第10話 ★ ついにきた! Xでー・運命の exam ★
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「 J 、 J ! 早く来て!! うわ──★」
ほうきが勝手に先に飛んでいっちゃって☆
エイミー。ぽーんと一人、空中に放り出されてしまった!!
「もう、どうしよう……テスト直前になって、こんなに下手になっちゃった」
涙・涙のエイミー★
「プレッシャーっていうやつかな?」
J が素速く、飛んでいったほうきを取って戻って来てくれた。
「あせらずに、落ち着いて飛んだら、絶対、大丈夫だから」
うん、うんって頷いて見せるけど、内心すんごく不安になってきた(焦☆)
本番まで、あと数日しかないし……。
もし……こんなに頑張って練習して、落ちちゃうようなことがあったら。
J には申し訳ないし、もうどこにも行く所ないし。
本当に、心臓に悪いよ★
「ほらほら、どうした。いつものエイミーらしくない」
暗い顔をしたエイミーを見て。
J がエイミーのくせっ毛の顔を、くしゃくしゃと、ちょっと乱暴に撫でるの。
「オレは、いつでも前向きで元気なエイミーが好きだぞ」
J が愛情の込もった目で、少し叱るような励ますような微妙な口調で言う。
「うん、分かった。きっと、大丈夫だと思う」
トムが安心したというように深く溜め息をついた。
「頼むよ、エイミー。僕だってもう帰るところないんだから。
もう、孤児院でメアリーの相手なんかするのまっぴらだよ」
そう言って、トムが茶目っ気たっぷりにパチンとウィンクする。
「トム!!」
エイミー、感動してトムを思いっきり抱きしめちゃった。
もう、トムも J も大~好き!!
涙が出て来ちゃって、顔がベタベタ。
エイミー、本当に幸せ☆
「もっと向こうの広いところで練習してくるね」
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照れくさいのと、グチャグチャの顔を見られるのが恥ずかしくて。
大急ぎでほうきに飛び乗り、急上昇!
少し飛んだところで振り返ると、 J とトムが幸せそうに微笑んでいるのが見えた。
ここは、エイミー。
なんとしても踏ん張らないと。
自分自身の力で。
そして。 ── ついに試験の日がやってきた ──
お城の前は、着飾った沢山の人で一杯。
エイミーの試験の後で行われる、みんなが楽しみにしている毎年恒例の年越しのダンスパーティーに出席するために、この国全員の人が集まって来ているみたい。
J が言うには、今日という日がこの国の1年を通じて一番楽しい日らしいです。
「エイミー、大丈夫か?」
「落ち着いて飛べば、絶対大丈夫だから」
J とトムが口々に、励ましてくれるの。
エイミー、バルコニーの上の王女様を祈るような気持で見上げる。
王女様は、エイミーを見て静かに微笑んでくれる。
「それじゃあ、エイミー頑張ってね」
優しくて、そして少し厳しさも混じった包み込むようなじんとくる暖かさで、エイミーの胸の中は一杯になる。
── なんだか、感動してきちゃった ──
お城の周りは、濃紺地に綺麗な模様の刺繍の入った絨毯がひかれ、その上に花々が一面に敷き詰められて、ダンスパーティーの用意が整ったみたい。
その周りは、ぎっしりと黒山の人で埋め尽くされている。
「それでは、試験を始めます。エイミー、前に出て」
エイミー。 J がクリスマスにプレゼントしてくれた水色のドレスにエナメルの黒い靴。
大きな白いサテンのリボンを頭につけて。
ゆっくりとバルコニーの前に進み出る。
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そして、みんなの方を向いて深々とお辞儀をするの。
「よろしくお願いします」
一斉に拍手が起こって。
「頑張れよ、エイミー」
「応援してるからな」
口々に声援が飛ぶ。
「それでは、いいですか。エイミー」
王女様がきりっとした顔で、エイミーを見つめる。
エイミー、ほうきをしっかりと握りしめ、
いつでも飛び立てるように体勢を整え、空をきっと睨みつける。
「それでは、実技ー。スタート!」
王女様の掛け声と同時に、エイミー。
勢いよく急上昇!
30メートルほど上昇した地点で、速度を落として体勢を立て直す。
そこから先には天使の男の子が5メートル間隔で、小さな黄色い旗がついた長いポールを持って立っていて。
その間を制限時間以内で通り抜けないと、いけない★
大きく息を吸って。
いざ、発進!!
後は何回も練習した通りにやるだけ。
大きく楕円を描くように、ポールの横すれすれを出せる限りの速度で通り抜ける☆
風がぴゅっと、エイミーの髪を逆立てるように吹き抜け、
ドレスの裾がふわっと上に舞う。
加速しながら、ゴールに向かって突っ切るのみ!
