こちらu機動部隊


 竜胆茜(リンドウ アカネ)。それが俺の名前だ。


 ごく普通の高校生として生活し、特になんの不自由もなく育ってきた。


 ここは日本の新潟県にあるとある場所。そろそろ本格的な冬が到来する季節である。


 また雪掻きをしなきゃならんと思うと気が滅入る。雪が滅多に降らない地域では、雪が降るとお祭り騒ぎになるらしいが、俺からすればいい迷惑だ。


「なぁ、昨日のテレビ見たか?」

「あー、心霊スポットのやつ?マジで映ってたよな!!怖すぎて夜にトイレに行けなかったぜ」

「ハッハッハ!!だっせぇ!!」


 高校の帰り道、雪が積もり始めた冬の初め頃。俺は友人達と共に帰路に着いていた。


 くだらない話で盛り上がり、馬鹿みたいな青春を謳歌する。それが高校生の仕事と言えるだろう。


 高校生の仕事は勉強なんて言われているが、それを意識する高校生は極小数なのだ。


「茜も見ただろ?」

「俺は見てないよ。くだらない」

「えー、そこは見ようぜ」

「幽霊とか存在するはずないだろ?あるはずも無いものを見て何が楽しいんだよ。どうせヤラセだヤラセ。視聴率を気にした番組プロデューサーの入れ知恵だよ」

「それを言うなよ。存在する方がロマンがあるって言うだろ?」

「聞いた事ねぇよ。そんな言葉」

「かぁー!!これだからお前は!!ロマンを感じろよ!!」


 昨日やっていた幽霊特番の話を持ち出されるが、生憎俺は幽霊という存在を信じていない。


 科学的に証明されていれば多少信じるが、そんなオカルトのような話を信じる気にはなれなかった。


 あまりにも現実的ではない。


「それじゃ、未確認飛行物体は?」

「UFOな?なんで態々長い名前の方で言うんだよ。宇宙人は確率的にこの宇宙の中のどこかにいるかもしれんが、ソイツらが宇宙船を作って地球に来た時点で侵略開始だろ。俺ならそうするぞ。宇宙人達が未発達の文明に対して不可侵の条約を結んでいるとかなら別だろうがな」

