魔境の試練 七
レオニアスが駆け出していくのを見送りながら、ウヌ・キオラスはアルフェリムに手を貸して、テントの中に移動させた。
取って来た卵をレオニアスに手渡し水を飲んでいたミラーノを招く。
「こっちへ来て! 魔障を受けたなら浄化しないと」
キャノピーの日陰にミラーノを座らせ、ウヌ・キオラスは正面から傷口を診る。
右頬から耳にかけて浅く線のような傷、血はほとんど出ていないが、周囲の皮膚が赤みを帯びている。掴まれて爪が刺さった左足首は、まだ血が流れていて、皮膚は赤く腫れ、水膨れのようになっている箇所もある。熱傷に近い見た目だ。
(オニゴロシに触った人の状態に似てるな)
オニゴロシというのは、カエンダケの仲間と思われる
「これ、痛い?」
ウヌ・キオラスが尋ねると、「このくらい大したことは……」と返って来たので、
「
ピシャリと言い放つ。
痛みがあるという返答に、少しホッとする。それならばおそらく傷は神経には達していない。
シアンが隣で治療薬を準備しているので、ウヌ・キオラスは、まず
(一度に一ヶ所ずつ、力を集中させよう)
午前中、アルフェリムの全身に対して
近日中に全員を浄化しなくてはならないし、今後は定期的な施術が必要になる。もっと効率を考えなくてはならない。
(ついでだから状態だけ診ておこうかな)
思いついて、彼の体の中にある「生命の器」に触れてみる。
「……えぇ?!」
ゾッとして、反射的に手を離してしまった。
仲間たちが驚いてウヌ・キオラスを見つめるが、それには気付かず、ミラーノに詰め寄る。
「なんで言わないの?! すごい紫色だよ。こんな状態で動き回るなんて正気じゃないよ!」
彼の器は、濃い紫色の液体――魔性の毒による侵食が進んでいた。
すぐに浄化が必要なので横になるよう告げると、あろうことかこんな返答を受ける。
「まぁ元気いっぱいとは言わないけど、動けないほどでもねぇし。お前、大活躍だったんだから、今日はよく休め。俺は後日で構わないよ」
応急処置だけしておけば何とかなるだろう、とシアンから道具を受け取ろうとするミラーノ。
ウヌ・キオラスは、過去こんなに腹が立ったことはないというくらいカァっと体が熱くなって、大声を出した。
「いいわけないでしょ!!」
それって、40℃近い熱があるけどちょっと頭痛がするぐらいだから大丈夫、って言ってるのと同じことだよ。
周りの人が心配しないと、本気で思ってるの?!
辛さの感じ方も、表現の仕方も、個人差があるのは分かるよ。でも、それは辛くないわけじゃないんだよ。
ちゃんと伝えてくれなきゃ、なにも助けてあげられないじゃないか!
体は熱くてどんどん言葉があふれ出してくるのに、頭の芯は氷水に触れたようにシンと冷え込んで、一瞬、ふっと意識が飛んだ。
ウヌ・キオラスは、アルナールに進軍の休止を提言する。
「自覚症状のない人も、今日、全員診ます。こんな問題児、二人もいたらマジギレする自信があるけどね」
問題児、の部分を強調して、ミラーノを睨みつける。よほど意外だったのか、彼は間の抜けた顔でこちらを見つめていた。
「はい、ここに横になって。異論は認めないから」
ミラーノは、今度は素直に頷いた。
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