あと……3本、2本、1本。
迫ってくる☆ 迫ってくる☆ ゴール!!
時間は、ぎりぎりセーフ☆
ふうっ──。
息をつく暇もなく、次の実技が始まる。
「よろしい、エイミー。では、実技2、スタート」
今度の実技は、回転飛び。
連続5回転。大回りで飛ばないといけない。
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バランスが狂うと、遠くまで放り飛ばされてしまう。
ほうきを握りしめる手が、緊張で汗ばんできて……。
でも、ここが正念場★
10メートルほど助走を付けて、えいっと思い切って踏み切る!
1回転、2回転、3回転──。
このあたりからだんだん目が回ってきて、耳もつーんとしてきて。
頭もクラクラ。
何がなんだか、よく分からないけど。
もう、今まで練習してきたカンに頼るだけ☆
4回転、5回転……目の途中に、ちょっとバランス崩してふらふらしちゃったけど。
体勢を立て直して、なんとかセーフ。
ふーっ、って思わず大きな息を吐いちゃった。
一気に噴き出してきた汗を右手で拭いていると、下の方から J が。
「いいぞ、エイミー! その調子」
大きな声で励ましてくれる。
「ブラボー!」
その途端、会場中から一斉に拍手が起こって。
30秒近く、拍手が鳴りやまなかった。
「よろしい、エイミー。それでは、引き続いて実技3を行います。用意、スタート!」
王女様の掛け声と同時に、いよいよ最後の実技が始まる。
これが、一番苦手なんだけど。
今までの練習でも、成功率は5分5分。
でも、思い切って飛ぶことにした。
J が心配そうに、エイミーを見つめている。
両手をしっかり握りしめて。
澄んだ黒い瞳が、無理しなくていいぞって言っているように見える。
少し、気分が落ち着いてきたみたい。
すーって、大きく息を吸って。
みんなが待ち受けているギャラリーを。
ほうきに乗って、ゆっくり見下ろす。
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この高さから……大体、50メートルぐらいかな?
急降下して、ぴたっと地上スレスレで静止しないとダメなの。
これって、かなり高度な技術がいるんだ。
あまり速度を出しすぎると、うまく止まれないし。
バランスを崩して、失墜してしまう。
正直いって、怖い。ホント怖いよ──。
でも、 J のためにも、トムのためにも。
そしてこの大事な時間を割いて、エイミーに機会を与えてくれた王女様とこの国の人達のためにも、勇気を出して飛ばなきゃ。
みんな、エイミーを助けて下さい。
祈るような気持で、えいっ! って。
エイミーを見上げる群衆の方に向かって、急降下!!
どんどんどんどん、地面が近づいてきて。
目を閉じたら、地面に直撃しそうで。
ジェットコースター並のド迫力☆
王女様が見守る、象牙の塔がすぐ目の前で。
ここで、STOP!!
と、なるはずが!
緊張のあまり、スピードの出過ぎで止まれない!!
エイミーを乗せたほうきは、流れ星みたいにひゅ──って。
J が驚く目の前を、すごいスピードで通り過ぎて、放物線を描くように、また上空まで舞い戻ってしまった★
失敗……しちゃった。
もう、顔面蒼白。
心臓なんかパクパクいって。
絶対絶命のピンチ!!
下を見ると、 J が何とも言えない哀しげな悔しそうな顔でエイミーの目をじっと見ている。
会場中、しーんって……水を打ったように静まり返っている。
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「お願いです。もう一回、チャンスを下さい!」
お願い、王女様。
こんな結果じゃ、悔しすぎて!
エイミー。声の限りふりしぼって。
王女様に懇願するの。
王女様はみんなが見守る中、象牙の塔のバルコニーに一人立ち、相変わらず凛とした顔で少し心配そうなニュアンスを瞳に浮かべてエイミーを見上げている。
でも、その瞳は、頷いているように見えたの。
もう一度、トライしてみなさい……って。
「それでは、もう一回。行きます!!」
エイミー。スタート地点まで急上昇して、大きく息を吸った。
ダメでもともと。
もう、怖いことなんか何もない。
J 、行くよ。
エイミー。もう一度。
心を奮い立たせて飛び立つ。
絶対出来るんだ。今度こそ出来るんだって。
自分に言い聞かせながら。
40メートル、30メートル、20メートル……ここから一気に加速する。
ほうきをしっかり握りしめ、穂先を少し上に傾ける。
この時、一気に外部から風圧がかかって、バランスを崩しかける。
でも、落ち着いてしっかり前を──。
すぐ前よりもうちょっと向こうを、きっと見つめるの。
J が教えてくれたように。
15メートル、10メートル……穂先をだんだん上に上げていく。
それにつれてスピードは徐々に遅くなっていく。
着地地点はもう目の前だ。
でも、ここで気を抜くと、おしりからドシンッて落ちてしまうから。
ゆっくりゆっくり細心の注意を払いながら、スピードをどんどん緩めていく。
一瞬、時間の流れが止まってしまったかのように、音もなく緊迫した空気だけがストップモーションがかってエイミーの横を通り過ぎていく。
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あと5メートル、4メートル、3メートル、2メートル……。
ゴールの白線が、目の前に大きく飛び込んでくる!
