てい!
マロッシマロッシ
てい!
佐山は毎日が憂鬱だ。30歳を大きく過ぎた今となっては慣れたが、自分が選択した訳では無い事なので、どうしても考えると溜め息が出た。
佐山の家、実家は誰もが羨む豪邸だ。築200年経過した今でも専用の工務店が増改築を繰り返し、国内で1、2位を争う敷地と建屋面積を誇る。自他共に認める豪邸だ。
佐山は普通のサラリーマン。彼の収入では当然こんな豪邸を維持出来る訳が無い。
実は佐山家は政府から超機密の密命を受けた家系で、決して豪邸のあるこの地を離れる事を許されていない。
豪邸の中央部には2メートル四方に決して足を踏み入れてはならない場所がある。人が踏み入れば最後、国は壊滅するという。
佐山自身、それが何かは知らされていない。が、先祖代々脈々とこの豪邸に体の良い管理人として住み続けて来た。国が壊滅するのは嘘では無いのだろう。彼はしがないサラリーマンだが、諦念して宿命を受け入れた。
豪邸の税金や増改築費は政府持ちで佐山が払った体で支払ってくれるが、電気代等の光熱費は佐山持ち。尚且つルールがあり、防犯の為に外の照明は24時間点けっぱなし。豪邸の全場所をLED照明に付け替えたりしても、バカみたいな料金に毎月クラクラした。
諦念の気持ちもある所為か、佐山は生活は一応成り立っているので、毎日憂鬱だが生きていた。
ある日、会社から家に帰ると玄関に程近い場所に人が倒れていた。
おかしい…この手のトラブルは工務店を装った政府の人間が迅速に処理をしてくれる筈だ。事情を知らない空き巣が数回、豪邸に忍び込んだが全て闇に葬られた。怖いので結末まではちゃんと見ていないが。
政府の人間が放置しているって事は俺が行動しなければならないと佐山は思い、倒れている人に近付いた。
臭かった。酔っ払いだ。幸せそうな寝息を立てながらフゴフゴ言っている。余計に憂鬱になるが、放って置くのは目覚めが悪い。
佐山は豪邸の中央から1番遠い客間に寝かせて、ペットボトルの水を机に置いて部屋を出た。その後に着替えて晩飯、風呂に入った。
豪邸の中でもお気に入りの部屋で佐山は安い乾き物のツマミと発泡酒で晩酌を楽しんだ。週末で浮かれていた所もあり、就寝前には拾ってきた酔っ払いの事はスッカリ忘れて眠りについた。
深夜。廊下の床がサスンサスンと聞こえた。空き巣だったら、政府の人間が処理をしてくれるだろう…。佐山はそう思い再び眠りについたが、サスンサスンの音が鳴り止む事は無かった。
単純に怖かった。そして思い出した。酔っ払いのおっさんを自分が招き入れた事に。佐山は憂鬱な気分を心の奥底にしまい、武器になりそうな椅子を持って音のなる方へ急いだ。
ヤバい…確実に中央に向かっている。早歩きでサスンサスンの音を追って、佐山はサッサッと早歩きをした。
中央の2メートル四方まで残り1メートルの所で酔っ払いに追い付いた。
酔っ払いは踊っていた。木製の廊下をリズミカルにサスンサスンと鳴らしながら。佐山は楽しそうな雰囲気を呆然と見てしまった。
酔っ払いは廊下をサスンサスンと鳴らして、最後にジャンプして極めポーズ。
「てい!」
光に包まれた。
佐山が維持をしている体の豪邸で諦念した彼が酔っ払いのてい!で、人生が終わり国が壊滅した。
てい! マロッシマロッシ @maro5963
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