こちらu機動部隊。目標の鎮圧を開始する

杯 雪乃

u機動部隊

諸君らはアノマリーを信じるか?


 諸君に問おう。


 諸君らはアノマリーを信じるか?


“アノマリー”。


 それは、ある法則・理論からみて異常であったり、説明できない事象や個体等のことである(科学的常識、原則からは説明できない逸脱、偏差を起こした現象を含む)。


 馴染みのある言い方をすると、未確認飛行物体UFOや幽霊と言った存在の事だ。


 正確には少し違うのだが。


 俺は、このアノマリー、または幽霊と言った存在を信じたことは無かった。


 現実的では無い非科学的な存在を認めるなんて馬鹿らしい。


 特に、幽霊やUFOに関して言えば、そのどれもがありえないと断定できるだろう。


 大抵は機械の誤作動だし、思い込みによる幻覚なのだ。


 俺は、そんな超常現象を引き起こす存在なんて信じていなかったし、ましてや神の存在だって信じていなかった........


 そう。信じてのだ。


「おい見ろよ茜。面白い報告書があるぞ。また新しいアンノウンが出てきたな」

「本当に次から次へと出てくるな。少し前の俺なら、そんな存在鼻で笑ってたのに」

「人の価値観なんてちょっとした事で変わるもんさ。それよりもほら、この報告書を見ろよ」


 俺の名前を呼ぶ長い髪の女。インナーカラーを赤色に染め、かなり容姿の整った彼女は、ノートパソコンを俺に見せてくる。


 この現代の地球において、どこからともなく現れるアノマリー。通称“アンノウン(正体不明)”。


 俺の所属する(所属せざるを得なかった)この組織は、そんなアンノウンの鎮圧や確保研究などを主な活動としている。


 どうやら、また新たなアンノウンを捕まえたらしい。


 ちょっと報告書を見てみよう。


 ─────────────


 Ujpー03ー58 安眠枕


 危険度レベル

 safe(まぁ安全)


 状況

 収容


 説明

 ・Ujpー03ー58は、白色のごく一般的な枕です。熊本県■■にて発生したものと思われます。

 縦43cm、横63cmの長方形の形をしており、かなりモフモフです。

 ・Ujpー03ー58は、その能力を発動させなければ被害が出ないためsafeに分類されます。

 また、その比較的安全なアンノウンの為、■■■■に収容し研究されます。


 詳細

 ・Ujpー03ー58は、その枕を使った者を安眠させる効果があります。

 肉体的、精神的な疲れを癒し、心地の良い眠りと極めて爽快な朝を向かえられます。

 ・Ujpー03ー58を使えば、どんなに寝心地が悪い場所でも快適な寝床となります。

 ・Ujpー03ー58を使って睡眠を摂る場合、8時間以上寝てはなりません。

 8時間以上の睡眠をとった場合、その使用者は死亡します。

 ・以上の事から、職員の精神的、肉体的なケアとして厳重な監視の元このアンノウンの使用を許可します。ただし、全ては自己責任となります。


 実際にUjpー03ー58を使った職員の感想

 職員A「使ってみてどうだった?」

 職員B「めっちゃ良かった。俺は今まで真の意味で睡眠を取った事が無いと知ったよ。8時間以上寝ると死ぬリスクを背負ってでも試してみる価値はあるね」

 職員A「凄いな。そんなにか」

 職員B「使用許可の申請を出しておくといい。近いうちに、許可を出すなエリア長の悲鳴が聞こえるはずだぜ?申請が多すぎてな」

 職員A「ははは!!そこまで言うなら使ってみようかな?」

(以下省略)


 現在、Ujpー03ー58の使用は予約制となっており、既に一月以上の予約が埋まっています。使用をしてみたい職員は、早めに使用許可の申請をしましょう。


 ──────────


 いや、サラッと書かれていたけど、安眠枕じゃなくて永眠枕じゃねぇか。


 色々と書かれていたが、要約すると“安眠枕を使って8時間以上寝ると死ぬ”って事だろ?


