第6話「『神クエスト』の説明を受ける」

「「「この村──ルパウト村の村長より依頼いらいがあった。『村では最近、わざわいが続いている。それを解決して欲しい』と。我らの|主はその願いを聞き届け、貴公らにクエストを依頼することとした」」」


 ──クエストの目的は『ルパウト村から災いを排除はいじょする』こと。

 ──その方法はクエスト参加者が考えて、実行する。

 ──期限は5日間。

 ──最終日の夕方に、誰が一番、ルパウト村に貢献こうけんしたかを決める。

 ──判定は村人たちが行う。

 ──村に貢献こうけんした者に報酬ほうしゅうが与えられる。


 1位の報酬ほうしゅうは1000G−POINT。

 2位以下には現金が与えられる。


 具体的には2万ノルト。日本円でだいたい20万円。

 冒険者の報酬としてはいい方だけど、上位の貴族にはたいした額じゃない。


 たぶん、貴族たちのねらいはG−POINTの方だろうな。

 神の加護かごるための力か……なにに使えるんだろう?


「わかりにくいから『神ポイント』でよいのではないか?」

GODゴッドPOINTポイントってことですか?」

「神クエストなんだからそれでよかろ」

「ですね」


 そんな話をしながら、俺たちは管理者の説明を聞いていた。


 気になるのは、クエストの目的があいまいなことだ。

 冒険者ギルドのクエストだと『薬草の採取さいしゅ』とか『下水道にくう小型の魔物の討伐とうばつ』とか『遭難そうなんした冒険者の捜索そうさく』など、具体的な目的が提示される。


 でも、神クエストの目的は『ルパウト村からわざわいを排除すること』だ。

『災い』がなにを指すのかも提示されていない。


 誰が一番貢献こうけんしたのかは村人が決める……ってのも、普通のクエストではありえない。

 冒険者ギルドのクエストと同じ感覚で参加したら、足をすくわれるかもしれないな。


「上級神アーカルトというのは、人間を知らぬ神なのじゃろうな」


 ふと、ハツホさまがつぶやいた。


「普段から人間とつきあっている神なら、こんなあやふやな依頼は出すまいよ」

「そういうものですか?」

「そうじゃな。あちらの世界を思い出してるがよい」

「はい」

「神社でお参りするとき、人間たちは自分の言葉で語りかけるじゃろ?」

「そうですね。俺も『茉莉まつりの怪我が治りますように』って祈ってましたから」

「この世界で神に祈るときはどうしておる?」

「専門の言葉を使いますね。神の加護かごを借りる魔法……神聖魔法を使うときなんか、専用の呪文があります。神官に依頼して、神に願いを伝えてもらうこともあります」

「人間が神に合わせておるわけじゃな」

「そうなりますね」

「じゃあ、それでは神が人間を知ることはできまい。一部の人間しか、神に意思を伝えらぬのじゃからな。ゆえに上級神も使徒しとも、人間のことを知らぬのじゃろう」


 ハツホさまはあきれたように肩をすくめた。


「こんなアバウトな依頼をしておるのは、そのせいじゃろうよ」

「……なるほど」


 上級神アーカルトも使徒も、人間のことをよく知らない……か。

 さすがハツホさまだ。神にくわしい。


 というか、ハツホさまは人間にすごく興味があるんだろうな。

 元の世界でも俺に興味を持ってくれてたし。こうして異世界でも一緒にいてくれるわけだし。


 でも、上級神と使徒しとには人間のことがわからない。

 だから数合わせで俺を召喚しょうかんした。

 そのことで貴族が気分を害することも気づかない……ってことなんだろうな。


「「「最後に告げる。クエストの進行に不正がないように、各パーティにはそれぞれ管理者が同行する」」」


 3人の管理者は俺たちを見て、告げた。


「「「クエストの内容については以上である。なにか質問はあるか?」」」

「じゃあ、ひとつだけ」


 俺は手をげた。


 貴族のパーティが「空気読め」って感じでにらんできたけど、構わない。

 こっちは問答無用もんどうむよう召喚しょうかんされた身だから、情報が少ないんだ。

 気になることはきちんと確認しておこう。


「『誰が一番貢献こうけんしたのかを村人が決める』とのことですが、どうやって判定はんていするんですか?」

「「「最終日に、すべての村人が参加して投票を行う」」」


 管理者たちは答えた。


「「「最終日に広場に村人を集める。その場で、クエスト参加者に成果を発表してもらう。それを聞いた村人たちの挙手きょしゅによる多数決たすうけつで、もっとも貢献こうけんした者を決める」」」

