僕と君、あなたと私

空き缶文学

僕と君、あなたと私

 ある晩のこと、僕は気恥ずかしさに、本のページをたくさんめくり、視界いっぱいに映す。

「あなたのそういうところ、好きよ」

 君は、僕をいきなり鷲掴みにした。

 それはもう、ひっくり返る暇もなく、新調したばかりのメガネがズレ、せっかくセットした前髪が荒ぶる。

 ある晩のこと、僕はあまりの緊張に何も言えず、ページの端を湿らせた。

「あなたが好き、結婚するならあなたじゃなきゃ嫌よ」

 また君は、懸想けそうを蹴飛ばした。

 君は大作の一ページ一行目よりも暴力的で、僕の心を離さない。

 初めて、本を置いた。

 君の横顔がいつだって気になっていた。

 ページをめくるより、背表紙の数字をなぞることより、君が今何を考えてるのかが、気になった。

「ねぇ」

 僕を吸い込む瞳と合う。

「月が、えーと綺麗、ね」

 空に、白く高い満月が浮かんでいた。

 はにかむ君が傍にいる。

 あぁ僕と君の行間が埋まる――。



 もうすぐ日付が変わる。いつも本を持ってるあなたが、私を優しく見つめた。

「月が、綺麗ですね……」

 照れ照れと言った後に目を逸らす。新しいメガネをかけて、最近ちょっとおしゃれしてるあなたがよく使う遠回しな言葉。意味はよく分からないけど、好きよ。

「…………」

 そろそろかな、長いことあなたと付き合ってるもの。でも、あなたは私をちらちら見るだけ。

 私ってばハッキリ、ストレートに言うのが性に合ってるみたい。

 でも、あなたが口にする遠回りは、大好き。

 もうすぐ日付が変わる。

 真っ暗な空に浮かんだ黄色い満月が遠くにあって、とっても綺麗だから、思い出す。優しい瞳と、照れながら言った遠回し。

 気になって、調べたのよ。あなた、恥ずかしがって教えてくれないから。

 意味が分かると、あなたになら伝わるって分かると、ちょっと照れくささが出てしまう。

「僕も、ずっと前から、あ、あ、愛してる。け……結婚、しよう」

 いつも遠回りなあなたが、優しく真剣な目をして、真っ直ぐ伝えてくれた。

 あなたと私、もっともっと近づけた――。

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