芦田シャインによる日本サッカー維新!
阿弥陀乃トンマージ
緊急帰国
1
「来たぞ!」
羽田空港の到着ロビーに出てきた赤髪の坊主頭の少年に報道陣が群がる。
「うおっ……」
「
報道陣が少年にマイクを向ける。旭と呼ばれた少年は戸惑い気味に応じる。
「な、なんですか?」
「スペインから緊急帰国の理由を聞いても⁉」
「……ちょっとした里帰りです」
「いやいや! 向こうのチームには引き留められたのにも関わらず――それどころかプロ契約を提示されたのに――断って帰国したと聞いていますよ!」
「ああ……」
「〝バルサ〟や〝マドリ―〟からも接触があったという話ですが⁉」
「ええっと……」
「君の進路に関してはスペイン国内でも大いに注目を集めているんです!」
「そうなんですか」
「そ、そうなんですかって……」
旭の素っ気ない返事に報道陣が戸惑う。
「俺はネットニュースとか、そういうものは見ないようにしているんで……」
「ああ、そうなんですか……」
「それじゃあ……」
旭は足早にその場を後にする。報道陣の一人が声をかける。
「なぜこの時期に⁉ 4月初めはヨーロッパのシーズン真っ只中でしょう⁉」
旭が立ち止まり、振り返って呟く。
「この時期だからこそですよ……」
「え……?」
「失礼します……」
ほぼ同時期に、中部国際空港、関西国際空港、福岡空港国際線に三人の少年が降り立った。そこに報道陣が群がる。
「
「……僕は女性記者さん以外の質問にはノーコメントの主義なんで……」
黒髪の長髪を優雅にかきあげながら少年が応える。
「ええっ⁉」
「ふふっ、冗談ですよ」
「で、では! パリのチームともプロ契約が進んでいたという話ですが⁉」
「う~ん、まあ、その辺についてはノーコメントで……追々分かると思いますよ」
日と呼ばれた少年はこれまた優雅な足取りで報道陣をかわしていく。
「
「ああ……」
「な、何故⁉ 〝ユーべ〟や、ミラノの両チームからも話があったんですよね⁉」
「それよりも大事な約束がワシにはあるんですよ……」
長身で金髪のポニーテールの少年が、顎をさする。
「約束……?」
「おおっと、これ以上は秘密です」
昇と呼ばれた少年は口元に手を当てる。
「ひ、秘密……?」
「まあ、近い内に分かると思いますよ、それじゃあ、チャオ!」
昇は報道陣にウインクをして、その場から離れる。
「
「……」
天と呼ばれた大柄で体格のがっしりとした少年は黙っている。
「あ、あの……」
「………」
「ミ、ミュンヘンとのプロ契約の話は⁉」
「……白紙にさせてもらった。自分の都合で」
「ええっ⁉ な、なんで……」
「失礼する……」
天は茶髪で短髪の頭を下げ、報道陣から離れる。それから数時間後……。
「はっ、まさか、ここで顔を合わせるとはな……」
山口県萩市内の萩駅の入り口で、日が顔をしかめる。その視線の先には、旭と昇、そして天の三人がいたからだ。天が口を開く。
「……抜け駆けは許さん……」
「抜け駆けってなんだよ、反則みたいに言うな」
「まあまあ、久々に会えたんだから良いじゃないのさ~」
昇が場を和ませる。
「……ここに来たっていうことは考えることは一緒ってことだよな?」
旭が三人に尋ねる。
「まあ、そうやね、大事な大事な約束やから……」
「! 約束……」
「意外だね、昇。君が一番忘れているもんだと……」
天が呟く横で、日が感心しながら腕を組む。
「いやいや、忘れた時なんて、一度たりともないよ」
昇が首を左右に振る。ポニーテールが揺れる。旭が昇に問う。
「……駅から近いんだろう?」
「え? あ、ああ、そうだね」
「それじゃあアップがてら走って行くぞ!」
「あ、ちょい待ち、旭! ……行っちゃった」
「やれやれ、相変わらずの猪突猛進ぶりだね……」
日が呆れ気味に両手を広げる。
「……行くぞ」
天も走り出す。日と昇も渋々とそれに続く。
「……着いた、ここだな、『
「昨年度まで女子高で、今年度から共学……男子生徒の数は少ないようだ」
旭の呟きに昇が応える。日が両手を大げさに広げる。
「歓迎すべきことじゃないか」
「……男子サッカー部も新設というわけか」
日の言葉を無視して、天が腕を組んで呟く。昇が首をすくめる。
「そうだね、ワシら4人だけかも……」
「構わねえさ、俺たちで……シャイン姉ちゃんの夢を叶えるんだ……」
学園のグラウンドを見つめながら、旭が呟く。4人はグラウンドに入る。
「芝生のグラウンドだ……設備は案外悪くないね」
「当然だろう、元なでしこジャパンの天才プレーヤー、
昇の呟きに日が反応する。
「しかし、監督就任を極秘裏に進めるとは……」
「母ちゃんから聞かなかったら分からなかったぜ」
天の言葉に旭が笑う。
「持つべきものは母ちゃんたちのネットワークだな」
「お陰さまでヨーロッパから緊急帰国だ……」
昇の横で日が伸びをする。
「……小学校を卒業して、俺はスペイン、日はフランス、昇はイタリア、天はドイツで3年間、技術を磨いてきた……全てはこの日の為だろう?」
「ふっ……」
「そうかもね……」
天と日が笑う。
「良いこと言うやん、旭の癖に」
「な、なんだよ、旭の癖にって!」
昇の言葉に旭は反発する。
「あれ~どうしたの⁉ 4人揃ってこんなところに!」
「⁉」
よく通る声が聞こえる。旭たちは一斉に振り向く。そこには綺麗なロングの黒髪で、美しいルックスと抜群のスタイルを併せ持った女性がジャージ姿で立っていた。
「シャ、シャイン姉ちゃん……!」
「日本サッカー界期待の『旭日昇天カルテット』がどうしてここに? あれ? ひょっとして誰かの結婚式でもあった?」
シャインは小首を傾げる。
「俺らはまだ結婚出来る年齢じゃねえよ……」
「ふふっ、冗談、冗談。それにしてもどうしたの? 『旭日昇天カルテット』お揃いで」
「……なんだか気恥ずかしい」
「天の言う通りだぜ、その呼び名はやめてくれよ。マスコミ連中が勝手に騒いでいるだけだ」
「じゃあ、カルテットはさ~」
「だから!」
「冗談だって~旭。とにかく本当にどうしたの?」
「僕の呼びかけでこの学園に入学することにしました」
「!」
日の言葉にシャインは目を丸くする。旭が声を上げる。
「日、てめえ、なにが僕の呼びかけだ! やっぱり抜け駆けじゃねえか!」
「まあまあ、二人とも……シャイン姉ちゃん、ワシら、姉ちゃんの力になりたいと思って、それぞれヨーロッパから帰国したんじゃ」
「へえ……」
昇の言葉にシャインは顎に手を添えて頷く。天が口を開く。
「……4人きりのスタートでも構わない……」
「えっと……皆こっちに来て~」
シャインが呼びかけると11人の男子生徒が駆け寄ってくる。旭が驚く。
「じゅ、11人いる⁉」
「4人が入ってくれるのは嬉しい誤算だわ。じゃあ、明日、早速試合だからよろしくね♡」
「ええっ⁉」
シャインの言葉に旭たち4人が驚く。
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