星の魔女〜無情な世界で生きる、ある冒険者の人生〜

諫崎秋

第1話

体中を血に覆われ、泣きわめく何か、その手に持つのは何者かの体であった。俺はその光景をどこからか眺めていた。すぐそこにあるはずの誰かと、そして骸の主の顔はぼやけ、何故か認識することが出来ない。姿かたちもぼやけ、身長を把握することもかなわない。抱きしめるその人は、大切な人なんだろうか?何があってあんなことになったんだろうか?

 疑問は尽きないもののしかし、どこか他人事には思えない。感じるのは、底知れない恐怖と、喪失感であった。


「あの」


 声をかけてみるものの、何かは答えることは無い。何かはなおも泣きわめき、あふれる涙で骸を濡らしていた。近付こうと歩み寄りを試みてみるも、距離が縮むことは無かった。不可解な現象はもどかしく、俺を段々と焦らせた。泣きわめくあいつに影響されたのだろうか、俺もだんだんと涙があふれてきた。無力感と絶望が段々と体全体を覆っていき、自分の感覚を鈍らせていった。


「はぁ、はぁ」


 呼吸は段々早く浅くなり、焦りをさらに加速させていった。誰か助けて、誰か、誰か治してくれ、誰か、誰か。過呼吸で意識が薄れていくにつれ、何かの声が頭の中に響いていった。







「はぁ、はぁ、はぁ」


「二ドル、落ち着いて」


「はぁ、はぁ」


 テントの中で過呼吸とともに目覚ますと、ラーナが声をかけてくれた。体中から感じる不快感と焦りで体を起こすと、ラーナは背中をさすってくれた。さする手を感じて落ち着いた俺は、段々と落ち着いていき、はぁ、はぁ、と浅くなっていた呼吸をもとの物へと戻すことが出来た。

 たまに見るあの夢は、幾度となく俺を焦らせてきたものであった。何度も何度も見てきた、覚えている、覚えている、あの夢だと。微かに残る記憶を頼りにメモに書き留めようとするも、書き留めようと思い出したところで忘れてしまう。本能が訴えかけてくるのだ、あの夢は重要何かであると、忘れちゃいけないことだと。何度も何度も、手法を変えて試してきた、あの夢の概要を忘れまいと、あの夢の出来事を忘れまいと。しかし、いつもいつも失敗に終わってしまう、結局、今の今まで内容を書き留めたりできたことがない。


「大丈夫?」


 ラーナが落ちついて対応してや対応してくれたのもそのためであった。こうして夢を見るたび、毎度毎度、うなされる俺を落ち着かせようと駆けつけてくれるのだ。冷静に、そして優しく。過呼吸に焦る俺を、夢の何かに涙を流し、全身に汗をかく俺の背中を優しくさする。


「あ、あぁ、大丈夫」


「そう、、、よかった、夢の内容は?」


「今回も駄目だった、何一つとして覚えちゃいない」


「そう、でも落ち着いてよかった」


「あぁ、ごめん、ありがとう」


「ううん、いいの」






 俺たちは今、人生をかけて冒険をしている、世界中あらゆる場所を巡るために。俺、こと二ドル、ラーナ、そして俺らの父親グレンとともに、俺たちは果てしない旅路を歩みはじめたのだ。たった三人の小さなチームではあるものの、二人のチームメイトはとても頼もしい存在である。第一目標として目指すのは世界一周、現在は大陸を横断しているさなかで、最初の補給地点に俺たちは到着しようとしていた。

 俺は馬にまたがりながら、この旅にとって記念すべき最初の町の城壁を眺め、感動していた。石造りの頑丈な城壁に、その上に見える兵士、俺にとって初めて見る光景だった。


「グレンさん、あれが最初の町?」


「あぁ、そうだ、あれが最初の補給地点、グスコだ」


「記念すべき最初の町だね」


「「うん」ああ」


「なかま、見つかるかな?」


「見つかるといいな、まあ、焦らなくても大丈夫だろ」


 そう、俺たちは仲間を募集中なのだ。いくら手練れの三人組とはいっても人数が少なすぎる、旅の中でやることを分担していたら三人はぎりぎりの人数、もしも、もしも誰か一人が使い物にならなくなってしまったらそのまま崩壊の危機に陥ってしまう、かなり危険な状態である。


