社会見学
組織の構造やアンノウンについて色々と学んでいると、いきなりアンノウンの鎮圧及び収容の様子を見に行こうと言われた。
俺は“いきなり?”とは思いつつも、拒否権は無いので大人しく従うしかない。
収容されていた時に来ていた服から、ごく一般的な普通の見た目の服を着させられた俺は車で移動していた。
「意外と見た目はみんな普通なんだな」
「機動部隊の話か?私達は今回見学だから服装は自由だが、前を走る車に乗っている奴らはちゃんと装備を身につけているぞ」
「えっ?そうなの?」
機動部隊。
GAにおける実働部隊の一つであり、アンノウンに対しての主戦力とも言える部隊。
主な仕事は発生したアンノウンの鎮圧と収容、場合によっては破壊。
俺が所属する事となったu機動部隊も機動部隊の一つであり、俺の仕事場とも言えるわけだ。
機動部隊員はそれぞれ特殊な訓練をされており、武器の携帯を許可されている。GAの中で最も武力が強い部隊と言えるだろう。
「GAから支給された武器や装備がある。実際に見た方が早いかもな」
「あれだね。僕が展開していた武器を覚えてる?あれだよ」
「四角い箱の形をしてる奴だね。あれはあれでかっこいいんだよ?」
ちなみに、今回は雫だけではなく奏音先輩と瀬名も付いてきている。
どうやら暇だったらしく、俺の社会見学に着いてきたようだ。
「今回のアンノウンは現状、比較的安全だと言われている。なんでも、ゴリゴリのEDMを流す車らしいぞ?」
「それ、周囲への迷惑を考えないやつが音楽を切り忘れただけなんじゃ........」
「ハッハッハ!!私達が動いている時点でそれは無いな。観測班が異常を検知しているし」
観測班。
確か、アンノウンによって引き起こされた異常を観測する人達の事だったはずだ。
当たり前だが、異常現象とは観測されない限りそれを異常と知る術はない。
どんな手段を使っているのかは知らないが、アンノウンを見つけるための術を身につけたのが彼らなのである。
ある意味、組織の中で最も重要な存在と言えるだろう。観測ができないと、そもそもGAはアンノウンの存在を知ることすらできないのだから。
「俺もその異常性を感知されたって事だよな?」
「そうだな。ぶっ倒れた後に検査をしたらあら不思議。オマエ、人間ジャナイ!!って判断されたわけだ。アンノウンの中には、本人の自覚が無くとも異常性を孕んでいる場合もある。基本的にはそれでもいいんだが、機動部隊員として入ってきた以上は、ちゃんとその異常性を使えるようになって貰わないとな」
「........制御出来なかったら?」
「安心しな。茜ならできる」
何を根拠に言っているんだ。
俺が未だに自分の異常性について理解していない事に不安を感じていると、助手席に座っていた奏音先輩が話しかけてくる。
彼女は以前の歓迎会で話したのだが、うん。まぁ、予想通りの子であった。
右目の眼帯に黒を基調とした白のボーダーが入ったコート。更にツインテールの中に入ったピンクのメッシュ。
........何が言いたいのかと言うと、彼女は中学二年生の男子と同じ病気に掛かっているという事である。
話した感じ、結構いい子ではありそうなんだけどね。
「大丈夫よ。私も最初は力の制御が上手くできなかったけど、自然と身についたしね。封印されし右目の力を抑えるのが大変だったんだけど、慣れるとどうとでもなるよ」
「そう........なのか?実際にやったことがないから分からないな」
「僕も最初は制御できてなかったから大丈夫。組織としても力の制御をして貰った方が助かるから、色々と手助けしてくれると思うよ」
不安に思った俺を安心させるためか、奏音先輩と瀬名が“大丈夫”と言ってくる。
また後に訓練をする事となるだろうが、その時に色々と苦労するかもしれないな。
下手をすれば実験台に逆戻りの可能性だって有り得る。
文字通り死ぬ気で頑張らないと........