 これを使いたがる職員の気が知れない。この組織はブラック企業なのか?


「な?面白いだろ?枕如きに行列を作る時代なんだな」

「安眠枕っていうか、永眠枕だろ。死人が出てんだぞ」

「上手いこと言うねぇ。確かに名前は変えておくべきだわな」


 俺が報告書を読み終えたのを察して話しかけてくる女。


 俺は、呆れながらその報告書にツッコミを入れておいた。


「この報告書を読む限りは安全そうだし、管理も単純でいい研究材料になる。が、このアンノウンが本当に安全かどうかは分からない。私たちが知らないだけで、何かほかの危険な要素を孕んでいるかもしれない。職員のメンタルケアとかも重要だが、もう少し考えて欲しいものだな」

「そう言いながら、隊長もよくアンノウンと遊んでいるじゃないですか。なんなら職員とも」

「私はいいんだよ。特別だからな」


 自分の事は棚に上げ、アンノウンの危険性を説く“隊長”と呼ばれた女は、地味な眼鏡をかけた部下にそう言われて口を尖らせる。


 キングオブ普通という言葉が似合うほど、これといって特徴のない姿。唯一のアイデンティティは眼鏡ですと言わんばかりの姿をしている部下の彼は、相変わらずな隊長を見て“はぁ........”とため息をついた。


「僕達のような存在が、割と自由にしているのはこの緩さがあってこそですよ?基本的に、本当に危険なアンノウンは収容する前に破壊しますしね」

「できないのもあるがな。デメリットを許容してまで収容するメリットのあるやつとか、そもそも破壊できないやつとか。そいつらは厳重に収容されてるんだ。ほかは緩くてもいいやろって感じなんだろ。職員だって人間だしな」

「いや、今さっきアンノウンの危険性を説いてたじゃないですか........」

「あくまでも一般論を口にしただけだ........ということにしておく。どうせ私達にそこら辺を決める権利はない。最低限の人権が保証されているだけ感謝しないと」

「それはそうなんですけどね」


 何か言いたげな部下と、適当な会話しかしない隊長。


 部下はこれが日常なのか、何を言っても無駄だと諦めてソファーにもたれ掛かる。


「ところで、厨二ちゃんは?」

「あー、なんか新しい必殺技ができたから試してくるとか言って、訓練場に走っていきましたよ。子供は元気でいいですよね」

「お前も言うて21歳だろうが。まだガキだよお前も」


 そんな事を話していると、プルルルと隊長の携帯が鳴り響く。


 彼女は電話の相手を見て心の底から嫌そうな顔をしながら、その電話に出た。


「はいコチラu機動部隊........でしょうね。アンタが電話をかけてくる時は決まってその話だ。で?場所は?........了解。ちゃんと資料送れよ。新入りもいるんだからな。被害は?........なるほど。後始末はそっちに任せるから、こちらは好きにやらせてもらうぞ」


 嫌そうな顔をしつつ、隊長が電話を切る。


 そして、頭をポリポリとかきながら部屋にいた俺達に声をかけた。


「野郎ども、仕事の時間だ。眼鏡。お前はあの厨二ちゃんを呼んでこい。必殺技を撃つ相手が出てきたとでも言っておけ」

「了解。その前に着替えてきますね」

「茜。お前は着替えて........既に着替えてんな。おいおい。新入りの方が真面目じゃねぇか。どうして先輩の方がダメなんだよ」

「仕事か?」

「そう仕事だ。表の世界で生きる人々の平穏を守る、正義のお仕事の時間ですよ。称賛も感謝も無いがな。さぁ、行くぞ。まだまだ仕事になれていない新人の教育もしなきゃならんしな」

「こんな仕事、慣れたかねぇよ」

「同感だ」


 こうして、俺の非日常が過ぎ去っていく。


 いつの日か、この非日常は日常に変わってしまうだろう。


 諸君、アノマリーは存在する。信じる信じないでは無い。事実として、この世界に存在しているのだ。

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