マッチョが売りの少女
u機動部隊に所属することが決まり、俺と同じくアンノウンとして人類を守る立場である人達と顔を合わせた。
パッと見は人間。しかし、彼らは現代科学では説明のできない異常存在である。
どの様な異常性を孕んでいるのかは分からないが、少なくとも他のアンノウンに対して抵抗できるだけの強さを持っているのだろう。
ささやかな歓迎会が開かれた翌日。
俺はこの組織について様々なことを学ぶ事となった。
組織の理念や、組織構造。
普段どのようにして組織が表の社会に馴染んでいるのか等。
このGAという組織に所属する上で必要な知識を詰め込まれ、俺は学校のテスト前日の詰め込み勉強をしている気分になった。
こんな所でも勉強........大人になっても勉強からは逃れられないなんて聞いたことがあるが、その言葉は間違ってないかも。
ただ、あまりにも非現実的すぎる場所で暫く過ごしていた為か、何も余計なことを考えなくてもいい勉強は少しばかり心地が良かった。
「覚えが早いね。若い子の頭は柔軟で羨ましいよ」
「仮にも現役だからね。テストも平均点はちゃんと取ってた」
「いや、そこは80点ぐらい取ってから自慢しようよ」
授業をしてくれているのは、隊長こと雨宮雫。
彼女はどうもかなりの古参職員らしく、昨日顔を合わせた鈴仙奏音先輩や丸魔瀬名にも組織の事を教えていたらしい。
「組織の大体の図式は分かったと思う。まぁ、ぶっちゃけた話をすると、みんなそこまで上とか下とか気にしてないから忘れてもいいんだけどね」
「そうなのか?出世争いとかありそうなものだが........」
「アンノウンとやり合わなきゃ行けないってのに、人間同士で争ってどうするのさ。GAのトップである“理事会”以外は基本的にみんな同じ扱いなんだよ。多少ライバル視する事はあっても、それで喧嘩すればかなりキツイ罰を貰うしな。組織の輪を乱す者は徹底的に排除されるのさ。だから、自然と出世とかしにしない奴らで固まる」
「なるほど。確かに人類で団結しなきゃ行けない時に自分の事しか考えないやつは要らないわな。どんなに優秀でも」
「ま、最悪の場合は性格を変えさせちまえばいいんだがな!!アッハッハッハッハッ!!」
サラッと怖い事を口にした雫。
それってつまり、相手の性格を強制的に変えさせる手段があるってことだよな?
現代の技術力よりも遥か先を行くであろうこのGAという組織。
下手に逆らえば命は無さそうだ。
ちなみに、GAは世界中に支部があり、基本的には中小企業としての皮を被っているのだが、その権力は国家を大きく上回る。
その気になれば、国の代表である総理大臣や大統領の首をすげ替えることもできるそうだ。
これは、GAという組織が軍を相手にしても余裕で勝てるだけの兵力を所持しているかららしい。
しかし、あくまでも組織は“人類の為”が理念である。
大真面目にそんなことを言う奴がいたら、少し前の俺なら鼻で笑いながら、医者に頭を診てもらうように勧めていただろう。
しかし、日本に実銃を持ち込んで所持している所を見ると、事実であると気がつく。
GAという組織は、一国家すらも凌駕するだけの力を持っているのだと。
「さて、GAについては粗方分かっただろう。次はメインのアンノウンについてだ」
「お、待ってました」
「まずはコレ見てるといい。GA日本支部に入ると必ず見せられる、参考資料だ。参考資料とは言っても実在するけどね」
雫はそう言うと、俺に1枚の紙を渡してくる。
そこには、とあるアンノウンに着いて書かれていた。
─────────
Ujp-01-27 マッチョが売りの少女
危険度レベル
kill(人を殺せる程度)
状況
収容
説明
・Ujp-01-27は、小さな人間の少女の見た目をしたアンノウンです。靴を履かず、裸足でマッチを持っています。
・Ujp-01-27は、北海道■■にて発見されました。どのような経緯で発生したのかは分かっていません。
・Ujp-01-27は、現在施設■■にて収容されています。筋力トレーニングで起こる運動エネルギーによるエネルギー生産を行って貰っています。
・Ujp-01-27は、温厚かつ心優しい性格です。筋力トレーニングの邪魔をしない限りは安全であると判断された為、研究対象として収容されます。
詳細
・Ujp-01-27は、童話マッチ売りの少女と似た過去を持つ存在であると考えられます。外見及び、灰となったマッチを手放さない姿などは童話の話と合致します。
・Ujp-01-27は、異常な筋肉の発達を見せており、常人の20倍近くの筋肉量を所持しています。しかし、見た目は細い女の子です。
・Ujp-01-27は、筋力トレーニングが非常に好きです。トレーニングをしている際は邪魔をしないようにしましょう。また、一緒にトレーニングをすると喜びます。
インタビュー
職員「なぜ筋トレを始めたんだい?」
U「寒かったの。とてもとても。でも、マッチの火は使い果たしちゃって。それで、体を動かしてみたら、すごく暖かくなったの!!寒い中でも動けば暖かくなれると知って、動き続けたの!!次いでになんか強くなったから、お父さんもボコボコにしてやったわ!!」
職員「筋トレは楽しい?」
U「すごく楽しい!!一緒にやる?効率的な方法を教えるよ!!」
職員「........最近運動不足だし、ちょっとやろうかな」
以降、Ujp-01-27は施設においてトレーナーとしての立場を確立し、職員達の慢性的な運動不足を解消しています。
───────────
........ツッコミどころが多すぎるんだが???
