終末の王国~原初のアルカンシェルを求めて魔境の旅路へ~
路地猫みのる
神託
プロローグ
私は、
私の仕事は、女神に祈りを捧げ、女神の代理人である
洗顔用の水、洗濯したての清潔なタオル、あたたかなショールを持って、静かに
いつも通り、彼はもう起き上がっていて、朝の光が差し込む窓辺に頬杖をついて、神殿の庭を眺めていた。
その姿は、思わずほぅとため息をつきたくなるような美しさに満ちている。地面に届きそうな細い銀色の髪と、まるで蒼い宝石のような瞳。つんと上げた顎、そこに添える細い指まで、全身の隅々まで完璧であるかのような、まるで神の彫った彫刻ではないかと思えるような人。
しかし、私は心の高揚を抑え、黙々と自分の仕事をする。
そんな私の視界の端で、薄い唇がうっすらと開き、神々の愛でる音楽のような音が私の鼓膜を震わせる。
「そろそろ誰かに伝えるべきかな。おそらく近い未来に滅亡しそうなんだよな、この国」
美しい声は、今日も私の胸を打つ――。
――…………。
――……。
――今、なんと?
「ふ、ふぉ、ふぉ……」
あぁ、激しい動悸が止まらない。
「ん? どうした、カーシュ。毎朝、私の美しさに感動するのも疲れるであろう。ご苦労なことだな」
音楽のような声が私の名を呼ぶありがたき幸せ――いや、違う、そうではない。
このままではダメだ、このままにしてはいけない。私よ、気力を奮い起こせ。言葉の真意を質すのだ。
「ふぉ、フォアスピネ様。今の、今のお言葉はどういう……」
ほとんどあえぐように尋ねる私に、彼は美しい微笑みを返した。
「言葉の通りだ。近い将来にこの王国は滅ぶと言ったのだ。ふむ、お前に一番に知らせるのも悪くないな」
私は、もつれる足を叱咤して、寝室からよたよたと退出した。
そして、肺いっぱいに空気を吸い込み、力の限り叫ぶ。
「し、神託だー! 非常に重大な神託が下された。聖侍者様にご報告を、高位神官は大至急集まってくれ!」
ざわつく聖職者たちの間を、体力の限り駆けまわって神託を知らせた。その不吉な内容を共有することで、恐怖から逃れようとしたのかもしれない。
神託とは、必ず起こるから神託なのだ。
たとえ、今年の冬は緑のスカートが流行するだとか、ニンジンの値段が1モルト下がるだとか、そんな小さなことであっても、神託が外れることは決してない。
額にじんわりとにじむ嫌な汗はいくら拭っても止まらず、冬の朝だというのに、私はじっとりと湿った衣服をあおいで風を送った。
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