ゴーストバスター?

ほんや

ゴーストバスター?




 パチリ。

「あの、さ。」

「ん?」

 掛けられた声に顔を上げず、疑問の声を漏らす。何か今話したいことでもあったのだろうか? そう思いながら次の手を探る。パチリ。

「……幽霊って倒せるよな。」

「何言ってんだこいつ。」

 思わず顔を上げてこいつの顔を見つめる。急に話しだしたかと思ったら、何を頓痴気なことを。幽霊の話が今までに出たかと思い返してみるも、思い当たる節はない。しかも幽霊って、まだ日の出てる今話すことなのか。

 パチリ。静かな部屋に響く乾いた音は意図せず考え込んでしまった自分の意識を現実へと取り戻させた。ああそうだ、早く次の手を考えなきゃ。こいつの話は置いて、思考を眼の前のオセロに戻さないと。明日のジュース代を浮かすために勝たなければいけないし。……ていうか、なんで修学旅行にまで来てこいつとオセロやってるんだろうな……。本当に謎だ。どうしてこんなことになったんだろうか。勝たなければ明日の所持金が若干ながらも減ってしまう。そんな大事な戦いを前に、ふと事の顛末を思い出してしまう。



 ――――――



 いつ頃だっただろうか。確か今日の朝のホテルから出て、すぐの時だったように思う。修学旅行二日目ながらもまだまだクラスメイトは元気が有り余っている様子だった。そんな中、自分はもともと運動が得意ではなかったこともあり、同じく体力がないこいつとバスの中でぐったりとしていた。昨日、多く歩いたこともあっただろう。

「……今日の自由散策、早めに終わらせてホテルでゆっくりアイスでも食べようぜ。」

 自分の横からそんな声が聞こえてくた。バスに乗っての移動時間、目をつぶり少しでも体力を消耗しまいとしているときだ。騒がしいバス内では隣にしか伝わらない小さな声だった。

「……そうしようか。」

 きっと今日の終わりには疲れ果てているだろう自分を想像しながら、しみじみとそう返した。その返事はこいつの提案と同じくらい小さな声だったと思う。

 そんなこんなで午前の講演、午後の自由散策を終え、這々の体で宿泊予定のホテルにたどり着いたのは集合の1時間半前だった。何と自分たちよりも早く戻ってきたグループもいたらしい。早めにホテルに来た理由は定かではないが、奇妙な親近感が湧いたのを覚えている。部屋もこいつと一緒だったから、一緒に重い荷物を持ってエレベーターで上がってきた。

「今日は2人だけなんだったな。」

 広い部屋を見て思わず呟いてしまう。もともと4人でこの部屋に泊まる予定だったのだが、悲しいことに一人は足の骨折、もう一人は……水星の石のオークションに行くから来なかったらしい。前者はまだ分かるが、後者に関しては絶対に騙されてるから大人しく修学旅行に来たほうがいいと思う。まあそんなこんなで、2人では手広すぎる部屋で夜ご飯の時間まで1時間半も待つことになった。

 そこから……そう、こいつが暇つぶしのゲームと言ってトランプとオセロを取り出したんだったな。2人でトランプはできることが限られてくるから、オセロになったんだ。

「負けたほうがジュース奢りな。」

 オセロを始める直前にこいつが言ったんだ。ただオセロやるだけじゃつまらない。自分もそう思ったから、

「面白い。いいぜ。」

 って言ってそのまま続行して今に至る。



 ――――――



 ……回想が長かったな。ただでさえ修学旅行っていう思い返すことがいっぱいある中、こいつの発言のせいでオセロに集中できない。オセロの盤面は半分以上埋まっている。パチリ。自分の手番になり白色が盤上の多くを染めていく。

「幽霊ってさ、目に見えたり、ものを動かせたりできるわけじゃん。」

「まあ……そうだな。」

「てことは、あいつら結局物理法則に従ってることにならねぇ?」

「せやな。」

 パチリ。自分が適当な返事をしてオセロに集中するのにかまわず、あいつは話を続ける。

「だったら、物理法則に則ってやったら倒せると思うんだよ。よく心霊番組とかで見るオーブとかいうやつは結局は光だし。ポルターガイストに至っては実体があることになるから、殴れるよな。あいつら。」