あと1メートル……ゴール!!
今度は、白線の上にきっちりと停止した。
「やったぞ、エイミー!」
J の歌声が響き渡る。
「今のは完璧だよ、エイミー」
トムの興奮した、うわずった声も耳に飛び込んでくる。
それと同時に、色とりどりの紙テープが舞い、紙吹雪と割れるような拍手、歓声があたり一面からわき起こった☆
「よかったね、エイミー」
群衆の中から、エマちゃんが駆け出してくる☆
エイミーが助けた羊さんを抱いた羊飼いさんも後に続く。
やっと終わった……という少しの安心感と。
失敗した時の焦り、不安がごっちゃになって。
ずっとほうきを握りしめていた手のふるえが、まだ止まらなくて。
エイミー。それでも勇気を出して。
バルコニーの王女様の澄んだ瞳をしっかりと見つめた。
王女様は、微笑みを浮かべながら。
優しくエイミーを見つめ返す。
「みんな、どうかしら。エイミーを合格にしてもいい?」
バルコニーの周りをぐるっと見渡しながら、よく通大きな声で群衆に問いかける。
「合格!!」
「賛成」
「異議なし」
口々に群衆の中から声があがって。
エイミー。なんだか信じられなくて。
しばらく感激のあまり、ぼーっとしてると。
「それでは、エイミーを合格にしていい人。拍手をお願いします」
王女様がそう言い終わると同時に、割れんばかりの拍手が鳴り響き、止まなかった。
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「 J ……みんな、本当にありがとう」
もう声にならなかった……。
エイミー、みんなにもみくちゃにされながら手荒い歓迎を受けて、泣き出しそうな気持になるの。
「失敗しちゃって……もうダメかなと思ったけど、みんなが応援してくれてホントに嬉しかった」
涙でいっぱいの瞳で見上げると、王女様が慈愛に満ちた瞳をエイミーに注いでくれる。
「それでは、エイミーを今日から正式にこの国の一員に迎え入れていいですか?」
「いいとも」
「大賛成!」
「エイミー、おめでとう!!」
色んな声が一斉に飛び交って。
エイミー。幸せのあまり、頭がクラクラしてきちゃった☆
「それでは、満場一致で決まりね」
どうやら、この国の人みんな。
エイミーのこと本当に好きになって、迎え入れてくれたようです。
「それでは、引き続きエイミーの歓迎会も兼ねて、毎年恒例の年越しのダンスパーティーへと移らせていただきます」
スピーカー越しに、女王様の司会の声が会場中に響き渡り。
みんな待ってましたというようにパートナーの手を取って。
それぞれの場所に大急ぎで散っていく。
そして、静かにワルツの音楽が流れ始めた。
照明が1つ消え、2つ消え。
ダンスパーティーにちょうど良い明るさになって、象牙の塔がピンクと紫のイルミネーションで鮮やかに照らし出される。
「キレイだね、 J 」
J の顔も、エイミーの顔も。
会場を照らす色とりどりの黄色や緑のライトで明るく照らし出されて。
お互い顔を見合わせて、くすって笑っちゃった。
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会場中、あちこちでスポットライトの明るい光りの輪がそれぞれのパートナーを照らし出している。
精一杯着飾った花売りの女の子と、すました羊飼いさんとのペア。
エマちゃんは、可愛いイルカさんとペアを組んでいる。
イルカさん、エマちゃんにゾッコンみたい。ふふっ♪
天使の男の子達は、キラキラ輝くモールの帯とか小さな万国旗の連なったものを持って会場中付けて回って飛んでくれて。
ダンスホールの雰囲気を一段と盛り上げてくれるの。
いつの間にかワルツの音楽が止んで、バラードの組曲が流れ出した。
「エイミー、踊ろうか?」
J がエイミーの手を取って、ホールの中央に進んでいく。
「さあ、エイミー。あとは練習した通りに踊るんだよ」
J が優しく、エイミーの手を取って滑るように踊り始める。
J の左手と、エイミーの右手が重なって。
その熱い血潮の絆は、ターンの度に高く上に上げられその輪を、エイミー、 J の順にくぐり抜ける。
