アンノウンvs見えざる手
学校の帰り、吹雪の中に誘われサメの形をした化け物に追われたかと思えば、今度はそれを迎撃する人物が現れる。
この展開には俺も困惑するしかない。
「お怪我はありませんか?」
「え、あ、はい」
「それは良かった。では、そこから動かないようお願いします。下手に動かれると、保護ができなくなりますので」
「は、はい........」
眼鏡をかけた男性。
年齢は恐らく20代前半ぐらいだろうか?
口元まであるマントのようなものを右肩に掛けて、その服装は明らかに一般人のものとは異なる。
あれだ。自衛隊とかそっち系の人達がしているような装備だ。
迷彩柄では無いが。
「Ujp-06-26“スノーシャーク”。自然現象系のアンノウンとなると、収用は難しいかな」
「........?」
訳の分からないことを呟くその男性は、そう言うと小さな四角い箱を取り出す。
そして、地面に向かってこの箱を落とすと、近未来的な映画でしか見たことがない変形をし始め、1m台の長方形へと形を変えた。
「戦術機ヤマタノオロチ。展開」
そして、その長方形の物体はさらに形を変える。
なんと言ったらいいのだろうか?
三角錐の小さな破片に長方形がバラけると、それぞれがそれぞれの形を作っていく。
明らかに体積が増幅している刀や槍。更には現代的な兵器や見た事が無いものまで。
少なくとも俺が知る技術をどれほど用いても、こうはならんやろと言う光景を彼は実現してしまっていた。
ここは本当に異世界なのか?
明らかに体積の増えた物体。勝手に空気中に浮かび上がり、武器を形づくるなんて聞いた事もない。
異世界に転移した先が、SF系の世界でしたと言われた方がまだ納得出来る。
「何がどうなってんだ........?」
疑問と困惑を口にしたその瞬間、ズポォ!!と雪の中から何かが現れる音が響き渡る。
サメだ。
先程から俺を追いかけ続けていたあのサメが、再び俺を........いや、俺達を食い殺そうと姿を現したのだ。
「逃げないでください。僕が守りますので」
自然と体が動き始めたその時、彼がそんなことを言う。
そして、俺が言うことを聞かない時のためなのか、いつの間にか俺の足は地面に固定されていた。
いつの間に!!これじゃ逃げられない!!
「おい!!お前っ!!」
「気持ちは分かりますよ。ですが、これも一応規則でして。アンノウンと接触した一般人の保護は現場の部隊及び人物の独断によって行っても良いとされています。ですので、少々強引ですがこの様な手段を取らせて頂きます」
男はそう言うと、腰から二丁の拳銃を取り出す。
現代日本に生きていて、銃を見たらまず玩具だと思うだろう。この国は、銃刀法違反というものが存在し、実銃の所持又は製造、密輸は固く禁じられているのだ。
しかし、その拳銃が俺にはどう見ても本物であるとしか思えなかった。
俺は銃に詳しい訳では無いので、その中の形状で名前がわかる訳では無いが、ゲームで見た記憶がある。
パンパン!!
