因子を持つ者

洒落

エピソード0

途切れそうな意識を繋ぎ合わせ、無理矢理に目を開ける。

俺は今、巨悪と対峙をしている。共に戦い抜いてきた愛刀「空蝉」をグッと握り直し、呼吸を整える。


「…これで終わりにしたいもんだ。」


巨悪との対峙はこれは最初ではない。何度戦い、何度負け勝っただろうか。

巨悪の名はシャドラ・ベリア。元は人に近い形をしており、世界の全てを手中に収めようと暗躍した悪魔である。それが今では姿を変え、巨大なモンスターと化している。発する言葉はすでに言葉ではなく、ただの唸りとなっている。


「空蝉、開眼せよ。」


俺の言葉に呼応し、空蝉の刀身が鈍く光る。


「月歩閃斯。」


俺は踏み込み、巨悪との距離を詰め、愛刀によってその胸元を大きく切り裂く。


巨悪の咆哮と共に、切り口から闇が漏れ出し、満ちていく。

満身創痍に倒れ込んだ俺を覆い隠すように闇が踊る。


俺は愛刀を納め、抱え、その闇に身を任せた。


「ここまで来たんだ。最後までお前に付き合ってやるよ。」


そこで意識は途切れた。


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「こうして、光の使者によって巨悪シャドラは討ち果たされ世界に光が戻りましたとさ。」


「お母さん!光の使者はどうなったの??」


目を輝かせて勇者の冒険譚を聞いていた少年は、母親に抱きつき、質問をする。


「使者様に行方は誰も知らないんだよ。きっと今もどこかでこの世界を見守ってくれているさ。」


「そうなんだ!いつか会ってみたいな!」


「会えるといいね。さぁクロア、今日はもうお休み。」


「はぁい。」


この少年クロアが母親から読み聞かせされていたのは、「ミナトの冒険譚」という世界中にある光の使者の冒険の話すを集めた伝記のようなもので、誰もがこの物語を聞き大人になっていくのだ。


巨悪との戦いの後、光の使者ミナトはその姿を消してしまったことになっている。しかし物語によって存在は後世へと伝えられ残り続けたのである。


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「数百年ぶりの目覚めに兆しだ。」


「今ある平和は仮初だということを知らしめなければ。」


「拠点にて、手筈を整えるのだ。」


「テメェが指図すんじゃねえよ!」


「貴様ら騒がしいぞ。各々すべきことを全うするのだ。」


「「「「ハハっ!!」」」」


散っていく4つの影を見送る影は大きな繭の前にいた。


「いよいよ貴方様が帰っていらすのですね。」


蠢く影は、敵か味方か。光か闇か。


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因子を持つ者 洒落 @tomikyuu

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