「ハハッ!!確かに宇宙人達が地球に来れるような技術を持っている時点で、地球に勝ち目はないわな。さては茜。意外と頭いいな?」

「平均点以上は取ってる。赤点取って補習を食らってるお前とは違うんだよ」

「いや、そこは全教科80点ぐらい取ってからドヤろうぜ。っと、また月曜日にな」

「じゃーなー!!」

「おう、また来週」


 宇宙人やら幽霊の話をしていたら、友人と別れるところまで来てしまった。


 俺の家は少し離れている。彼らとはここでお別れだ。


「それにしても寒いねぇ。これでもまだ温かい方ってのが嫌になる」


 雪が降る冬の始まり。少し田舎ということもあって、ふと視線を移せば畑に白銀の世界が広がっている。


 昔はここで遊んだものだ。勝手に入ってよく怒られていたが。


 早く帰ってゲームでもしよう。少し暑いぐらいの家に戻れば、こんな厚着をしなくても済む。


 そう思いながらトコトコと歩道を歩いていると、急に強い風が吹く。


 音を立てて吹く風が、空中の雪を掻き乱した。


 ここまでは、いつもの事だと気にしなかっただろう。


 しかし、徐々に徐々にその風が強くなり、雪の量も多くなれば話は別。


「うっ........」


 やがて目も開けられない程に風が強くなり、俺は立ち止まって目を腕で守った。


 どのぐらい時間が経ったのだろうか。急に風が止み、目を開ける。


「........は?なんだこれ」


 そこには、先程俺が歩いていた歩道とはまるで違う世界に変わっていた。


 一面真っ白な世界。


 そこには車も通っていなければ、木々が生えていることもない。


 まるで、別世界に誘われたかのような感覚だ。ここは、俺の知っている世界じゃない。


「どうなっているんだ?」


 何が起きたのかさっぱりだ。異世界転生でもしたのか?だが、あれはフィクションの話だろ。


 吹雪に飲まれて異世界転生したなんて聞いた事がないぞ。


 呆然とするしかない俺。


 だが、この吹雪を起こしたであろうモノ達は俺を待ってくれないらしい。


 白銀で平坦な世界。そこから急に背びれのようなものが現れた。


 しかも、かなりの数。


 状況は理解できないが、俺は本能的に逃げ出した。


 背負っていたリュックを投げ捨て、踏み込む度に若干沈む雪の中を駆け出していく。


 結論から言おう。


 その判断は正しかった。


 リュックを投げ出した走り始めてから数秒後、ドゴォン!!と言う轟音と共に雪が弾け飛び俺が先程までいた場所が雪煙をあげる。


「は、ハハッ。なんだよあれ」


 あまりにも非現実的な光景。あまりにも非科学的な光景。


 幽霊とかUFOとか、そんな話ではない。


 僅かに見えたその物体は、サメの形をしていた。


 人ってあまりにも非現実的すぎる光景を見ると、一周回って冷静になれるんだな。


 今自分が何をしなければならないのか、それがよく分かる。


 逃げればいい。ただ逃げるだけ。とにかく、化け物達から逃げ続けるのだ。


 出口はどこか。この悪夢は覚めるのか?


 そんなことを考えている暇は無い。今はとにかく、逃げるしかないのだ。


「........!!追いかけて来やがった!!」


 雪のサメと鬼ごっこ。


 言葉にしたら意味の分からない、捕まったら終わりの鬼ごっこが今始まった。




【アノマリー】

 ある法則・理論からみて異常であったり、説明できない事象や個体等を指す。科学的常識、原則からは説明できない逸脱、偏差を起こした現象を含む。すでに説明できるようになった現象でも、アノマリーあるいは異常という名称がそのまま残ったものも多い。




 人間は、死地に立たされた時真の力を発揮する。


 火事場の馬鹿力とでも言うべきか、普段なら絶対に疲れて足を止めるはずなのに、今日ばかりはその疲れを超えて足を動かしていた。


「うをっ!!危ねぇ!!」

「........」


 迫り来る雪のサメが、牙を剥いて俺の足に噛み付こうとしてくる。


 俺はそれを気合いで避けると、ゴロゴロと雪の上を転がって立ち上がった。


 そして、また走る。


「はぁはぁはぁ........クソっ!!いつになったら終わるんだよ!!」


 終わりの見えない鬼ごっこ。


 これが子供たちの遊びならば、学校の放課にやっている遊びならば、制限時間が設けられていただろう。


 チャイムの鐘が鳴ると共に、終わりを迎えていたはずだ。


 しかし、この場にチャイムなんてものは存在しない。


 このサメ達が飽きるまで、俺は逃げ続けることしか出来ないのだ。


 何時になったら終わるのかも分からない。疲れだけが溜まり、やがて足は重くなっていく。


 火事場の馬鹿力にだって限界はある。既に30分近くも全力疾走していれば、俺の足も動かなくなるものだ。


「ぜぇぜぇぜぇ........もう、無理........」


 足が止まり、俺は限界を迎える。既に後ろにはサメ達が迫っており、俺を食い殺さんとしていた。


 まだ逃げなければならないのだが、もう足は棒だ。


 高校に入ってからは運動は体育以外やっていなかった者からすれば、十分頑張った方だろう。


 死にたくない。だが、もう抗えない。


 口を大きくあけ、俺という存在を丸ごと飲み込もうとするサメ。


発射ファイヤ


 目の前に迫る絶望が俺に死を告げるその瞬間、何かが空から落ちてきて雪のサメを破裂させる。


 パァン!!と弾けた音が白銀の世界に響き渡り、飛び散った雪が視界を塞ぐ。


「一般人を保護しました。これより、対象のアンノウンと交戦に入ります」


 この世界に来てから聞いていなかった人の声。


 声のした方に視線を向けると、何やら凄い装備をした1人の男性が立っていた。


 訳が分からない。


 状況を理解したいのだが、その状況を理解できるだけの冷静さと頭を、今の俺は持ち合わせていなかった。


「こちらu機動部隊。目標の鎮圧を開始します」


 これが、u機動部隊との出会い。今後の俺の人生を大きく変えることとなるのだが、この時の俺がその事実を知る由もなかった。

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