出撃


 またしてもアンノウンが出現したという報告を受け、訓練場に奏音先輩が飛び込んでくる。


 その話を聞いた隊長は、一旦俺の訓練を止めてアンノウンの鎮圧へと向かう事となった。


 俺はまだu機動部隊に所属して三日目のペーペー。


 訓練を受けている最中であり、アンノウンの鎮圧はできない。


 身体的に本来の人間よりも優れている異常性の確認はできたものの、それ以外の異常性をハッキリと分かっている訳では無いのだ。


 しかし、俺も既に隊員の一人には違いない。


 俺も結局連れていかれる流れとなり、今は武装した他の仲間達と共に車に乗っていた。


「その装備、俺にも支給されたりするのか?」

「もちろん支給される。それも、茜の専用のものがな。私達u機動部隊はかなり特別な存在だ。制御が効くアンノウンによって構成された機動部隊であり、その戦力は日本一とも言われている。そんな貴重な戦力をなるべく殺さないためにも、本人の能力や性格等に合った装備を特注で作ってくれるのさ。見た目は基本同じだがな」


 そう言いながら、運転席で車を走らせる隊長。


 半袖短パンサンダルとか言う、冬場でも小学生のような格好をしていた隊長だが、流石にアンノウンの鎮圧となれば話が違うのかちゃんとした装備を身につけていた。


 瀬名が来ている装備と同じく、傭兵のような格好だな。


 黒を基調とした服装であり、その格好のいかつさを周囲に見られないようにする為かコートのような、マントのような外套。


 激しい動きをしても脱げないように、脛を覆う程まである頑丈そうなブーツ。


 膝には膝あてのようなものがあり、更には腰と胸の部分には小さなポーチが幾つもある。


 おそらく、そこに装備品を入れたりしているのだろう。俺の記憶が確かならば、瀬名の展開する武器はこのポーチから取り出されていたはずだ。


 そして、手を保護する指ぬきグローブ。手のひらなどは保護しつつ、指先は素手のまま。手袋をしたまま紐を結ぶのはやりづらい。細かい動きができるように、指先の保護は無くしているのが分かる。


 これが、u機動部隊の標準的な装備なのだろう。正直、滅茶苦茶カッコイイ。


「具体的にはどんな機能があるんだ?」

「防弾、衝撃吸収はもちろん、この外套は光学迷彩を搭載している。周囲の景色に身を隠すなんてこともできるし、私の場合は義手の左腕に弾丸が自動で装填されるシステムなんかも着いているぞ」

「光学迷彩って........現状完璧に作るのは無理なんじゃ?」

「それが出来ちまうのがGAという組織なのさ。未知のアンノウンの研究を主にしているんだぞ?私達が知らないロジカルはそれらによって齎される。時には人を殺すアンノウンだが、技術的進歩と言う点では役に立つな」


 サラッと“光学迷彩を搭載している”と言われ、ここが地球ではなくSFの世界なのでは?と思ってしまった俺。


 光学迷彩は、簡単に言えば透明になれる夢のアイテムだ。主にSF系の物語に出てくることが多いが、科学的な再現は難しいとされている。


 そんなものを作ってしまえるとは........そりゃ軍事力を盾に国家相手にも意見を通せる訳だ。


 世界征服を夢に見れば、GAという組織はあっという間に世界を掌握するだろう。


 しかし、それをしないのは、組織があくまでもその武力の対象がアンノウンであると決めているから。


 裏で世界を守る組織。その言葉は、あながち間違いでも無いかもしれない。


「へぇ。ところで、奏音先輩は装備が違うんだな。装備というか、見た目が」


 奏音先輩の装備は、隊長と瀬名の着ている装備とは大分違う。


 特に違うのは、外套の部分。


 二人は黒を基調とした、首元にマフラーのように巻きついているものに対して、奏音先輩は黒と白のボーダーラインが入ったコートであった。


 しかも、首元はちょっとモフっとしている。


 他にも、軍服と言うよりはちょっと厨二チックな服装が目立っていた。


 つーかこれ、普段着に着てたやつだよね?