「わかりました。ありがとうございます」


 俺は管理者たちに頭を下げた。

 顔を上げると、貴族たちが俺に視線を向けているのが見えた。

 彼らは薄笑うすわらいを浮かべてる。


 やっぱり、気づいてるみたいだ。

 このクエストは、俺たちが圧倒的あっとうてきに不利だってことに。


「「「それでは、クエストを開始せよ」」」


 管理者たちは宣言せんげんした。

 3人のうちのひとりが、俺たちの方にやってくる。

 顔が同じだから見分けがつかないけど、たぶんツヴァイだろう。そんな気がする。


「それじゃハツホさま、急いで村人から話を聞きましょう」

「わかったのじゃ。だが、トウヤよ」

「なんですか?」

「さっきの質問の意味と、急いで話を聞く理由を教えよ」


 ハツホさまが俺の耳元みみもとでささやいた。

 俺はうなずいてから、


「このクエストは、俺たちが圧倒的に不利だからです」

「どういうことじゃ?」

「俺たち以外の2チームは上位の貴族です。そして、この世界の庶民しょみんは、上位の貴族には逆らえません」


 ハツホさまが息をのむ。

 俺の言いたいことがわかったらしい。


「クエストの評価は村人たちの投票によって決まります。でも、上位の貴族をさしおいて、庶民しょみんや没落貴族に投票することができますか?」


 できないだろうな。

 そんなことをしたら村そのものが、上位の貴族の恨みを買うことになるんだから。


「反論する。『神クエスト』に不正はない」


 管理者ツヴァイが言った。

 表情は同じだけれど、なんとなく不満そうだった。


「不正はありえない。そのために管理者が同行しているのだから」

「でしょうね」

「じゃよなぁ」


 俺とハツホさまはため息をついた。

 思ったことは、たぶん、同じだ。



『この世界の神は、人間のことがわかってない』



『不正はない』というのはその通りだろう。

 ゲイルン・ダルムたちは、不正をする必要なんかないんだから。


 彼らはただ、自分の家の名前を出せばいい。

 上位の貴族の名前を聞けば、それだけで村人たちは萎縮いしゅくする。

 村人たちは彼らに協力せざるを得なくなる。

 上位の貴族は、それだけの権力を持っているんだ。


 なるほどなー。

 そうやって王家や上位の貴族は『神クエスト』をクリアしてきたのか……。


「まともにやったら、わらわたちに勝ち目はないのじゃな」

「今回のルールではそうですね」

「では、トウヤは報酬ほうしゅうをあきらめるのか?」

「まさか」


『神ポイント』は現金やアイテムにえられるそうだからな。

 だったら、借金も返せるかもしれない。

 この機会を逃す手はない。


「これくらいの理不尽りふじんは、これまでもありましたからね。なんとかしますよ」

「無茶をするでないぞ」

「大丈夫です。ハツホさまも協力してもらえますか?」

「聞くまでもないわ。お主と我は『冒険者ぱーてぃ』の仲間なんじゃろ?」

「よろしくお願いします」

「うむ」


 こうして俺とハツホさまは『神クエスト』にいどむことになったのだった。





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カクヨム様の企画として、オンライン企画会議をすることになりました。


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対象になるのは次の3作品です。



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毎日、18時頃に更新する予定になっています。


1月6日から2月6日までは無料公開されます。

それ以後は、カクヨムネクストに登録しないと読めないようになります。


どれも楽しいお話に仕上がっていますので、ぜひ、読んでみてください。

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