乾いた銃撃音が鳴り響き、銃から薬莢が排出される。
モデルガンとかそんなちゃちなもんじゃない。俺の思った通り、彼の持っている銃は本物だ。
「........!!」
「チッ、確認のために撃ってみたけど、やっぱり効かないか。“見えざる手”よ」
銃弾を撃ち込まれたはずの雪のサメ。しかし、サメはまるで何事も無かったかのように突撃してくる。
彼も相当やばいことをやっているが、あのサメもかなりやばい。
銃弾が当たったというのに、平然とこちらに向かってこられるとか最早生物ですら無いだろ。
「────!!」
雪の上を跳ね、俺達を食い殺そうと口を大きく開けるサメ。
あぁ。死んだ。流石にこれは死んだ。
足は固定され、逃げることも出来ずサメの口の中に入るしかない状況。
まだ俺を守ろうとしている彼を信頼できていない俺が、自らの死を悟るのも無理はない。
頭の中にこれまでの人生のハイライトが流れてくる。これが走馬灯ってやつか。
「フッ!!」
全てを諦め、自分の人生を振り返っていたその時、パァン!!と弾けた音が響く。
影が消えて明るくなったかと思えば、そこには口を大きく開けたサメなど存在していなかった。
「........え?」
「ご安心を。僕が守りますので」
そこには宙に浮かぶ無数の武器。今の一撃は、あの黒を基調としつつ青い線が入った刀による一撃だったのだろう。
吹き飛んだサメはどこかへと消え去り、そして新たなサメ達が雪の中から顔を覗かせる。
俺が一人でいた時は餌だと言わんばかりに襲いかかってきていたサメ達は、この男の出現によって動きを止められてしまっていた。
「ふむ........報告書では熱にも耐性を持つとありましたが、時間経過で過ぎ去ったとも報告がありましたね。耐えますか。僕では収容や破壊は厳しそうですし」
彼はまた何やら訳の分からないことを呟くと、俺を背に守るようにしながらサメ達の前に立つ。
その後ろ姿は、少しばかりヒーローのように見えた。
そう言えば、先程からサメによる下からの攻撃が来ない。この攻撃が来ないのも、彼の仕業なのだろうか?
「時間的にあと2時間と言ったところかな。すいません。もう少し時間が掛かりますので........」
「あ、はい」
急に話しかけられた俺は、取り敢えず適当に返事をすることしか出来なかった。
そして、サメと彼の戦いが続く。
サメがありとあらゆる手を使って、俺達を食い殺そうと迫り、彼はその全てを迎撃する。
その迎撃方法は、あまりにも滅茶苦茶であった。
中に浮かぶ刀はもちろん、人を潰せる程に大きな槌。投げても戻ってくる槍に、アニメでしか見た事がないレーザービーム。
近未来的なその攻撃と装備は、やはりどこか現実離れしており、理解しようにも理解できない。
俺は一体何を見せられているのだろうか。これが地球で巻き起こっているとしたら、俺の知る世界の価値観が一気に崩れ去ってしまう。
それからどれほど時間が経ったのか。俺には分からない。
少なくとも、寒さを忘れてその戦いに見入る程には時間が経っていた。
「─────........」
「お、迎撃出来ましたね。出来れば鎮圧したかったんだけど、これは難しいかな。自然系のアンノウンは収容難易度が高いしね」
「お、終わったのか?」
雪の世界が徐々に徐々に晴れていく。
何から何まで訳が分からなかったこの現象は収束し、やがて俺が歩いていた歩道が姿を現した。
つまり、ここで起きた出来事は異世界とかではなく、この地球上で巻き起こったものであると言う事だ。
俺の知る地球はこんな滅茶苦茶な世界では無いはずなのだが、もしかして平行世界とかに飛ばされたりしてない?
俺は足元に残った雪を見ながら、ゆっくりと立ち上がる。
「お怪我はありませんか?」
「は、はい。ありがとうございました。もう何が何だかサッパリですが........」
「あはは。普通はそうですよ。僕も最初、似たような現象に立ち会った時はわけも分からず立ちすくんでいましたからね。さて、申し訳ないのですが、お話を聞かせて頂きたいので着いてきて貰えませんか?」
「え、なぜ?」
「今の現象についてのお話をお伺いしたいのです。我々は、あのような異常現象の研究をしておりまして。実際に巻き込まれた方のお話はとても貴重なんですよ」
それ、その異常現象に巻き込まれたヤツの大半は死ぬから話が聞けないと言っているように聞こえるのだが?
まぁ、結果的に助けて貰ったのだ。この現象についての話が聞けるかもしれないし、お礼も兼ねてここはついて行くべきだろう。
と言うか、ついて行かないと殺されそう。
「分かりました」
「ありがとうございます。では行きましょうか。近くに車を待機させておりますの........危ない!!」
いきなり俺に手を伸ばす男。俺は首を傾げ、そしてその意味を知った。
視線の下。足元に残った雪から、あのサメが俺を食い殺そうとしていたのだ。
足元に残った雪は、コイツのものだったのか!!
逃げようと思った時には時すでに遅し。
サメは俺を丸呑みにし、俺の目の前は真っ暗になった。
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