幼馴染たちが付き合っていると思い身を引こうとしたら、その付き合っている相手は私だった?!

梨の全て

プロローグ





 ぬくぬくのお布団の中で最適な位置を割り出すためにもぞもぞと動く。よし、ここが一番いい感じ。ああもうお布団と結婚しちゃいたいぐらいだ。この深く眠っているでもない、微睡んでいる時間が大好きなのだ。


「あかね~。ハルちゃんと麻白ちゃんがもう外で待ってるんだから、早く支度して行きなさい」


 そんな至福の時間はママの声によって終わってしまう。あれ、もうそんな時間? のそのそと目覚まし時計を確認すれば、それは確かに待ち合わせの時刻を告げていた。


 目の前の現実に、一気に眠気が吹き飛んで慌てて跳ね起きる。ハンガーにかかっていた制服を手に取り、すばやく着替えて、一階まで駆け下りた。やばいやばい、また待たせちゃう!


「なんでもっと早く起こしてくれなかったの?」


 私が理不尽な不満をママにぶつければ、『何度も声かけたわよ。起きなかったのはあかねの方じゃない』と至極真っ当な答えが返ってくる。むう、起きるまで声かけてくれなきゃ意味ないよ。


 抱いた文句は胸に秘め、机に用意されていた朝食に手を合わせ、いただきますをしてから食べ始める。私の体は燃費が悪いので朝食を食べないと、パワーが出ないのだ。



 ごめんなさいね~、うちの寝坊助が。

 いえ、気にしないでください。私たちが勝手に来ているだけですから。



 ママたちの会話が玄関の方からうっすら聞こえてくる。やばいやばい。その声に急かされるように、私はご飯をかき込んだ。


「ひょっほはっへへ。ひはひふはは」

「飲み込んでから話しなさい。あかね」

「んぐっ。今行くから。ごちそうさまっ」


 食器をシンクに片付けて、そのまま洗面所に行き、うがいも済ませて、——うん、ちょっと寝ぐせはあるけど、後で整えればよし。二階の部屋に戻って学校のカバンを持って玄関に向かう。


「はあ、こんなにハルちゃんや麻白ちゃんたちをお待たせして。我が娘ながら情けないわねえ」


 呆れた表情で見送るママにあははと曖昧な笑顔で答えながら、靴を履く。玄関の扉を開ければ、二人が待っていた。


「はあはあ、二人ともお待たせ」

「ううん、全然。気にしなくて大丈夫だよ」

「あかねのためならいつまでも待ってる」


 ハルちゃんとシロちゃん、二人は私の幼稚園のころからの幼馴染で、親友だ。いつもこうして、寝坊しがちな私と一緒に登校してくれている。呆れることなく付き合ってくれる彼女たちには本当に頭が上がらない。


「あはは、次は寝坊しないように気を付けるから。にしても今日はいい天気だね。絶好の登校日和だ」

「昨日もこんな感じだったじゃん」

「そこはやっぱり気分の問題だから」

「私はあかねがいれば毎日いい天気だよ?」

「ふふっ、何それ。ありがとね、シロちゃん。ほら早く行こ」


 いつもと同じように二人と手を繋いで先へと引っ張る。宿題はどうだっただとかあの先生は厳しいだとか、他愛もない話をしながら歩いていくと、すぐに私の通っている学校が見えてきた。星芒女子高等学校、いわゆる女子高ってやつだ。それも県内屈指の進学校。ふふん、鼻が高いね。


 もともとは家に近い公立の高校に行こうと思っていたんだけど二人が猛烈にここを推してきたので、ダメ元で受けてみることにしたのだ。学力的には厳しかったけど、シロちゃんが根気よく教えてくれたおかげでなんとか滑り込むことができた。


「じゃあ、またお昼ね」

「じゃあね」

「待ってる」


 校内まで一緒に入った後、二人とは一旦お別れだ。不幸にもクラスが分かれてしまったので、仕方ないけど、折角なら一緒がよかったな。ようやく慣れた校舎を一人で歩くのは少し寂しかった。


「おはよ~」

「「おっは~」」


 教室に入ると、高校からできた友達に迎えられる。女子高っててっきりお嬢様みたいな子ばかりだと思っていたから馴染めるか不安だったけど、実際はそんなこともなく、皆優しい子で嬉しい誤算だ。


「今日も今日とてラブラブだったねえ」

「えっ、そうかな?」

「そうだよ、高校に上がってるのに手を繋いで登校するなんてなかなかないよ」

「窓から見てたけど、よくもまあ飽きもせず毎日イチャイチャしながら登校するよな」

「まあ、幼稚園のころからずっと一緒だったからね。なんて言うか、それが当たり前なんだよね」


 でも、周りの話を聞いてると、高校生にもなると、幼馴染とは自然と離れていっちゃうらしい。それはすごい寂しい気がするけど、いつかは私も二人と離れる日が来るのかな。そうしたら、どうしよう? 二人がいない毎日なんて想像もできないや。少しセンチメンタルな気分になっていると、話題はいつの間にか私の幼馴染に移っていたようだった。


「にしても、すごいわよね。あかねの幼馴染」

「ほんとほんと。彩色さいしきさんはスポーツならなんでもござれのスーパー高校生でしょ。この前も助っ人に入ったバスケ部の試合で大活躍したって聞いたわ」

「まじそれな。それに逆月さかづきもやばいって話だろ? 全国模試一桁の常連で、この前の定期テストでは全教科1位だったって他クラスのやつらが噂してたぜ」


「そうなの! 私の幼馴染はすごいんだよ! ハルちゃんは、すらりとしてて、運動神経抜群で、かっこいいでしょ? でもでも、超女の子らしい可愛いものが好きっていうギャップが、可愛いよね。で、シロちゃんは逆に小っちゃくて可愛いよね。でも、その小さな頭にどうしてそんなに知識がいっぱい入っているか不思議なくらい物知りなんだよ! 頭も良いし、可愛いしで、もう最強だね!」


 私が幼馴染の魅力について力説すると、どうしてか皆黙りこくってしまう。一体どうしたんだろう? 私の幼馴染たちの魅力はこんな言葉じゃ全然足りないのに。私が不思議に思っていると、後ろからとんとんと肩が叩かれた。


「ええ、そうですね。お二人は素晴らしいですね。真宵あかねさん?」

「へっ?」


 低い声が聞こえ、振り返るとそこには、にっこり笑顔の山田先生がいた。あれ? でも目が笑っていないような……。


「あっ、山田先生。どうしたんですか?」

「どうしたんですかじゃありません、真宵さん! この前の定期テストでの自分の成績を忘れたんですか!」

「ひっ」

「このクラスで赤点を取ったのは貴女ただ一人なんですよ。今日、放課後補習を組んだので、参加するように」

「えっ、でも」


 放課後はハルちゃんたちと一緒に帰らないと。私が反論しようとした瞬間『いいですね?』と有無を言わさぬ声で訊かれ、咄嗟に『はい』と答えてしまった。


「よろしい。——じゃあ、皆さんホームルームを始めますよ。席について下さい」


 そう言って、離れていく先生を恨みがましく見るも、現実は何も変わらなかった。周りの皆はドンマイだとか、勉強するいい機会じゃないかと励ましてくれたけど、私の心は晴れなかった。ああもう、最悪だ。








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