 一応旅に出る前も募集をしたのだ。しかし、応募は集まったのは良いのだが、条件に合う手練れの物は見つからず、誰一人として採用できず、今の状態になったのだ。


 それなら条件をもう少し緩くすれば?と思うかもしれないが、しかし、旅の仲間は信頼できるものでないとだめなのだ、軟弱であってすぐに使い物にならなくなったり、信頼できる性格をした人間であったりしなければならない。が見つからなかった為に仕方なくこうなっているという感じだ。だからこの町でも募集してみようと前々から三人で話していたのだ。


 そうして検問やらなにやらを済ませて町へ入ると、活気であふれる街中が俺たちを出迎えた。立派な城門といい、この町の活気といい、やはりこの町はかなり栄えているのだろう。


 グレンさんは以前に来たことがあるそうだから勝手知ったる感じではあるが、俺とラーナは来たことがないためにどこかそわそわとしていた。俺たちの住んでいたのは町でなくて村であったため、このように人が多い場所は初めてなのだ。


「まず、宿をとるか」


 このパーティーの中の最年長であるグレンさんの指針の下、俺たちはまず宿をとりに行った。まあ、取りに行くと言っても、その宿はグレンさんの知り合いの店だということである。


 そうして城門から暫く歩いて、俺たちは目的の宿のフロントに到着すると。グレンさんがフロントで本を読むご婦人に声をかけた。この宿の女将さんだろうか?


「よう、ドレーナ久しぶり」


「ん?ああ!久しぶりね、グレン」


「おう、久しぶり、朝食付きで部屋を取りたいんだが」


「良いけど、どうしたんだい?冒険者はやめたんじゃなかったのかい?」


「ありがとう、ああ、やめたが、こいつらの旅を助けることになってだな」


「何日だい?そうかい、その子たちは何なんんだい?あんたの子供かい?」


「決まっていないが、とりあえず七日ほどだ、ああ、俺の子たちだ」


 迷わずに息子だと言って呉れたグレンさんに、俺はどこか照れ臭かった。拾っただけの俺の事を今までもしっかりと育ててきてくれたものの、こうしてしっかりと言葉で愛を実感する機会があまりなかったのだ。15にもなってこう思うのは少し恥ずかしいが、やはり嬉しかった。


