第7話「クエストの情報収集をする」

「クエストに参加している者ですけど、なにか困ってることは……」

「いえ、特には……」


 村人は足早あしばやに立ち去った。

 これで5人目だ。


 神クエストの目的は『ルパウト村から、わざわいを排除すること』だ。

 そのためには、この村で起きている災いについて知らなければいけない。

 だから村人から話を聞かなきゃいけないんだけど……。


「間違いなく、圧力あつりょくをかけられておるな」

「ですねぇ」


 村人たち、完全に俺たちをけてるもんな。

 こうして村の大通りに立っているだけでもわかる。

 みんな、俺たちを大きくけて通ってる。こっちを見た瞬間、Uターンする人もいる。というか、村の大通りからは人気が消えていく。まわりの家は扉を閉めて……かけまで掛けてる。

 

 神クエストに参加しているのは、俺たちを除いて2チーム。

 侯爵家こうしゃくけのゲイルン・ダルムとその部下たち。

 名門伯爵家はくしゃくけのフェルシン・メイクラフトと、その部下たちだ。


 ダルム侯爵家こうしゃくけは、とてつもなく広い領地を持つ上級貴族だ。

 領地には港があり、交易によって高い経済力をほこっている。


 メイクラフト伯爵家はくしゃくけは王子殿下の外戚がいせきで、広い領地を持つ名家だ。

 爵位しゃくい伯爵はくしゃくだけど、王家とのつながりがあることから、侯爵家こうしゃくけのようなあつかいを受けている。


 クエストが開始されると同時に、2組の上級貴族たちは大々的に村人を集めていた。

 それはもう大騒ぎだった。

 村の中央に天幕てんまくを張って、村長たちを呼び寄せていたからな。村人たちも大変だ。侯爵家と名門伯爵家に呼び出されて、話を聞かれることになったんだから。

 でも、貴族たちは十分に情報を手に入れたと思う。


 それに対して俺たちには……まったく、情報を得られていない。

 村人から証言を聞こうとしてもスルーされる。

 ゲイルン・ダルムとフェルシン・メイクラフトが村人に圧力をかけたのか、村人たちが自分の意思で上級貴族に協力してるのか……どっちだろう。


「管理者ツヴァイに質問します」


 俺は、後ろにいる管理者の女性にたずねた。

 管理者ツヴァイは無表情のまま、俺たちについてきている。

 クエストに不正がないか確認するためらしい。


 だったら──


「村人に圧力をかけて、他の参加者に情報を与えないようにするのは、妨害行為ぼうがいこういにあたりますか?」

「それが立証された場合に限る」

「立証?」

「参加者および村人が『証言をしないように命じた』『命じられた』と明言し、妨害行為を行ったと確認されたなら、管理者はその参加者に警告けいこくを行う。三度目の警告でも行動に改善が見られなかった場合は、参加資格を停止する」


 管理者ツヴァイは淡々と答えた。


「現在、貴公以外の参加者には管理者アイン、および管理者ドライが同行している。だが、明確に村人に証言を拒否するように命じたところは確認されていない。よって、妨害行為は行われていないと判断する」

「……わかりました」


 二組の上級貴族たちにも管理者が同行している。

 彼らは、村人に圧力をかけるところは見ていないらしい。


 まあ……上位の貴族のやり方って洗練せんれんされてるからなぁ。

 視線ひとつ、身動きひとつでも、庶民しょみんに圧力はかけられる。

 たとえば「わかっているな? 村の災いは私たちが解決するのだからな?」と言えば、それだけで村人たちにはプレッシャーになる。


 だけど、神の配下である管理者には、それがわからない。

 ただ、人間同士が話をしているようにしか見えない。

 だから管理者たちは『貴族は圧力をかけていない』と判断しているんだろう。


「トウヤよ。ここはわらわの能力の出番ではないか?」


 ふと、ハツホさまがそんなことを言い出した。


「ハツホさまの能力って、伝令に使うものですよね?」

「うむ。それにまつわる能力じゃ。我は鳥居とりいを作り出し、空間と空間をつなぐことができるのじゃよ。ほれ」


 ハツホさまが手を振ると、路上に鳥居とりいがあらわれた。

 鳥居の高さは3メートルくらい。横幅よこはばは1メートル前後。

 それが俺の前と後ろにひとつずつっている。


「元の世界では社に結界を張っておる者もいたからの。これは、それをくぐり抜けて侵入するための能力じゃ。たとえば……わらわがこちらの鳥居に入るじゃろ?」


 ハツホさまが前方の鳥居をくぐる。

 すると……彼女の姿が消えた。


「……と、こっちから出てくることができるのじゃよ」

「うぉぉ!?」


 後ろから背中をたたかれて、思わず飛び上がる。

 振り返ると、ハツホさまの「してやったり」という笑顔。


「ハツホさまは鳥居同士をつなぐことができるんですね……」

「うむ。見ての通りじゃ。クエストに役に立ちそうか?」

「もちろんです。というか、この能力でお金をかせげそうな気がするんですが」


 運送業とか通信業で。

 鳥居を通して町と町をつなぐこともできるわけだし。


「運輸や通信でお金を稼げるなら、クエストを攻略しなくてもよさそうですけど」

「わらわの鳥居は、つなげる距離が短いのじゃよ」

「どのくらいまでですか?」

「最大で10メートルじゃな」

「なるほど」

「あと、わらわが近くにおらぬと鳥居が消える」

「あつかいが難しい能力ですね」

「じゃが、証言を得るのには使えるじゃろ?」

「どうするんですか?」

「村人が逃げられぬように鳥居で囲むのはどうじゃ? どの鳥居を通ろうと、元の場所に戻ってくるようにすれば、村人はいずれ音を上げて語り出すじゃろう……」

却下きゃっかです」

「えー」

「そんなことしたら俺たちが村の災いになっちゃいますよ」

「むむぅ」

「だから、それは最後の手段です」

「手段としては残しておくのじゃな……」

「まずは地道に情報収集しましょう。村をくまなく歩けば手がかりが見つかりますよ」


 すべての村人が貴族たちに尋問じんもんされたわけじゃない。

 クエストのことを知らない人だっているはずだ。

 その人から話を聞こう。


 だとすると……村の中心部からは離れた方がいいな。

 行くべきは村はずれだ。

 そこにはまだ、貴族たちのことを知らない人間もいるはず。


 そう思って、俺たちが村はずれに向かうと──




「──どうしてまだ生きてるんだよ! 死んじゃえ!!」



 誰かをののしるような、甲高かんだかさけびが聞こえたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る