「エイミー、今日は、よくやったな。でも、失敗した時はホントに心配したぞ。なんだかじっとしてられなくて、すぐにも飛んで行きたい気持だったけど。みんなの手前、必死で我慢したんだ」
J がダンスの途中、ぎゅっとエイミーを抱きしめてくれる☆
「こんな気持、初めてだよ。エイミー」
J が小声で囁く。
「自分以外の誰かを、こんなに心配したのは」
エイミー。上を向いて。
J の澄んだ黒い瞳をじっと見つめるの。
少し潤んだ瞳に、蒼や紫の光りが反射して。
魔法使いの J が醸し出す、幻惑的な世界に、今にも引きずり込まれそうなの。
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「 J がいるからこんなに頑張られたんだと思う」
エイミー、正直に今の気持を J に告白するの。
「ホントに、怖かったけど……練習してもしてもうまく行かなくて、試験に合格しなかったらどうしようって。 みんなに、こんなに迷惑掛けて、それで落ちちゃったらって……」
なんだか言葉が続かなかった──。
バラードの組曲の演奏が、一度止んで。
あたりが、しんと静まり返った。
J は心配そうに、エイミーを見つめ返す。
「あのね、もうエイミーには他の道はないんだ……。なんて考えると、すごくプレッシャーが掛かってきて。それでも、もうここまで来たら逃げられないし。不安で、不安で……。 J とトムが暖かく励ましてくれなかったら、エイミー、絶対試験に合格しなかったと思う」
J とエイミーの肩の上の。
水色のリボンを首に付けた、トムが。
ちょっと困ったように顔を見合わせる。
「でも、終わりよければすべてよし! エイミー。やり直した最後の飛行。完璧だったよ。練習でも見せたことがないくらい」
トムが暗い顔すんなって。
エイミーのほっぺたを、ポンッて愛情たっぷりに押してくれる☆
「とにかく、エイミーが今後どうだろうと、トムはずっとエイミーの側にいるから」
言い終わる言い終わらないかのうちに。
思わずトムをぎゅううって、強く胸に抱きしめちゃった☆
「エイミー、本当に嬉しいよ。今まで生きてきた中で、一番幸せ」
感動して、思わず涙が溢れ出て来ちゃった──。
「もう、何も心配することないからな。めでたくこの国の一員になれて。みんな、エイミーのこと受け入れてくれたんだから」
J が本当によかったと、エイミーとトムを両手に強く抱きしめる。
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もう、涙、涙……で。
ふと気が付くと、みんな踊りを止めて。
J とエイミーの方を見つめていた。
「それでは、 J の好きな「G線上のアリア」の曲を流して下さい」
王女様が大きな声で仕切るように言うと、天使の少年合唱団の奏でるオーケストラ形式の「G線上のアリア」の曲が、大きなダンスホール中に静かに響き渡った。
J が、白銀の三日月のように冴えきったキラキラした眼差しでエイミーの瞳を見つめる。
いつも見慣れた J だけど、思わず胸がドキンって高鳴っちゃった☆
「それじゃあ、エイミー。始めようか」
J が、軽くエイミーの手を取って会場中の群衆に向かってお辞儀をする。
エイミーも練習した通り、 J のダンスのパートナーとして恥ずかしくないように、続いて深くお辞儀をした。
「エイミーをこの国のメンバーに加えてくれてありがとう」って。
感謝の気持ちを込めながら。
みんな、 J のダンスを楽しみにしていたみたい。
待ってましたとばかりに、割れんばかりの拍手がエイミー達に降り注ぐ。
「みんな、 J のダンスを、それはそれは楽しみにしてるんだよ」
トムがこそっと、耳元で教えてくれる。
「さっき、花売りの女の子達に聞いたんだけど。
この国で、 J の踊りが一番上手いんだって」
えっ……。と周りを見渡すと。
みんな一様に輝いた顔で。
笑顔でエイミー達に、拍手を送っている。
そんな……。
こんな時に言わないでよ、トム。
すごいプレッシャーじゃない!!
