奪われたもの

緋山宥

エピローグ

 どうしてこうなってしまったのだろうか? どこで間違えたのだろうか? 何が間違いだったのだろうか? それとも最初から間違いなど一つもなく、こうなることが決まっていたのだろうか? まあ、どうでもいい。どうしようもなくちっぽけな自分の過去と向き合うのも、くだらない自問自答を繰り返すのも今日でおしまいなのだ。


 ある人は言った。

「お前は悪くない」

 ある人は言った。

「お前が悪い」

 ある人は言った。

「お前の責任じゃない」

 ある人は言った。

「すべてお前の責任だ」


 頭が狂いそうになるほどに毎日繰り返されてきた自分にとっての地獄。何もかも奪い尽くされた。そこで生じた感情の果ての形はどんなものなのだろうか? 今自分の中に残っているのは何なのだろうか? 失った果てにあるものは何なのだろうか?

 もう僕の中に、何かを受け止められるほどの器は残っていない。すべて持て余し、流れ出ていってしまう。せめて彼女が僕に与えてくれるささやかなやすらぎだけでも最大限に味わいたい。でもわかっている。もう今の僕にはそれができない。

 彼女は涙を流しながら言った。

「そんなの悲しすぎるよ」

 その涙の意味が、僕にはわからなかった。その言葉の意味が、僕にはわからなかった。

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