「どうだ?中々に面白い報告書だろ」
「うん。まぁ、一発ネタ感がすごいね」
「ハッハッハ!!それはそうだな!!私も初めてこの報告書を読んだ時は、ギャグかと思ったよ。マッチ売りの少女なら、日本じゃなくてデンマークだろとかな」
「確かに」
マッチ売りの少女の著作である、ハンス・クリスチャン・アンデルセンはデンマークの代表的な童話作家だ。
彼の書いたお話を知らない人は居ないレベルで有名なのだが、それをモデルとしたアンノウンがなぜ日本に現れる?
そんなことを思っていると、雫が授業に戻った。
「さて、報告書に興味を持ってくれたところで軽く解説しよう。まずは識別番号。Ujp〜ってやつだな」
「俺にも割り当てられているやつだな」
「そうだ。基本的にここを見れば名前や形なんかが分かる。次に“危険度レベル”。そのアンノウンの危険度、脅威度を表す。危険度レベルは安全なものからsafe(セーフ)、kill(キル)、Break(ブレイク)、perish(ぺレッシュ)、apocalypse(アポカリプス)の五段階に分類されている」
日本語訳すると、安全、殺す、破壊、滅び、黙示ってところか。
黙示は少し不自然だから“終末”の方が正しいかもな。
「この危険度レベルには色々な条件がある。そうだな........分かりやすく書き出すか」
雫はそう言うと、ホワイトボードに一つづつ危険度レベルに着いて書き出した。
safe:管理が完璧にできている。人を殺す能力を持っていたとしてもその条件が分かっており安全に運用が可能な場合はここ。
kill:人を殺せる程度の力を持っている。人間や思考力がある場合は安全性の面からどれだけ安全な存在でも、ここに分類される。
Break:街を破壊できるだけの力を持っている。力が不安定だったりする場合はここ。
perish:力を使わせた場合に国が滅ぶレベル。
apocalypse:世界の終末。人類は滅び、ワンチャン地球も消える。
「こんな感じかな?少し違うが簡単に書き出すとこんな感じで分類されている」
「はへぇ........割と文字通りなんだな」
「当たり前だろ。分かりやすいに越したことはないからな。マッチョちゃんの場合は人間で人を殺す可能性があるからkillという訳だ。思考力があって人間を欺けるだけの知能もあり、人を殺せるだけの力がある。その時点でkillに分類される。どれだけ安全でもな」
「危険度レベル詐欺とか起こりそう」
「割と起こる。アンノウンってのはどこまで行っても未知の存在だ。研究を進めて行く内にその危険性が明らかになって分類が変わるのは珍しくない。逆に、これが自然の現象であると判明して、これらの分類から外れることもある」
「なるほど。あまりに危険度レベルを過信しすぎたらダメなんだな」
「そういう事だ」
アンノウンにも危険度があり、それによって組織の対応も変わるのだろう。
しかし、忘れてはならない。アンノウンとは未知の異常存在であり人類が決して推し量れる存在では無いのだ。
俺の目の前にいるアンノウンも、もしかしたらこの世界を揺るがすだけの力があるのかもしれない。
「で、状況はそのアンノウンの現在の状況だ。収容、監視、破壊の三つに分けられる。これは何となくわかるだろ?残りの説明や詳細はそのアンノウンの説明及び、その異常性、能力の説明だな。インタビューはそのアンノウンによってあったり無かったりする。個人的には読んでいて面白いから、全部に欲しいな」
「急に雑な説明だな」
「だって、なんとなくは分かるだろ?私達の仕事はアンノウンの鎮圧および破壊と収容。報告書を書くのが仕事じゃないのさ........というわけで、今からアンノウンの鎮圧と収容の様子を見に行くぞ!!」
「えっ?」
こうして俺は、いきなり雫に連れられてアンノウンの鎮圧作業と収容及び破壊の仕事を見に行くこととなったのであった。
社会見学の始まりだ。
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