イケメン妻は年下夫の愛に囚われる
七夜かなた【10月1日新作電子書籍配信】
第1話
「それでは、お休みなさい」
いつものようにラファエルはアニエスを抱き、一度精を放つと、さっとガウンを羽織り自室へと戻ろうとした。
「あの…ラファエル」
いつもは黙って見送っていたが、その日は彼を呼び止めた。
「どうかしましたか?」
二人の寝室を繋ぐ扉を半分開けた状態で、彼は足を止めて振り返った。
「えっと…その…ここでの生活は…どうですか?」
聞きたいのはそれではないが、うまく言えない。
「……特に不満はありません」
「そ、そう…」
少し間があったのが気になったが、顔半分が扉の影になっていて、暗がりだということもあり、彼がどんな表情でその言葉を口にしたの彼女にはわからなかった。
「用はそれだけですか?」
「あ、ええ、呼び止めてごめんなさい」
「いいえ。それでは、ゆっくりお休みください。また明日」
ラファエルが扉の向こうに消え、パタンと閉まる。
「はあ~、私ってこんなに意気地なしだったの…」
聞きたいことをはっきり切り出せなかった己の不甲斐なさに、自己嫌悪に陥る。
結婚して一年半。
初夜から今日まで、騎士団での勤めと家長としての勤めで忙しいアニエスと夫のラファエルとは、彼女の騎士団での仕事が休みの前の日、週一回の営みを続けてきた。
普段は別々の寝室を使い、その時だけラファエルが彼女の部屋を訪れる。そして彼女の中に一度だけ精を放ち、自分の寝室に引き上げる。まるで仕事のような夫婦の営み。
しかし、時折休日返上で働くこともあり、それすらも出来ない日もあった。
子供をつくるためだけの行為。
それが世の中の夫婦の生活だと、アニエスは思っていたのだが、それが勘違いであったことをつい最近知った。
「カーラ、首筋に赤い痕が…何かに刺された?」
更衣室で、最近結婚したばかりの女性騎士の首筋に、赤い虫刺されのようなものを見つけ、どうしたのかと尋ねた。
「え? こ、これは」
彼女は真っ赤になって、慌ててその部分を髪で隠した。
「ベルフ卿、新婚の彼女にそんなこと聞くなんて、野暮ですよ」
「そうです。私達だって気づいていたけど、黙っていたのに」
同じ部屋にいた他の女性達が、アニエスに注意する。何かいけないことを聞いてしまったようだ。
「申し訳ない」
「いえ。その、これは昨夜夫と…少し盛り上がってしまって…いつもは見えない所に…わ、私ったら…」
カーラは更に赤くなり、周りが微笑ましい目でそれを見る。独身の者は「うらやましい」だの、既婚者は「うちもそうだった」「懐かしい」とか、色々感想を呟いている。
「夫君と喧嘩でもしたの?」
「夜の夫婦生活のことですよ」
キョトンとするアニエスに、他の者たちが付け加える。
「夜の…」
ようやく合点がいき、アニエスも仄かに頬を染める。
「もう、ベルフ卿だって、まだ結婚して一年とちょっとですから、まだ新婚ですよね」
「そうですよ。それもすっごく美男の旦那様なんて、うらやましいです」
「ずっと気になっていたのですが、旦那様はあっちの方はどうなのですか?」
この中で一番年嵩のマーリンが発言した。
「どう…とは?」
「意外に激しいとか、淡白とか。ひと晩で何回?」
「え?」
聞かれた意味がわからず、アニエスは目を丸くする。他の者たちも、興味津々で彼女を見る。
「ちなみに、うちはひと晩で最高五回です」
「五回!」
「もう三年ほど前ですけど。今は三回かしら。もう身体中真っ赤になるくらいの印を付けられました」
「真っ赤に」
彼女たちの話を要約すると、男性は一度精を放っても、すぐに復活する者もいて、何度もすることがあるそうだ。そしてその際に唇で肌に吸い付き、所有痕のように体に薔薇の花びらのような痕を残すらしい。
カーラのもそうで、恥ずかしいと言って胸やお腹、背中や足の内側に付いたものを見せてくれた。
女性騎士は全体の一割にも満たず、そのような話をしたのはその時が初めてだったアニエスは、大きな衝撃を受けた。
ラファエルはいつも一回しかしない。
それが普通だと思っていた。
男女の夜の生活について、これまでアニエスは誰かとこんなふうに話をしたことがなく、一回が当たり前だと思っていたのだが、そうではなかったことをその日知ったのだった。
「仕方が無いよな。私と彼はカーラ達のような普通の夫婦じゃないから」
一人になった寝室で、カーテンの隙間から見える月を見上げながらアニエスは呟いた。
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