 グレンさんが言うとドレーナさんは俺らを少し見た後にグレンさんに言った。


「ははは、グレンの娘に息子か、あんな荒くれ物だった野郎がこんなに丸くなって、それに子供が出来ただなんて、時間だねぇ」


「ああ、そうだな、時は人を変える」


 そうして二人で感慨にふけったのだろうか、暫くするとドレーナさんがこちらを向いて挨拶をしてくれた。


「初めまして、私はドレーナって言って、この宿女将をやっている女よ、お二人の名前はなんていうのかしら?」


「僕の名前は、二ドルって言います、二ドル・クリュです」


「私の名前は、ラーナです。ラーナ・クリュです」


「いい名前ね、よろしくね、二人とも」


 ドレーナさんが俺とラーナと順々に握手をしてくれた。するとドレーナさんはグレンさんに向き直って宿の代金について話し始めた。


「代金は一部屋で銀貨二枚よ」


「そうか、じゃあ、決めておいたように一部屋でいいな?」


 グレンさんは俺たちのほうを向くと確認してくれた。


「「うん」」


 しかしそれを見たドレーナさんは少し困ったような顔をして言った。


「ごめんね、いま、三つベットが置いてある部屋があいてないのよ、今は一人部屋か、二人部屋しか空いてないの」


「そうか」


「お詫びと再会のお祝いで、二人部屋と一人部屋それぞれ一つだったら三人部屋と同じ料金にしてあげるけど、どうかしら?」


 ドレーナさんは少し申し訳なさそうにそういった。


「分かった、二人はそれでいいか?」


「「うん」」


 俺たちは気にしていなかったためすぐに了承した。


「じゃあ、そうさせてもらう、ありがとう、ドレーナ」


「ええ、こちらこそ、最近は昔の知り合いになんて合わないからねぇ、あんたに会えてこっちもうれしいわ」


 そうして部屋の鍵を受け取ると、俺たちは部屋へと向かった。部屋割りは未定である。


「ひとまず二人部屋に行って、荷物を降ろしてから部屋を決めよう」


 そうして二人部屋へと入ると、かなり綺麗めな部屋が俺たちを出迎えてくれた。


「あいつ、部屋のグレード高くしてくれたのか」


「そうなんですか?」


「確かに、部屋が凄く綺麗、それに広い!」


 確かにかなり綺麗であった為に普通の部屋でないというのは納得であるが、有難いものだ。


「で、どうする?」


「私と二ドルで二人部屋がいいかな」


「そうか、二ドルはどうだ?」


「それでいいです」


「そうか、分かった、それにしても、案外早く決まったな、とりあえず部屋に荷物を置いてくる、俺の部屋はここの右隣だからな、準備が出来たら外に行こう」


 グレンさんはそう言って、俺たちを少し見た後に部屋を出て行った。






 そうして暫く、俺とラーナは荷物の片付けと外出の支度を終え、グレンさんの部屋を訪ねて一緒に街中を歩き始めた。


「まずは冒険者登録をしておこう」


 そうしてグレンさんについていき、俺たちはまず冒険者登録が出来る言う冒険者協会という場所に向かい始めた。因みに冒険者協会というのは別名イカレ協会と呼ばれるもので、かなりいかれた集団であるという。旅仲間を集めたり、旅の途中で集まる、特殊な生物の情報や、生物自体を売買したりできるところである。これだけだとイカレ集団と呼ばれるのはおかしいんじゃないか?思うだろうが、大丈夫だ?その呼び名をつけられるだけの理由がここにはある。らしい。俺は良く知らいない。


 考えていると、どうやら冒険者協会とやらについたようだ、何がイカレているんだろうか?ひとまず外観は綺麗目な普通の建物であった。石造りの綺麗な壁に、扉、窓。周りの建物と比べておかしいどころか、むしろ周りの建物より洗練されているようにすら見えた。


 扉を開いて中に入ると、外観の印象とは打って変わった異色な光景がそこには広がっていた。


 つるされる謎の巨大な骨に、巨大な目玉の入った瓶。巨大魚を形どった絵?や、見たことのない謎生物が駆けずり回る床。それによくわからない昔?に書かれてそうな絵。があったり、とにかく色々とごちゃごちゃになった光景が広がっていた。


「「うわぁ」」


 外観からのギャップに思わず声が漏れた俺とラーナは、同時に驚きを声を上げ、衝撃を受けていた。


 今までに見たこと、感じたことのないここの雰囲気は、俺たちにとってまさに衝撃そのままだったのだ。少しわくわくした俺は、周りをきょろきょろと見ながらもグレンさんについていって、受付までやってきた。


「冒険者登録をしたいんですが」


 俺が声をかけた受付の人は、変な格好をした男の人だった。受付の男は目が悪いのだろうか?何やら目を細めながら俺の顔を見た後言った。


「何歳かね?」


「15歳です」


「そうかね、登録するのは君一人かね?」


「いいえ、私もです」


「そうかい、わかった、お二人さん、読み書きはできるかね?」


「「はい、出来ます」」


 俺たちはグレンさんに読み書きを教えて貰っているから、読み書きなんてお手の物である、何なら算術だって、それに歴史だってある程度わかる。グレンさんのよくできた頭と、そして教育様様である。