 なかなかに面白い見解だが、今話すことではないと思う。何だって修学旅行の、のほほんとした賭けオセロに幽霊の考察が入ってくるんだ。……いやのほほんとはしてないか。

「俺は幽霊にはあったことないけど、ポルターガイストとか物投げつけたら意外とどうにかなるんじゃない?」

「そうだな。」

 パチリ。どうやら話は終わったようだ。適当な返事をしていたが、一応話は聞いていた。まあ、自分も幽霊になんてあったことないからそうだねとしか言いようが無いのだけれども。

「お前はどう思う?」

 こいつちゃんとオセロに集中してるのか? これで負けたらジュース奢らなくちゃいけないの、ほんとに分かってるのだろうか。こいつから言い出したことなのだから忘れているはずがないのだけれど。まあ自分が勝つならそれで良いや。

「いや……まあそうなんじゃない?」

 パチリ。顔を下に向けながらそう答える。オセロはもう4分の3ぐらい埋まりかけているが、白黒半々ぐらいで勝敗が見えない。そんなオセロの状況を知ってか知らずか話を続けた。まだ話は終わってなかったらしい。

「見たことないかも知れないけどさ、なんで幽霊の研究をしないんだろうな。非科学的だとか、非現実だとか、そんなこと言って観測できたものを研究しないのは本当に科学的なのかな。そうじゃないよな。まあ世界のどっかにはそういう研究してる人はいるだろうけど。大体………………」

 うん、雑談は良いけど、もうちょっとオセロに集中しない? 2つのこと一気に考えるのあまり得意じゃないから、もうちょっと静かにしてほしいな。その話はまた後で聞くから。って言っても、こいつは人の話を聞かないところがあるからな……。よし、さっさとオセロの方を終わらして、そっちの話に集中しようかな。

「………………だから、科学はもっと幽霊とか研究してみたら面白そうなのに。」

 パチリ。オセロももう終盤だ。ここまで埋まってもまだ白黒半々で負けるか不安になってきた。ていうか話しながらよくオセロできるな。自分だったら集中できなくてすぐミスるのに。

「……うん。まあ、自分は情報系志望だから、そういうの研究するつもりはないけどね。」

 パチリ。そう話を締めくくったこいつは最後の黒を置いた。話をオセロと同時に終わらせるくらいだから、オセロにも集中していたんだろう。なんだか少しニヤけているこいつの顔を見てるとそう思う。

「じゃあ、僕の勝ちだね。明日、ジュース奢ってよ。」

「え? まだ数えてないだろ。しかも丁度半々ぐらいだし分からないぞ?」

「いやあ、甘いね。数えてみなよ。」

 言われて数えてみると……なんと丁度一個差で自分が負けていた。

「ナンデ!?」

「実は前からオセロは得意でね。これでも県大会までは言ったことあるんだよ、僕。」

「し、知らなかった。……ていうか嵌めたな!」

「嵌められる方が悪いんですぅ〜。関係ない話して撹乱するのもうまく行ったし。お前、割とミスってたよね。気づいてないかも知れないけど〜。」

 そう言ってクスクス笑っているこいつを見ていると、なんだか無性に疲れた気がしてくる。確かに、こいつの話に考えなしに乗ったのが悪い。あのとき断っておけば良かっただけの話だ。

「分かったよ。明日どっかで言ってくれ。その時奢るから。」

「はいサンキュ。」

 この30分か1時間でどっと疲れた気もするが、これも修学旅行にしかできないことだと思えば良いか。時計を見るともうちょっとでご飯の時間だった。

「そろそろ下に降りようか。遅れて行ったら渋滞して通れなくなる。」

「オセロ一局でここまで時間掛かるとは思ってなかったわ。丁度半々に保つのに考える時間使ってたからかね?」

「最後まで煽ってくるやつだな……。」

「ああそうだ。」

 部屋を出る直前、ふと何か思いついたように顔をこちらに向ける。また何か突拍子もないことを言うのだろうか。

「ちなみに、実は俺、幽霊倒した事あるって知ってた?」

「は?」

 それを言うなりさっさと部屋を出ていってしまう。あの話は終わりではなかったのか。いやそれにしても本当……ではないな、あいつのことだから嘘に決まってる。何故か一瞬あいつが幽霊を倒しているところが想像できそうだったが、嘘だろう。本当のことを聞きに行こう。そうして自分も部屋を出るのだった。

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