第5話「転生サムライ、呪縛を破る」

 仕官したサムライには、主君を表すするしきざまれる。


 それは日本刀の刻印こくいんだったり、背中の刺青いれずみだったり、印籠いんろう紋章もんしょうだったりする。

 制作者の知識が時代劇じだいげきから来たものだって、よくわかる。


 竜は俺にうろこをくれた。

 触れると……別にかたくはないな。

 身体の動きにあわせてかたちを変えるから、邪魔じゃまにもならない。

 これは竜の養子ようしになったあかしってことか。


NDOネオ・ダイバーシティ・オンライン』の竜は、みつものささげると、代わりに願いを叶えてくれた。

 その中には能力アップもあった。

 だから、竜がステータスに干渉かんしょうできるのはわかってた。

 たぶんあの竜は、俺のステータスに『竜の養子』という属性ぞくせいを付与してくれたんだろう。


「……ありがとう。銀竜さま」


 俺はもう一度、空に向かって手を合わせた。

 銀竜は俺が望む以上のものをくれた。

 俺も、やるだけのことはやったんだ。あとは自由に生きていこう。


 自由になったら『NDO』の世界をじっくり楽しみたいと思っていたからな。

 まずは冒険者ギルドで新しいクエストを受けよう。

 自分自身のために、自分が受けたいと思っていたクエストを。


 すべてはそれからだ。






 そして翌朝、俺が冒険者ギルドに向かって歩いていると……。


「遅せぇよ! なにしてたんだ。ケイジ!!」

「貴族を待たせるなんて礼儀がなってないんじゃないか?」

「これでなにかあったら、あんたの責任だからね!」


 ギルドの建物の前で、ジーノとレヴィンとマチルダが待ち構えていた。

 朝一番で見たくない顔だった。


「あのさぁ、ケイジに頼みがあるんだよ」


 肩を組もうとしてくるジーノ。

 俺はそれをかわして、距離を取る。

 ジーノは不審ふしんそうな表情になり──


「実はな、兄貴が支援者しえんしゃを集めてパーティを開くことになったんだよ」


 彼はすぐに、歯を見せて笑った。


「これをだまって見てたら、兄貴が爵位しゃくいぐことが確定しちまうだろ? だからさ、オレも対抗してパーティを開かなきゃいけねぇんだよ!」

「そうなんだ」


 俺はうなずいた。


「じゃあ、がんばってくれ」

「……ああん?」

「いいと思うよ。がんばってパーティを開けばいいんじゃないかな」

「馬鹿かてめぇは!!」


 ジーノはさけんだ。


「パーティを開くには金がいるんだよ! なんでそれくらいのことがわからねぇんだ!?」

「ジーノが次の子爵ししゃくになったら、僕たちも支援してもらえるんだ」

「あたしの家だって、名ばかり伯爵はくしゃくなんて言われずに済むのよ!!」


 ケヴィンとマチルダが声をあげる。


 ここは冒険者ギルドの前だ。

 まわりには冒険者たちがいて、俺たちをじっと見ている。

 朝だから、通行人も多い。

 でも、ジーノたちには気にならないらしい。


「そこでケイジに頼みがあるんだ。一緒にAランクのクエストに挑戦しようぜ!」

「Aランク?」

「ハイロゥ・ダンジョンだよ!!」


 ハイロゥ・ダンジョン。

 強力な魔物が巣くうという高難度ダンジョンだ。

 上層部の危険度はA。下層の危険度はSを超える。


 もちろん、得られるものも大きい。

 下層の魔物の素材を換金すれば、金貨数十枚になるそうだ。

 ただ、あのダンジョンの魔物は魔法が効きにくいらしいけど。

 

「あのダンジョンは物理攻撃が必須ひっすだけど、他のメンバーは?」

「馬鹿か!? 他の面子がいたら、オレたちの取り分が減るだろうが!」

「魔法が効かない敵がいるんだが?」

「ケイジががんばればいいだけだろ!?」

「無理だよ」


 俺はかぶりを振った。


「これまで、俺はお前たちに協力してきた。お前たちにも助けてもらった。でも、危険度Aのダンジョンにまでは付き合えない」


 これくらいの忠告ちゅうこくをしても構わないだろう。

 俺だってみつぎ物を集めるために、ジーノたちを利用していたんだから。

 まあ……魔物と戦ってたのは俺だけど。

 それでも、竜に話を聞いてもらえたのは、ジーノたちのおかげでもあるんだ。


「それに、ジーノたちにAランクダンジョンは無理だよ」

「……なんだと?」

爵位しゃくい継承けいしょうしたいなら別の手段を考えた方がいいよ。それじゃ」

「ふざけてんじゃねぇぞ!!」


 ジーノは地面を踏みならして、叫ぶ。


「なにを偉そうな口を利いてるんだ、てめぇ!? これまでオレたちに従ってきたくせに!!」

「いや、別に従ってなかったけど?」

「なんだと?」

「俺はお前たちと対等のつもりだった。そりゃ『シドウフカクゴ士道不覚悟』で正座はさせられてたけどさ。それと、お前たちに従ってるかどうかは関係ないだろ」


 俺はジーノたちを見据えて、告げた。


「お前たちとパーティをんでたのは、一緒にクエストに行くことメリットがあったからだ。だけどもう、一緒にいる理由はない。それぞれの道を行こうよ」

「てめぇ、覚悟しろよ」


 ジーノが腰のナイフに、手をかけた。


「サムライが貴族にそんな口をきいていいと思ってんのか!?」

「サムライなんて僕たちの下僕げぼくだ!」

「あーあ、しーらない。ジーノを怒らせた。自己責任!」


 3人はじっと、俺を見ている。

 それから3人は口をそろえて──



「「「──そこに正座しろ!! 『シドウフカクゴ士道不覚悟』!!」」」



「…………」

「「「………………」」」

「………………」

「「「…………………………!?」」」

「……もう行っていいか?」

「「「!!!!???」」」


 なにも起こらなかった。

 身体は、自由に動く。勝手に正座したりはしない。


「ありがとう。『告知の』──」


 ……いや、『告知のドラゴン』とは呼びたくないな。

 養父ようふさまと呼ぶことにしよう。


 ありがとう。養父さま。


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