第6話「剣聖(偽物)、最強騎士の称号を得る」

 精霊ホリィの説明は次の通りだった。



神竜騎士ドラグーン・ナイトは古代の魔術まじゅつで生み出されたもの。

・ブレスレットを手にして呪文をとなえると、よろい武具ぶぐと、乗騎じょうきの竜が現れる。

・神竜騎士はめちゃ強い。

・おまけに、神竜騎士の適格者には毒や呪いが効かない。

・さらに、毒や呪いを浄化する能力がつく。

・神竜騎士になれるかどうかは、精霊ホリィとの相性で決まる。



「わかりやすいな」

「ありがとうなのだ」


 金髪の精霊ホリィは、ぺこり、と頭を下げた。


「あのさ」

「は、はい。主さま」

「ブレスレットの、前の持ち主は?」

「前の持ち主というと?」

「俺と同じ顔の人」

「あ、はい。知ってるのだ」

「あの人は、神竜騎士には?」


 ブレスレットは元々、バルガス・カイトの持ち物だった。

 あれを所持していたということは、バルガス・カイトは神竜騎士になりたかったんだろう。


 でも、そうはならなかった。

 ホリィが『300年ぶりの神竜騎士ドラグーン・ナイト』と言ったのがその証拠しょうこだ。


 それに、バルガス・カイトは毒矢で死んでいる。

 ホリィによると、神竜騎士には毒を浄化する能力があるらしい。

 バルガス・カイトが適格者なら、毒で死ぬことはなかったはずだ。


「主さまと同じ顔をしたあの人は、神竜騎士の適格者ではないのだ」

「理由は?」

「なんか違ったのだ」

「なんか?」

「うまく言えないけど、彼はガツガツしていたのだ。いつもピリピリしていて、ギラギラしていたのだ。心の中もドロドロだったのだ。ホリィとはフィーリングが合わなかったのだ」

「そんな理由?」

「間違ってる?」

「いや……なんとなくわかる」


 俺もガツガツしている奴や、ギラギラしている人間は苦手だ。

 そういう奴は職場にもいた。


 出世欲が強すぎて、俺に丸投げした仕事の成果を、自分の手柄てがらにしたりしてた。

 他の人間にも似たようなことをやっていたからな、あいつ。

 俺がうっかり、証拠しょうこを社員の共有きょうゆうフォルダに投げ入れていなかったら、あいつは今も同じ部署ぶしょにいただろう。

 こっちが特定されないように偽装ぎそうするのは大変だったけど。


 バルガス・カイトがそういう人間なら、ホリィが彼を苦手にしていたのもわかる。

 だとすると……バルガス・カイトは、俺とは違う性格だったのか?

 姿かたちは同じなのに……不思議だ。

 俺がいんキャじゃなかったら、バルガス・カイトみたいになってたんだろうか。


「ホリィの気持ちは、わかる」

「よかったのだ」


 精霊ホリィは胸をなでおろした。


「では、主さま」

「うん?」

神竜騎士ドラグーン・ナイトとして、ホリィと一緒に戦ってくれる?」

「……無理」

「え、えええ!?」

「ごめん」

「自分を認めてくれたのでは!?」

「それは別の話」

「…………え!?」

神竜騎士ドラグーン・ナイトになる理由がない」

「神竜騎士ですよ!?」

「あ、うん」

「……あ、そうか。主さまは、神竜騎士の価値がわかっていないのだな? では、説明するのだ!」


 ホリィはこほんと、せきばらいをして、


神竜騎士ドラグーン・ナイトよろいは黄金に光りかがやくのだ。すっごく目立つのだ!!」


 …………うわぁ。


「その姿に注目しない人などいない! すべての人が主さまに視線を向けるに違いないのだ!!」


 ………………ぎゃー。


「神竜騎士は救国きゅうこくの英雄になれるのだ!! 誰もが主さまに注目するのだ!! 主さまを知らない者などひとりもいなくなる!! 皆が主さまと話したがり、握手あくしゅを求めるようになるに違いないのだ!!」


