鬼の副長、魔王軍を指揮する!

八幡太郎

鬼の副長、魔王軍に加わる!

 明治2年5月11日、土方歳三、函館五稜郭の防衛戦で戦死、享年34歳。


「死んだのか……。 ここは地獄か……」


 土方は函館戦争で確かに戦死した。土方自身も戦死した際のことを鮮明に覚えている。


 しかし、土方が目を覚ますと西洋の城のようなところにいた。


 周囲では羊の角のようなものが頭から生えている兵士たちが、土方を取り囲み眺めている。


「コイツはなんだ? 人間か?」


 角の生えた兵士たちは突如現れた土方に驚いている様子である。


「おい、お前たち、ここはどこだ?」

「なんだこの人間話したぞ、捕えるか!」


 兵士たちは剣を抜き土方を取り囲む。


「話し合う気はねぇのか、仕方ねぇ」

 土方も刀を抜き、一触即発の空気が張り詰める。


「待てお前たち、コイツはおそらく転移者だ」

 奥からボスらしき男が現れ、兵士たちを制止する。


「俺たちは魔族だ。ごく稀だがお前のような転移者がこの世界に迷い込んでくるという話は聞いたことがある」

「魔族だと……。地獄じゃねぇのか……」


 土方は兵士たちが剣を収めたのを見て、刀を鞘に戻す。


「転移者よ、この世界に来て早々不憫だが、この城はまもなく落ちる」

「どういうことだ?」


 聞けばこの世界では人間と魔族が長年にわたり争っており、人間たちに押された魔族はこの城に立て籠もり最後の決戦に望むという。


「俺は魔族の長をやってる『シルバ』という者だ。世間では『魔王』と呼ばれているがな」

「そうか、俺は土方歳三という。戦死したはずが気づいたらここにいた、お前たちと一緒に戦わせてくれねぇか?」

 人間が魔族側で一緒に戦いたいという申し出にシルバは驚いたような表情で土方を見ている。


「なぜ俺たちと一緒に戦いたい?」

「大した理由はねぇ、力で相手を従わせようとする奴らが好きじゃねぇんだ。性分ってやつだ」

「おもしろい男だ。どうせ負け戦だ。好きにすればいい」

「そうさせてもらう」


 土方は魔王軍に入り、人間たちと戦うことになった。


「おい、シルバ、敵の戦力と味方の戦力を教えてくれ!」

「敵は人間族のアドミニア帝国軍だが10万の大軍でこの城に向かっている。対する我らの軍勢は5千といったところだ」

 土方は戦力差を聞いたあと、魔王から地図を見せてもらう。


「敵はこの城を四方八方から取り囲むつもりか?」

「そうだ」

「敵の大将はどこに布陣するかわかるか?」

「そうだな、帝国軍の大将はこの城の正面にある森の近くに本陣を構えるだろう」

「そうか、俺に命知らずのバカを50人ほど貸してくれ! 一矢報いてやる」


 シルバは土方が何を考えているかわからなかったが、所詮は負け戦と思い、土方に兵を貸した。


「シルバ、戦には勝てねぇが俺が死に場所を与えてやる。俺が合図を送ったら敵本陣に総攻撃をかけろ!」

「何を考えているのかわからんが、どのみち運命は変わらない。ならば、お前の策に乗ってやる!」

 シルバは不思議な感覚であった。

 目の前に現れたばかりの土方であるが、この男を信じてみたいと思わされるのであった。


 城下では帝国の総攻撃の前に逃げ出す者が続出しており、土方もそんな混乱する城下の町を出て、森に向かって行くのであった。

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鬼の副長、魔王軍を指揮する! 八幡太郎 @kamakurankou1192

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