心臓が、ますますドキンドキンしてきた。
「今年は、誰が J のパートナーになるんだろうって。みんな楽しみにしてるんだって。この国の女の子、みんな J と踊りたいんだって」
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もう……知らない……。
あとは、 J と練習した通りみんなの前でミスなく踊るだけ。
でも、なんだか夢の中みたいに幸せな気持。
J がクリスマス・イブの晩にエイミーに言ってくれたことをもう一度、心の中で繰り返してみる。
「みんながエイミーに夢中、と自己暗示にかけてごらん。エイミーは世界一のプリマドンナで、周りはエイミーを一目見に駆けつけたお客様で、いっぱい。僕はダンスのペアを正確にこなす、トップダンサー」
エイミー。
しっかりと J の瞳を見つめる。
ダンスのペアはお互いの信頼関係が、一番大切なんだ。
みんなが見守る中、音楽が静かに流れ出し。
J がエイミーの手をしっかりと握りしめ、ゆっくりと滑るように軽やかに踊り始める。
「エイミー、練習通りやるんだよ」
素直に、コクンと頷くエイミー。
緑のスポットライトに照らし出された中、エイミーと J のペアは呼吸ぴったりでステップを踏む。
白い月が空高く登って、2人を優しく照らし出す。
J と初めて出会った時のことが、昨日のことのように思い出される。
J は、三日月に腰掛けて銀色のフルートを奏でていたんだっけ。
右斜めに2ステップ、クルッと回って横に2ステップ、左斜めに2ステップ。
天使のように、軽やかで。
蝶のように、華麗に。
黒豹のように、しなやかに。
「もう少し、スピードを上げるよ」
J が耳元でそう囁く。
途端にエイミーの黒いエナメルの靴が、魔法にかかったようにふわっと軽くなって、
とても速く上手にステップが踏めるようになった。
「 J ……」
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J がパチンと大きくウィンクしてみせる。
「気にしない、エイミー」
両手を大きく広げて、体を左に傾けてステップを踏み、その後続いてくるっと回転して。
エイミーの水色ドレスの裾が蝶のようにふわっと広がり、左足を軽やかに高く上げる。
続いて、 J がターンをばっちり決めて。
連続三回転!
会場中から、うわあっと歓声が漏れる中、 J はぴたっと回転を止め、かかとを鳴らしながら調子よくステップを踏む。
カンカンカン・カンカンカン★
小気味よい、爽快な音が。
会場中に響き渡って。
みんな J の陽気なステップに合わせて、手拍子する。
もう、会場中まき込んで、凄い熱気!!
J とエイミー。
手を取り合って、広いダンスホール中を。
ステップして回る。
羊飼いさんに、人魚のお姉さん達。
エマちゃん。
お花売りの女の子達がみんな、
エイミーと J に手を振ってくれる。
虹色のライトに照らされた象牙の塔の前で、
J が王女様の前でポンと、大きくとんぼ返りをうってみせる。
王女様は、王様と女王様の間でにこやかに微笑んでいる。
「 J 、とても上手」
王女様が拍手を送ってくれる☆
「それじゃあエイミー。フィニッシュ行くぞ!」
J がエイミーの手を取って、中央に連れて行く。
ツーステップのワルツを軽く踏んだ後。
-75-
J が、エイミーの体をぎゅっと引き寄せ、みんなの前で高々とエイミーを持ち上げて。
クルクルクルって、回ってみせる。
エイミーのドレスは、キラキラキラって黄金色に輝いて。
踊り始める前の緊張が、嘘みたいに吹っ飛んで。
なんだかすごく幸せな気持ち☆
「ブラボー!!」
割れるような拍手が鳴り止まない。
花束がたくさん飛んできて、
エイミー、飛んできた花束をキャッチして笑顔で手を振る。
「エイミー、可愛いよ!」
「すごく、上手だったよ」
みんなが口々に褒めてくれる。
「エイミー、おめでとう!!」
「エイミーと J 、末永くお幸せに」
湧き起こる拍手の中。
J がエイミーの顔を、じっと見つめて。
「エイミー、これからもずっとオレの家に、いていいぞ」
J がマジな顔で、頼もしそうにそう言ってくれるの。
「よかったね、エイミー」
トムが感動のあまり、泣き出して。
なんだか、凄いことになったけど。
うん、 J とトムがいたら。
この先、何があっても。
何とかやって行けそうな気がする。
みんな、本当にありがとう。
私、チビで世の中ホント分かっていないおバカさんだけど。
必死の思いで、やっとこの国の一員として認められたんだから。
今のこの感謝の気持ちを忘れずに。
これからもずっと、みんなと仲良くやっていきたいな。
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J 、トム。
そして……。
エイミーをこの国の一員に迎え入れてくれたみんな、
本当にありがとう……。
きっと、エイミー。
今夜のことは一生忘れません。
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