 ……………………助けて。


「どうなのだ? 主さま。これで神竜騎士ドラグーン・ナイトになりたくなった……あれ? どうして頭を抱えてるのだ?」

「……あのさ」

「はい」

「別の主人を探さない?」

「……主さま」

「うん」

「ホリィは適格者の魔力がないと……動くことができないのだ。主さまがホリィを拒否きょひしたら……ホリィはずっとブレスレットの中で眠ったままで……うわーん!」

「ごめん悪かった!」

「…………うぅ」

「わかったから。でも、俺が神竜騎士になるかは保留ほりゅうで」

「…………主さま」

「保留」

「………………はい」


 ホリィはやっと、うなずいてくれた。

 でも、俺が神竜騎士になるのは無理だと思うんだ。


 死んだバルガス・カイトは、剣聖だった。

 勇者姫イングリットは、俺をその替え玉にしようとしてる。


 俺が神竜騎士の適格者だってバレたら……勇者姫は間違いなく、俺を最前線に立たせようとするだろう。

 勇者姫イングリットが望んでいるのは、王国軍をふるい立たせることなんだから。

 黄金に輝く『神竜騎士』なんて、絶好ぜっこう旗印はたじるしだ。


 そして、俺が『神竜騎士』になったら……戦わないわけにはいかなくなる。

 ぼーっとつっ立っているのと、武器を手に敵に立ち向かうのとではインパクトが違うからだ。

 俺が神竜騎士の姿をして立っていたら、絶対に『どうして戦わないんですか?』って言われるだろう。

 戦わないと言ったら不審ふしんに思われる。

 ……剣聖バルガス・カイトのくせに、って。


 戦わないせいで替え玉だということがばれたら……どんな目にうかわからない。

 英雄のふりをして周囲をだましていたんだ。

 俺も、勇者姫イングリットもただじゃ済まない。

 その結果、王国軍は大混乱になって……魔王軍によってほろぼされるかもしれない。

 そうなったら最悪だ。


 ──というわけで、俺が『神竜騎士』をやるのは無理なんだ。


「で、でも、主さま」

「うん?」

「主さまが『神竜騎士』にならないなら、ホリィは役立たずなのだ……」

「……別のことで」

「え?」

「別のことで助けて欲しい」

「……はぁ」

「実は俺は異世界人だから」

「そ、そうなの?」

「うん」

「……はぁ」

「そういうことで」

「わかりました。あとで主さまのことを聞かせて欲しいのだ」

「今すぐでもいいけど」

「人が、近づいているのだ」


 ホリィは俺の肩に飛び乗り、ドアの方を指さした。


「足音が近づいてるのだ。誰かがここに来そうなのだ。ホリィは一度、消えた方がいいのだ」

「わかった」

「失礼するのだ」


 ぺこり、と頭を下げて、ホリィは姿を消した。

 直後、ブレスレットの石が光を放った。

 ホリィはその中に姿を隠したらしい。


「バルガス・カイトさま。メリダでございます」


 しばらくして、ノックの音がした。


「伝令が参りました。イングリットさまから至急しきゅうのご連絡です」

「至急の?」


 俺はドアを開けた。

 廊下には……泣きそうな顔のメリダさんが立っていた。

 床にはトレーと食器が置いてある。入っているのはパンとスープだ。


 ……あれ?


「し、心配いたしました。5時間も書庫にこもっていらしたから……」

「5時間」


 気づかなかった。

 調べ物をすると夢中になっちゃうんだよな……。

 仕事やゲームでもそうだった。そのときのくせが出たみたいだ。


「お食事のときにお呼びしたのですが……お返事がなくて。で、ですが、カイトさまには扉の外にいるように言われておりましたので……どうすればよいか……わからなくて」

「ごめん」

「い、いえ。いたらないのはこちらです」

「食事、いただきます」

「わかりました。ですが、手早くお願いいたします」

「……え?」

出陣しゅつじんの命令が下ったのです」


 メリダさんは直立不動ちょくりつふどうの姿勢で、宣言した。


「国境の村が魔王軍の攻撃を受けました。王国軍はこれより、村の奪還だっかんに向かいます。カイトさま……いえ、怪我が治ったばかりのバルガス・カイトさまには申し訳ありませんが、ご同行をお願いします!」




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カクヨム様の企画として、オンライン企画会議をすることになりました。


短編3本を掲載して、その中で一番人気の作品を長期連載にしようという企画です。

詳しい内容は「カクヨムからのお知らせ」に掲載されています。

よろしければ、そちらもご参照ください。


https://kakuyomu.jp/info/entry/next_kadobooks_sengetsu



対象になるのは次の3作品です。




・武勇で知られる無双剣聖の影武者になりました。それでも部下の七剣たちは、陰キャの俺の方がいいみたいです -陰キャの英雄、やたら人望を集める-

(※ この作品です)



・異世界の神が運営するクエストでポイントを稼いで楽勝生活を送ります。転生したらご近所の神様がついてきました -お狐神さまとぶらり旅-

https://kakuyomu.jp/works/16818093089759837933



・転生先は外国人が作った勘違い和風要素のあるクソゲーで、奴隷ジョブ・サムライになった俺が、ルールの穴を突いて自由に世界を探索します! -勘違いネタキャラのサムライ、最強になる-

https://kakuyomu.jp/works/16818093089759598641



それぞれ12話から20話の中編です。

毎日、18時頃に更新する予定になっています。


1月6日から2月6日までは無料公開されます。

それ以後は、カクヨムネクストに登録しないと読めないようになります。


どれも楽しいお話に仕上がっていますので、ぜひ、読んでみてください。

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