 目の悪い男は俺たちに石板を渡すと、固形の石灰の棒を渡してきた。


「登録料はそれぞれ銀貨一枚だ、そこに名前を書け、そしたら登録完了だ」


 俺たちはそれぞれ名前を書いた後、銀貨二枚とともに石板を男に返した。男は何やら言った後、俺たちに名前が刻まれた金属製のカードを渡してきた。


「そのカードは無くすなよ、無くしたら銀貨5枚で作り直さなきゃいけなくなるうえに、色々とペナルティーを受ける羽目になる」


 男はそう言った後、このカードについて話してくれた。




「そのカードに刻まれた情報は、各地の冒険者協会の共有情報登録室に記録されている、つまり、お前らの情報はどこの協会にいっても把握されているって訳。

 

で、このカードで管理する個人の情報は、貢献度、個性、方向性、活動拠点と、まあ色々だ、情報は冒険者協会に行くたびに更新できる。そうすると、共有情報記録室にもともとあった情報に上書きされる。


 活動拠点に関しては、冒険者協会に入ることによって自動で行われるから気にしなくていい。あと貢献度に関しても似たようなもので、情報提供や、依頼達成をするたびに自動的に更新される。


 規則違反を犯した場合にも同様で、自動的に貢献度ペナルティーが入る。その他の情報は自分で更新しなくちゃならない、更新するメリットとして挙げられるのが、同じような研究をするものに会える機会が出来る、だったり、専門的な依頼が入りやすくなったりするって感じ。


 貢献度に関しては、こちらが情報買取する際の利益提供率が上がったり、情報を売ったりする際の価格が下がったり、あと、素材買取時の価格が上がったり、受けられる依頼の難易度が変わったりと、色々なメリットがある。


 まあ長くなったが、こんな感じだ。因みに、ここの本にこれについての厳密な話が長々と書いてある」



 そう言って男は机の下から分厚い本を出して見せた。


「読むか?」


 男は笑いながら言っていたけど、なかなかに尋常じゃない、この程度の内容をここまで分厚い本にまとめることのなるって。それにしても、これだけの分厚さの本だ、製作にはかなりの紙と労力を使っているに違いないから相当な価格になっているに違いない。これだけの物を各支店に置いているっていうんだったら、冒険者協会っていうのはかなり儲かっているのだろう。


「「い、いいえ、遠慮しておきます」」


「そうか、、、」


 何故か残念そうにする男を尻目に、ここに来たもう一つの理由を思い出した俺は、男に向かってもう一度話を切り出した。


「あの、俺たちの世界を回る冒険途中なんですが、仲間の募集をかけれられたりってしますか?」


「あぁ、それだったらできなくはないが、ある程度の貢献度がないとかなりの金額がかかるぞ」


 そのやり取りを見ていたグレンさんはおもむろに自分のカードを取りだすと、男に向かってカードを提示していった。


「この貢献度だったらできやしないだろうか?」


 男はグレンさんの取り出したカードを見て驚いた後、興奮しながらグレンさんに向かって問いかけた。


「あの、もしかして、あなたって、あので─────」


 驚き、興奮しながら何かを言おうとした男の口をグレンさんは無理やり手ふさぐと、何やら焦りながら男の耳元でささやいていた。聞いた男は少し興奮気味だった表情を抑えた。


「それで、出来るだろうか?」


 気を取り直してグレンさんが言うと、男は普通に返した。


「はい、無料でできます」


「そうか」


 何やらあった一幕に困惑しながら俺とラーナは顔を見合わせたが、無料になるというらしいし、とりあえず流しておこう、誰だって知られたくない過去の一つだってある筈だ、それを無理に詮索することはしない。


 そうして其のあと、俺たちは細かな条件や、内容などを伝えて募集をかけてもらった。

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