第6話「転生サムライ、自分の人生を歩み出す」

「な、なんで正座しねぇんだ!?」

シドウフカクゴ士道不覚悟! シドウフカクゴ!!」

「そこに座りなさい! 座りなさいよぉ!!」


 ジーノとレヴィンとマチルダは俺を指さしてわめいている。

シドウフカクゴ士道不覚悟』が通じないのが信じられないみたいだ。


「俺は主君を見つけた」


 俺はうそをつくことにした。

 竜の養子になったとは言えないからな。面倒なことになりそうだし。

 それに養父さまも、こんな人間たちとは関わりたくないだろ。


「俺の主君は『自由に生きろ』と命じてくれた。側で仕える必要もないし、仕事をする必要もない。思いのままに生きろと。それが俺の主君の望みだ。俺は、それを叶える」


 俺は一歩、前に出た。

 気圧けおされたように、ジーノたちが後ろにさがる。


「俺はもう、ジーノたちとは付き合えない。やりたいように、思いのままに生きることにするよ」

「ふっざけんなああっ!!」


 ジーノが、短剣を抜く……って、おい!?

 通行人もいるってのに、なんで短剣をぶんぶん振り回してるんだよ!?


「どぉすんだよ!? 俺は兄上を見返すパーティを開く準備をしてんだよ! 会場も予約して、料理も発注したんだ! お前が働かなかったら、誰が支払いをするんだよ!! いいから正座しろ! さもないとぶっころ──」

「いい加減にしろ!!」


 俺の腰で、日本刀のつばが鳴った。

 サムライの戦闘スキル『イアイ居合い』だ。


『イアイ』は視認不可能な高速斬撃こうそくざんげきだ。

 威力いりょくと攻撃範囲はコントロール可能。

 飛んでいるハエを斬ることも、魔物の腕を斬り落とすこともできる。

 さらに、5回まで連続攻撃が可能だ。


 最初の一撃で、ジーノの前髪が落ちた。

 次に、額に赤い筋が生まれる。

 最後にジーノの手の甲にも赤い筋が。


 それでやっと痛みを感じたのか、ジーノの手から短剣が落ちた。


「……あ、あぁ」


 ぺたん、と、ジーノが地面に座り込む。

 レヴィンとマチルダは真っ青な顔をしている。


 もう、俺を制御せいぎょすることはできないってことに、やっと気づいたらしい。


「……や、やめろ……来ないでくれ……やめて」

「……ち、違うの! 私はジーノとレヴィンに引きずられただけなの! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


 レヴィンは頭を抱えて、マチルダは地面に顔をこすりつけてる。

 いや……そこまで怖がらなくても。

 俺にり殺されるとでも思ってるのか? しないよ?


「関わり合いにならなければ、それでいい」


 俺は言った。


「あんたたちは好きに生きてくれ。俺もそうする。これまでありがとう。それじゃ」

「ただで済むと思うなよ!」


 そう言ったのはジーノだった。


「貴族に刃を向けて……」

「先に短剣を抜いたのはそっちだ。しかも、滅茶苦茶めちゃくちゃに振り回してたから、通行人に被害が出る可能性があった。俺が剣を抜いたのは自分と、まわりの人たちを守っための緊急避難きんきゅうひなんだ」


 冒険者ギルドのルールにもあるからな。

『ギルド内。またはその周辺で武器をもって他者を害しようとした者は、いかなる手段をもっても取り押さえるべし』と。

 冒険者たちは武器を持ち歩いてる連中だからね。

 そういうルールを作ることで、町の人たちの安全を確保しているわけだ。


 ジーノはさっきまで短剣を振り回していた。

 目撃者もくげきしゃもたくさんいる。

 ギルドの人たちも建物の外に出てきているからな。


 ジーノが通行人を斬ったら犯罪者になるところだった。

 それを止めたんだから、感謝されてもいいくらいなんだけど。


「うるせええええっ!! 偉そうに!!」


 ジーノは地面を叩いて、叫んだ。 


「いいか、おぼえてろよ!! うちは公爵家こうしゃくけとも関わりがあるんだ! お前の主君を調べあげて圧力をかけてやる!! お前は主君から『ハラキリ・ペナルティ』を受けることになるんだ!! そのときにあやまっても許さねぇからな!!」

「好きにしてくれ」


 俺の主君を突き止めるのは……無理じゃないかな。

 養父ようふさまは天に昇っていっちゃったし。ゲームにはもう登場しないし。


 俺はジーノたちに背を向けて、冒険者ギルドの中に入った。

 しばらくすると、ジーノの叫び声も聞こえなくなった。

 これで……あいつらとえんが切れればいいんだけど。


「ケイジさん。仕官しかんされたんですね」


 気づくと、ギルドの受付のメアリさんが、近くに立っていた。


「おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「これからは主君のもとでお仕事をされるんですよね? でも……どうして冒険者ギルドに?」

「主君からは、自由に生きるように言われているんです」

「自由に?」

「そういう主君なんです。だから、冒険者を続けます」

「ケイジさんの主君って、どんな方なんですか?」

「言えません。主君の方針なので」

「……そうなんですか?」

「変わった主君ですけどね。特に仕事はさせず、賃金も与えず、身柄も拘束こうそくしないんですから」

「そんな貴族がいるんですか!?」

「内緒です」

「と、とにかく、おめでとうございます」


 メアリさんは、深々と頭を下げた。


「ケイジさんが自由な立場で活躍かつやくされることを祈っています」

「ありがとうございます。ところで」

「はい」

「ずっと気になっていたクエストがあるんです」


 クエストボードに貼られていた紙を、俺は手に取った。

 数日前からそこにあった、魔物の討伐クエストだ。


 討伐対象は、とある山に住む魔物。

 大きさは全長数メートル。

 ときおり山から下りてきて、人や家畜を襲う。

 だから、その地の領主から討伐依頼が来ている。


 俺が気になったのは魔物の名前だ。


「この『ブラック・ヌエ』討伐とうばつクエストをやりたいんです」


 そして、俺は好きなクエストを受注することにしたのだった。




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カクヨム様の企画として、オンライン企画会議をすることになりました。


短編3本を掲載して、その中で一番人気の作品を長期連載にしようという企画です。

詳しい内容は「カクヨムからのお知らせ」に掲載されています。

よろしければ、そちらもご参照ください。



https://kakuyomu.jp/info/entry/next_kadobooks_sengetsu



対象になるのは次の3作品です。



・転生先は外国人が作った勘違い和風要素のあるクソゲーで、奴隷ジョブ・サムライになった俺が、ルールの穴を突いて自由に世界を探索します! -勘違いネタキャラのサムライ、最強になる-

(※この作品です)



・武勇で知られる無双剣聖の影武者になりました。それでも部下の七剣たちは、陰キャの俺の方がいいみたいです -陰キャの英雄、やたら人望を集める-

https://kakuyomu.jp/works/16818093089759229251



・異世界の神が運営するクエストでポイントを稼いで楽勝生活を送ります。転生したらご近所の神様がついてきました -お狐神さまとぶらり旅-

https://kakuyomu.jp/works/16818093089759837933




それぞれ12話から20話の中編です。

毎日、18時頃に更新する予定になっています。


1月6日から2月6日までは無料公開されます。

それ以後は、カクヨムネクストに登録しないと読めないようになります。


どれも楽しいお話に仕上がっていますので、ぜひ、読んでみてください。

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