第4話「『選ばれし者』のクエストを受注する」
ナーランド
領地が王都の近くなのは、祖父が国王陛下と仲良しだったから。
いつでも行き来できるようにという
『国王陛下の覚えもめでたいナーランド伯爵家』の話は、子どものころから聞かされている。
祖父の時代の国王陛下はとっくに
今の王さまは、その孫だ。うちとはまったく
王さまがナーランド伯爵家に声をかけることもないし、
だけど、うちの家族はプライドが高い。
最初の事業に失敗したとき、父さんがそこで
でも、父さんは損失を急いで取り戻そうとした。
その結果、さらに事業に失敗。
最後には知人の貴族にだまされて、損失額がとんでもないことになった。
その後で、ネイデル
「その借金のカタに政略結婚かー。お主も大変じゃな」
「そういうことです」
「しかし、疑問なのじゃが」
俺の隣を歩きながら、ハツホさまは不思議そうに、
「お主が逃げたら、政略結婚はできなくなるな」
「そうですね」
「政略結婚ができなくなれば、家は
「伯爵家そのものが
「なのに、どうして家族はお主を自由にしておるのじゃ?」
「うちの
「妹君じゃと?」
「名前はサリアといいます。俺がサリアを置いて逃げることはないって、家族は知ってるんですよ」
「お主が冒険者になることはどう思っておるのじゃ? 冒険者って、命を落とすこともあるのじゃろ?」
「そうなったら……サリアが政略結婚で
「……そういうことなのじゃな」
ハツホさまは納得したように、ぽん、と手を叩いた。
「お主がいなくなれば、妹御が代わりに政略結婚をすることになる。じゃが、お主にはそのようなことはできぬ。ゆえに、お主は命の危険があるようなクエストは受けぬ。必ず屋敷に戻ってくる……そういうことか」
「家族ですからね。俺の性格はわかってるんですよ」
「前世では
ということで、俺にできるのは
期限は1年。
その間に、借金をなんとかできるくらいは稼がなきゃいけない。
もちろん、それは難しいだろう。
だから、ある程度の危険は
俺になにかあっても……まあ、サリアが嫁に行かずに済むくらいのお金が残せればいいだろ。
──って、このことは、ハツホさまには秘密だけど。
それはさておき、冒険者ギルドのことだ。
ギルドの下見も済ませてある。下調べも終わってる。
冒険者は15歳から登録できて、最初は最低のFランクから。
クエスト中に得た素材は冒険者のもの。
素材を
ギルドの仕事はクエストの
その他は冒険者の自己責任ってことだ。
「ところでなんじゃけど」
「なんですか?」
「神って、冒険者になれるの?」
「それは……」
「うむ……」
「……ギルドに行ってから考えましょう」
「……そうじゃな」
そうして、俺たちは王都の冒険者ギルドに向かった。
冒険者登録をする前に、まずはどんな依頼があるか確認しよう。
そう思った俺とハツホさまは『クエストボード』のところへ。
そこで最初に目についたのは──
『選ばれし者のクエスト』
──見たこともない、クエストの
「異世界の者が書く文章はキテレツじゃのぅ!」
「……いえ、俺にもわからないんですが」
なんだこれ。
『選ばれし者のクエスト』なんて聞いたことがないんだが。
依頼書が貼られているのは、クエストボードの
いつもはこんなところに依頼書は貼られていない。
何度も下見に来てるから。よく覚えてる。
というか……この依頼書はおかしい。
『選ばれし者のクエスト』の紙は、かすかに光を放っている。
目についたのはそのせいだ。
クエストの内容は──
『選ばれし者のクエスト 第4回
場所:ルパウト村
目的:村人を救う
参加期限:30分以内に参加表明をせよ。
参加可能な者:神に選ばれし者、1組
依頼者:上級神アーカルト
報酬:1000G-POINT』
意味不明だった。
「すみません。このクエストについて聞きたいんですが」
俺はギルドの受付さんを呼んだ。
「ここに変なクエストの依頼書がありますよね?」
「ありませんけど?」
受付の女性は首をかしげた。
それから彼女は手を伸ばして、クエストボード──『選ばれし者のクエスト』の紙がある場所に触れてみせた。
指が、紙を突き抜けた。
かりかり、と固い音がする。クエストボードを引っ掻く音だ。
「ほら、なにもないですよね? あるわけないんです。ここは予備スペースですから」
「あ、はい」
「他に疑問があったら聞いてくださいね」
受付の女性は一礼して、受付へと戻っていった。
親切な人だった。
「異世界では奇妙なことがあるのじゃな」
「いえ……俺もこんなことは、はじめてです」
なんだろ。これ。
誰がこの依頼書を
ギルドに集まった冒険者たちは、光る依頼書をスルーしてる。
誰もこの依頼書の前で足を止めない。
というよりも、認識できないみたいだ。
どういうことだ? こんなクエストがあるのか?
「というか、どうして俺には見えるんだろう?」
「トウヤがこのクエストに参加可能だからではないか?」
「参加可能? 俺がですか?」
「ここに書いてあるではないか。『参加可能な者:神に選ばれし者』と」
「俺が? 神に選ばれし者……?」
「ほれ」
ハツホさまは自分を指さした。
「わらわは
「あ、はい」
「そしてわらわは、トウヤを見守ることを選んでおる」
「そうですね」
「ゆえに、トウヤ・ナーランドは『神に選ばれし者』となのじゃ!」
「確かに!」
言われてみればその通りだ。
ハツホさまは異世界日本の稲荷神だ。
そのハツホさまは自分の意思で、俺と一緒にいることを
だから俺は『神に選ばれし者』ということになるわけで……。
……って、それでいいのか?
『神に選ばれし者』って、
異世界の稲荷神と一緒にいます。
だから俺は神に選ばれし者です……って。
「それより、
「1000G-POINTか。異世界の金銭の単位じゃろうか?」
「この世界のお金の単位はノルトです。1ノルトが10円、1000ノルトで1万円くらいですね」
「それとは違う単位ということじゃな。で、どうする?」
「どうするとは?」
「トウヤはこのクエストに参加するのか?」
「30分以内に決めなきゃいけないんですよね」
依頼書にはそう書いてあった。
『参加期限:30分以内に参加表明をせよ』って──あれ?
「トウヤ! 残り時間が25分になっておるぞ!」
「本当だ」
参加期限が
『伝説のクエスト』……か。
もしかしてこれが噂に聞く、
一部の冒険者がクリアして、大金を手に入れて人生を変えるという?
ハツホさまが仲間になったことで、俺も参加できるようになったのか。
「
「そうじゃな」
「だけど、ひとつだけはっきりしてることがあります」
「聞こうではないか」
「このままなにもせずにクエスト参加期限が過ぎたら、俺はきっと後悔します」
「じゃろうな」
「一緒に参加してくれますか? ハツホさま」
「言うまでもないな。じゃが、我は伝令しかできぬぞ?」
「十分です」
「うむ。よかろう。それで、クエスト受注ってどうすればよいのじゃ?」
「依頼書を持って受付に行けばOKです」
「では、神であるわらわが、依頼書を手に取るとしよう。ほれ」
ハツホさまは両腕を広げて、俺の方を見た。
「届かぬ。抱っこせい」
「あ、はい」
俺はハツホさまの腰に手をかけて、その身体を持ち上げる。
ハツホさまは手を伸ばして──依頼書に触れた。
次の瞬間。
俺とハツホさまは、別の場所に転移していたのだった。
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