捨て駒青春を君は許さない~記憶喪失した俺には5年間も付き合っていた恋人が『2人』いた~

@fagaegraeg

第1話 なんでち〇ち〇握って倒れてるんですか!?

 昼休み、ピッカピカの高校一年生である俺――二宮雪弥は、校舎の影にある用具倉庫の横に腰を下ろしていた。眼鏡をかけた角刈りの写真部の先輩に呼ばれ、地面からちょいと浮いたようなコンクリートの段差に、肩を並べる形で座っている。


 穏やかな初夏の風が頬を撫でる中、遠くに広がる運動場の笑い声をbgmに新作のコンビニ弁当を今、俺は今頬張る。


 眼鏡をかけた角刈りの写真部の先輩に呼ばれ、地面からちょいと浮いたようなコンクリートの段差に、肩を並べる形で座っている。

 穏やかな初夏の風が頬を撫でる中、遠くに広がる運動場の笑い声をbgmに新作のコンビニ弁当を今、俺は今頬張る。


「パクッ」っと一口食べる。

 …………なんだこれ不味ぃ、調味料に呪いとか絶望でも入れたのかよ。今のは言い過ぎにしても口の中で広がる微妙な味に、思わず顔をしかめる。

 ……まあ、先輩と話しながら食べてたら味なんて誤魔化せるだろう。

 何か喋ろうと先輩のほうに顔を向けると、既視感があるポーズで先輩が股間をズボン越しに握ってぶっ倒れてた。


 いや、なんで!?


「うわああ、なんでち〇ち〇握って倒れてるんですか!?」

「おほほ、ヤムチャの真似ですよ」

 ……既視感の正体はそれか。いや、それかじゃない。そもそもヤムチャはあそこを握ってない。先輩のポーズがヤムチャに酷似してただけだった。


 いかにもlolやってそうなチー牛顔の先輩は、相変わらずドラゴンボールのフリーザみたいな口調と声でふざけていた。


 俺は呆れつつ質問を先輩にぶつける。


「はあーほんとなにやってるんすか。それを披露するために俺を呼んだんですか?」

「んーそれもあるんですが……」

 それもあるのかよ。特に用ないなら帰っていい?


 呟いた先輩は一瞬遠くを見るような目をする。


「実はね、雪弥くんには特別に教えたいものがありまして。ここからだと『あれ』が見えるんですよ」

 妙に神妙な顔つきで俺の方に身を乗り出し囁いてきた。

 ……ち、ちかいし臭い。


 俺は指示語が気になり、シンプルに疑問を口にする。


「あれって何です?」

「パンツですよお!」

「うぇっ?」

 完全にフリーザを想起させる声と唐突な発言のインパクトに思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

 え、ぱんつ?パンが二つでパンツとかじゃなくて?そんな間抜けな事を考える俺の表情とは反対に、彼は至って真剣な表情をしている。


 先輩のその無駄に真剣な表情を見てると本当にパンツの話をしているのか甚だ疑問に感じてくるな……。


 俺は、確認せずにはいられなかった。


「パンツが見えるんですか?」

「ええ、見えますよ!」

 やっぱパンツだったか~。聞き間違いであって欲しかったー。

 俺は先輩から目の前わずか三メートルほどの距離にある体育館の側面に併設されている階段へと視線を移す。


 ……むむ、確かに見えそうではあるな。


 その様子を見て先輩はなんだか嬉しそうに笑いながら、目を輝かせて語り始める。

「用具倉庫横はですね!まるでスカートの中を覗くためにデザインされたかのような理想的な場所なんですよ。なぜかと言うと普通の階段でも覗き見が可能なほどにちょうど良い距離感なのもそうですが、何といっても階段がスケルトンであることがポイントなんですよ。これのおかげでパンツががっつり見える。学校内にある階段と比べるのも失礼なレベルでがっつりべっこりばっこり見える。実に圧巻なんですよね!!デスビーム!!」

「そ、そうなんですね……」

 やべえ早口すぎて何言ってるか分からねえが、最後のデスビームのモノマネが異様に上手い事だけは分かった。


 先輩は眼鏡をクイっと上げさらに続ける。


「それにですね。この配置には興味深い設計意図と情熱が感じられるんですよ。まるで階段を設計した人が、パンツを覗き見ることを前提にしているかのような情熱的な構図。私は是非ともこの位置に階段をつくった人と友達になりたい。私みたいなチー牛が学校に通う理由はもはやこれしか無いといっても過言ではないんですよ!」

「ははは……」

 先輩のあまりの熱量の高さに俺は苦笑いで誤魔化すことしかできなかった。


 二か月前に勧誘された時から少しおかしな人とは思っていたが、俺の予想を超えてはるかにヤバい奴なのかもしれない。


 今後の学校生活ましてや人生レベルで影響が及ぶかもしれないな……。

 うっ、その可能性を考えるだけで胃がキリキリしてきた。そんな不安が渦巻いていると、不意に視界の隅で動きがあった。


 音もなく開いた扉から、1人の女子生徒が階段を降りる。


 ……ふむふむ。遠目に見ても可愛らしい雰囲気の女の子だ。

 隣をチラと見ると先輩も同様に俺と同じ視線を彼女にぶつけていた。

 何見てんだこいつ。いや、人のこと言えないんだけどね……。


 すると、次の瞬間――


 先輩の肩にぶら下がっていた一眼レフカメラに彼の手がすっと伸びた。

 なんだ、その動きは……?30fpsでは再現できないほどの滑らかな動きだった。


「むむ!やはり僕の境遇力は他を凌ぎますねえ」

 …………なんで一眼レフを手に持った?

 ん?まさか……!?


 さっきの階段のパンツの話と言い、スカートの中を盗撮する気なんじゃねえのか。

 境遇力とか格好付けているが、只の犯罪じゃねえか。俺は頭の中で警報が鳴り響く。


 どうする、どうする俺!?


「ちょっ、先輩!と、盗撮なんてマジで愚かです。コードギアスをキャラデザで切るぐらいには愚かですよ!」

 オタクな先輩に愚かさのレベルをたとえなら、これしかねえ!

 だが、先輩はまるで気にせず、カメラを持ったまま余裕の笑みを浮かべている。


「心配すんな、全部うまくいく」

「いや、うまくいったら駄目なんですって」

 俺の声はマジトーンなのだが、盗撮桓騎には全然響いていないようだった。彼の余裕の笑みを見ていると、焦りが一層募る。


 だめだ、辞める気がねえ。しかも全然緊張している様子が見えないし、コイツ常習犯だろ。

 俺は不良男子みたく咄嗟に先輩のカメラを引ったくるように奪い取った。強引強引。going my ウェイ!不良はウェイじゃないか。


「なっ、なにをするんですか!雪弥くん」

 先輩が驚きと焦りが混ざった声を上げる。カメラを抱え込んだ俺に向けて、眼鏡の奥で必死に何かを訴えかけるような視線を送ってくる。まるで自分の命が握られているかのような真剣さがそこにある。


「犯罪はダメっすよ」

 なんで高校生相手に、しかも小学生相手にでも言わないようなセリフを言わないといけねえんだ俺は、と自分に突っ込みを入れる。


 でも、ちゃんと言わないとこの眼鏡は犯罪スレスレのことやりかねないんだよなあ。

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