に動かす。
すると、そこには頭が無い死体が転がっていた。
グロいな。しかもかなり。
俺も男であり、グロいゲームは多少なりともやってきた。喧嘩系の漫画なんかも読んでいたし、割と耐性はある方だとは思う。
そのお陰なのか、はたまた綺麗な死に方をしているお陰か。
あまり気持ち悪さは感じなかった。
ただ、気分は悪い。
人が死ぬ姿を見て、心の底から笑うようなやつは人間では無いのだ。
「........思っていたよりは平気だな。多分、内蔵とか脳が見えてないからってのはあるだろうが。気分は最悪だ」
「今後、目の前で人を殺される光景も見る事になるし、人型のアンノウンを殺す事もある。あまり子供にこういう事を言いたくは無いが、慣れてくれ。人の死に」
「........」
「時には親しいやつも死ぬ。そいつの為に流せる涙も枯らせとは言わないが、何も知らない赤の他人が死んだ姿を見ても平然とできるだけの精神は持っておくように」
俺は自分が思っている以上に過酷で残酷な世界に身を置いているのだと、この時初めて理解した。
この組織に来てから、マッチョが売りの少女や乗ってるカーと言ったネタに寄った人に被害を与えないアンノウンばかりを見ていたので、心のどこかでアンノウンはそこまで危険なものでは無いと錯覚してしまっていたのだ。
俺が最初に出会ったアンノウンは俺を食い殺そうとしただろうが、結果的に俺は生存し、その過程で誰かを殺した姿も見ていない。
だから、無意識にアンノウンを軽く見ていたのだろう。
「今後、こう言った奴らを相手にするのか」
「そうだ。特に私達の場合はこのような人を殺したり、精神的な被害を与えるアンノウンと対峙する事が多くなる。それが仕事だからな。嫌ならまだ引き返せるぞ?実験台の方が........こういう面では楽だろう」
「いや、ここまで来た以上俺はやるよ。自由ってのは一度知ると手放せないものなんだ」
「ぷはは!!ここで“正義”だの“救済”だの言わず、自分の欲を言う辺り茜は人間らしさが強いな。いいね。そういう正直者は────」
と、隊長が言いかけたその時、凄まじい速度で隊長の左腕が動く。
その直後、ズドォン!!と腹に響く重たい音が山の中に鳴り響いた。
「おいおい、ウチの新入りが世界の厳しさを学んでいる最中だってのに、空気が読めてねぇぞ。
「........っ!!」
一瞬、何が起きたのか分からなかったが、目の前で隊長の左腕........正確には人差し指と中指に挟まれた弾丸のようなものを見て俺は何となく状況を理解した。
俺は今、死にかけたのだ。
アンノウンによって撃ち込まれた弾丸を止めてもらわなかったら、俺はそこにいる猟師と同じく頭のない死体になっていた事だろう。
反応できなかった。
音が来るよりも先に弾丸が来ていたのだから、音を聞いた時には俺の頭は吹っ飛んでいたかもしれない。
「あ、ありがとう隊長」
「どうってことねぇよ。それにしても、なんつーもん撃ってんだこのイカレアンノウンは。50口径の弾丸だぞ」
「対物ライフルが使う弾丸じゃん。そんなので頭を撃たれたら、そりゃ頭が吹っ飛ぶよ。むしろ、よく頭だけで済んだね」
「全くだね。さて、お仕事の時間だよ。僕は周囲の安全確保をしておくから、奏音ちゃんよろしく」
「任せて。人を殺す悪魔は天使たる私が裁きを下すから」
こうして、アンノウンとの戦闘が幕を開けた。
【対物ライフル】
対物ライフルは、重機関銃や機関砲などに使用される大口径弾を使用する銃である。重い大口径弾の優れた弾道直進性を活かし、一般の小銃弾を使用する狙撃銃をはるかに上回る距離で狙撃を行える。
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