「あーうん。まぁ、最低限の機能は備わっているんだが、ほら、奏音ちゃんはテンションファイターだからさ........」

「........あぁ。かっこいい方がいいのか」


 奏音先輩は、誰が見ても中学二年生の思考に囚われている。


 その右目の眼帯はもちろん、言動も大分厨二っぽいのだ。


 だが、少し知識が足りないのか天使と悪魔の話をしていても首を傾げることがある。


 守護天使ガブリエルって、大天使の階級で熾天使ではなかったよな?とか。


 そんなちょっと知識の足らない可愛い厨二病患者ちゃんなのだが、一体どんな異常性を持っているのか気になって仕方がない。


 なんかカッコイイ攻撃とかするのかな?


 ちなみに、現在その厨二ちゃんはイヤホンをして音楽を聴いているので俺達の会話は聞こえていなかったりする。


 多分、聞いている音楽は月光だな。


「奏音ちゃんは確かにアレだけど、かなり強いんだよ。僕と模擬戦をした時は、タコ殴りにされたし」

「そうなの?」

「銃弾を当たり前のように避ける上に、死角からの攻撃を勘で避けられたらどうしようもないよ」

「あれは面白かったな。20過ぎの男が、中学生女子に蹴られて殴られてボコボコにされるんだぜ?男しての威厳は無いわな」

「やめてくださいよ隊長」


 年下の女の子に、フルボッコにされたという過去を持つ瀬名は隊長にからかわれて顔を歪める。


 そんなに強いんだ。見た目はただの........いや、現在進行形で黒歴史を作っている女の子なのに。


「見てみたいか?奏音ちゃんが戦うところ」

「もちろん見てみたいよ。同じくアンノウンという存在として、どのように戦うのかは気になるしね」

「なら、今回の鎮圧は奏音ちゃんを主役にさせてあげるか。瀬名、お前は周囲の安全確保を。私はこの新入りの護衛をしておく」

「分かりました........あ、ちゃんと鎮圧前にデータはチェックしてくださいね?今回は既に被害が出ていますから」

「分かってるよ。あ、そうだ茜。今回は心の覚悟をしておけよ。恐らく、人の死体を見ることになる」

「えっ........」


 こうして俺達は、出現したアンノウンの場所へと向かっていく。


 そして俺は知ることになるのであった。


 アンノウンとは本来人類の敵となりうる存在であり、それらを鎮圧するこの仕事がどれほど危険で危ないのかを。


 アンノウンによって殺された人々の死体を。




【光学迷彩】

 視覚的(光学的)に対象を透明化する技術の事である。自然界ではカメレオンやイカ、タコ等の保護色を変える擬態などがみられるが、人間の手による光学迷彩はSF作品等に登場する未来の科学技術であった。

 医学などでは、手術中の医師の手袋に患部を投影し、患部がいつでも目視できるようにする(医師の手が患部の上にかぶさり、患部が見えなくなるのを防ぐ)といった、コンピュータ支援外科など限定的な用途での研究はかなり進んでいる。




 新潟県のとある場所。猪やその他の動物も住む山の中、一人の猟師が狩りを行っていた。


「こっちにいるのか?」

「ワン!!」


 相棒の猟犬と共に、山の中を歩く。


 その手には、猪を捉えるための銃が握られていた。


 今日は猪と命のやり取りが始まるはず。人は道具という文明を手にしたが、その道具が使えなければ猪相手に殺される危険性すらもある程に人は脆い。


 周囲を警戒しつつイノシシの後を追いかけていたその時、


 カチッ。


 と、機械的な音が猟師の耳に入った。


「ん?何の音────」


 ズドォン!!


 鳴り響く銃声。それは、猟師の頭蓋骨を打ち砕く。


「キャン!!キャンキャ────」


 ズドォン!!


 2発目の銃声。


 それは犬の鳴き声を止める。


「........」


 銃声を鳴り響かせたのは一体何者なのか。猟師がその存在を知ることは、永遠にない。

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