第3話「転生サムライ、交渉に向かう」
自分が転生したことに気づいたのは、10歳の時だった。
この世界では10歳になると、教会で適正ジョブの
うちの村でも同じだった。
俺も誕生日の朝に、ちゃんとした服 (兄貴のお古だった)を着て、親と一緒に教会に行った。
その後は司祭の前で
そうすることで、自分にどんな仕事が向いているかを教わるんだ。
俺のジョブは『サムライ』だった。
この世界で最低の、ハズレジョブだった。
サムライは王や貴族に逆らえない。
『一般人だって王や貴族には逆らえないだろ』と言われるかもしれないけれど、サムライは危険度が
王や貴族は『
『ハラキリ・ペナルティ』を宣言して、命を絶つこともできる。
もちろん、王や貴族が『ハラキリ・ペナルティ』を
無抵抗のサムライを自殺させたとなれば、
代わりに奴らは『シドウフカクゴ』は
そんなハズレジョブを手に入れた俺に、家族は優しかった。
みんな、俺が剣にまつわるジョブに
小さいころから剣ばっかり振ってたからな、俺は。
自分でも、どうしてこんなに剣が好きなのか不思議だった。
でも、前世の記憶がよみがえったときに、その理由がわかった。
俺が剣を好きなのは、前世の影響だったんだ。
前世の俺は日本に住んでいた。
子どものころは両親の都合で、じいちゃんの家に預けられていた。
そして、俺のじいちゃんは剣道の道場をやっていた。
じいちゃんは実戦用の剣術の使い手だった。
だけど、平和な時代に剣術は向いていないと思って、剣道の道場を開いたそうだ。
近所の子どもが、体力づくりに通うくらいだった。
それでも俺は、木刀を振るじいちゃんの姿にあこがれていた。
じいちゃんの動きはかっこよくて、見ていると時間を忘れるくらいだった。
当時、じいちゃんはかなりの高齢だったけど、木刀を手にしたときは若々しく見えた。年齢不詳の達人……そんな感じだ。
側にいると鳥肌が立つこともあった。
じいちゃんは、おだやかな顔で木刀を振っていただけなのに。
俺がそのことを伝えると、じいちゃんは『剣術の技を使うと、うっかり「殺気」が出てしまうことがあるのだ』と言った。
そうして『達人は殺気を悟らせないものだ。お前に気づかれるとは、わしもまだまだだな』と笑いながら俺の頭をなでてくれた。
じいちゃんから
危ないから、簡単な技をふたつ、教えてもらっただけだったけど。
俺が中学生になったころに、じいちゃんは亡くなった。
道場は
俺は成長して普通のサラリーマンになり、事故で死んだ。
そんなことを、10歳のジョブ鑑定のときに思い出したんだ。
サムライジョブを手に入れた俺に、異世界の家族は仕官を
主君を決めれば他の者から『シドウフカクゴ』『ハラキリ・ペナルティ』を受けることはなくなるからだろう。
主君に従っている限りは、安全に生きることができるわけだし。
ただし、仕官したサムライは、主君には
ひどい上司に当たっても、配置転換はできない。
前世で最悪の上司に当たった俺としては、それは避けたい。
なにより……じいちゃんから教わった剣術を、そんなことに使いたくない。
じいちゃんは
俺の父親から『道場を
病気になって動けなくなるまで、近所の子どもたちのために道場を続けていたんだ。
俺は、じいちゃんが入院してすぐに、道場を売り払う準備を始めた父親に……今でも頭にきてる。
じいちゃんが長くは生きられないのはわかってた。
だったら死ぬまで、納得する生き方をさせてやってもよかったのに。
なんで、本人が生きている間に、道場を処分しちゃったんだよ。
どうして、じいちゃんが死ぬまで待てなかったんだよ。
入院費はちゃんとじいちゃんが払ってただろ。
生きがいをなくしたじいちゃんは、あっという間に
本当に……見てられなかった。
人間が自分の意思で『生きるのをやめる』のを見ているようだったんだ。
でも……俺も父親を責められない。
俺も結局、口だけだったからな。
俺が剣道をやっていたのは高校まで。それ以降は竹刀にも触ってない。
納得する生き方……なんて言っていたのに、ブラック企業を
20代半ばに事故で死ぬまで、ずっと。
だから、転生後は自分が納得できる生き方をしようって思ったんだ。
幸い、俺にはこの世界の……『NDO』の知識があったからな。
この世界で、サムライが誰にも支配されずに生き残れる道を探し続けてきた。
剣の腕を
そして、やっとその方法を見つけ出した。
そのためにリスクを覚悟で冒険者になった。
クエストをこなして、必要なアイテムを集めたんだ。
ジーノたちが俺をパーティに入れたのは予想外だったけど、それも利用させてもらった。
サムライは魔法が使えないからな。
入るときに魔法が必要なダンジョンの攻略クエストに付き合ってもらったんだ。
『NDO』をプレイしていた俺には、そこに黒水晶があるってわかってたから。
もちろん、黒水晶のことは一切口に出さなかった。
欲しがるそぶりさえも見せないようにした。
必要なアイテムをひとつでも奪われたら、計画が
もしものときは、あいつらを斬り殺してでも守るつもりだった。
その結果『ハラキリ・ペナルティ』を受けても仕方がない。
サムライだからな。命を捨てる覚悟くらいはできてる。
だけど、なんとか乗り切った。
だから今、俺はここにいる。
王都に近い山の上。火山湖のある場所に。
これから現れる存在と、交渉をするために。
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