「はいはい。茜はテストの点数が平均点以上取れる頭のいい子なんだから、きっと出来るさ。さて、着いたぞ」
「バカにしてるよな?あれ絶対にバカにしてるよな?」
「バカにしてるねぇ。単位が取れればそれでいいのに」
サラッと雫にディスられつつも、目的地に到着。
今回の舞台はとあるスーパーマーケットの立体駐車場の1つらしい。
「既に現場は封鎖してある。表向きには、何らかのトラブルが起きたって事にしてあるだろうな」
「何らかのトラブルって........雑すぎないか?」
「案外人ってのはそれで信じてしまうものさ。そして翌日にはケロッと忘れている。ほら見ろよ。アンノウンという異常存在が近くにいるはずなのに、何も知らない奴らは当たり前のように買い物に出かける。今日の晩御飯を何にしようか考えているんだよ」
そうか。彼らはそもそもアンノウンという存在を知らない。
何らかのトラブルが起きましたと言われれば、“そうか”としか思わないのだ。
しかも、今回封鎖しているのは立体駐車場のみ。
普通に買い物できるとなれば、誰も文句は言わないだろう。今日は月曜日で平日だし。
「雫さん。現時刻より我々はアンノウンの鎮圧を開始します。万が一の時はお願いしますね」
「おー。とは言っても、そんなに危険な異常が観測されている訳でもないから、安全だとは思うけどな。こっちは新入りがいるんだし、かっこよく頼むわ」
「無理ですよ。俺達の舞台はおっさんばっかなんですから。歳をとると、安全な選択しかできませんよ」
「ハッハッハ!!30そこそこの癖にもうおっさん気取りか?まだまだ若いっての!!」
機動部隊の隊長だと思わしき人物が、うちの隊長に話しかける。
どうやら、万が一の時の保険を俺達は兼ねているらしい。
日本支部の中で最強格の機動部隊らしいからな。このu機動部隊と言うのは。
保険だと思われても仕方がないだろう。
今回、アンノウンの鎮圧の為に駆り出された機動部隊の隊員は全部で六人。
こんなに少なくていいのか?とは思うが、恐らく推定危険度が低い事と大勢で移動すると目立つ為人数を絞っていると思われる。
ただ戦って鎮圧するのではなく、周囲にも気を使わなければならない。
俺が思っている以上に、アンノウンの鎮圧は面倒なのかもしれない。
車から降りて、徒歩で立体駐車場を昇っていく。
途中、警備をしていた者に止められたが、何かを見せるとすんなりと後を通された。
そして、三階に到着する少し前になると、彼らは手のひらサイズの箱を取り出す。
そして、地面に落として踏みつけると、踏みつけた足から侵食を始めて最終的に黒くてゴツイ戦闘服へと姿を変える。
顔にも仮面が追加されており、その変身する姿は某昆虫のヒーローのような感じであった。
見た目は完全に敵役だが。
更には、いつの間にか銃器がその手に握られている。
俺は銃に詳しくないので分からないが、黒いアサルトライフルだ。
「あれが装備?」
「そうだ。組織が開発した、携帯型戦闘着タケミカヅチだ。質量保存の法則とかガン無視した、その箱そのものが最早アンノウンと言える代物だな」
「えっ、アンノウンなのあれ」
「ある意味ではアンノウンだ。物体の質量や面積を完全に無視してるんだからな。ただアンノウンと違う点は、現代に知られている技術では不可能と言うだけであって、大きく発展した組織の技術力では作れるという事だ。私達のようなそんな馬鹿げた技術力を持った奴らでも解明できない存在と違って、あちらは原理を全て解明されている。当たり前だわな。自分たちで作ったんだし」
「近未来の技術を先取りしたみたいな?」
「あーそんな感じ。ちょっとしたSFって感じだな。フィクションでは無いが」
なるほど。とりあえず組織の技術力がヤベーってことはよく分かった。
やっぱり逆らったり逃げたりしたらダメだなこりゃ、この組織の中で上手く生きていく術を知った方が良さそうだ。
俺はそう思いながら、あの装備俺にも支給されたりするのかなと僅かに期待してしまうのであった。
だってカッコイイじゃん!!俺もやってみたい!!
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