第5話「剣聖の秘宝を起動してしまう」
──カイト視点──
「人間の軍隊って、意外と強いんだな」
手当たり次第に本を漁っていたら、いくつかのことがわかった。
魔王のこと。戦争のこと。
地形や地理。この世界の人間の生活や文化など。
必要最小限の知識は手に入ったと思う。
俺がいるのは大陸の東側にあるミスラフィル王国だ。
魔王はその反対側、西の山脈近くに
そこから魔物の軍勢がやってきて、国境近くの町や村を攻撃しているらしい。
この世界には多くの国がある。
その中で、もっとも強い力を持っているのだミスラフィル王国だ。
王国が強い理由は、
勇者なら魔王や魔将軍を倒せるという安心感。
勇者をサポートする剣聖と、強力な将軍たち。
彼らを
それらの力を結集して、ミスラフィル王家は魔王軍に対抗している。
王国軍の戦い方は決まっている。
最初に兵士たちがザコを倒して、勇者のために道を切り開く。
その後、勇者がボスに立ち向かい、倒す。
そうやって王国軍は魔王軍に対抗してきたそうだ。
……兵士が
俺がやってたゲームも、本当はそんな感じだったんだろうか。
ゲームでは勇者パーティが魔王を討つ旅をしたりしてるけど、その裏では兵士たちが、勇者が魔王への道を切り開くために露払いをしていたのかもしれない。
それがゲームでは描かれていれなかっただけで。
勇者姫イングリットの周囲を固めるのが、ミスラフィル王国最強の7人。
メリダ・カイントスが言っていた『
彼女を含めた7人の
バルガス・カイトは
序列としては勇者姫イングリット、その次に剣聖バルガス・カイト。
かなり下がって、七剣といった感じだ。
七剣の序列は、あくまでも景気づけ。勇者のまわりには強者がいます。
だから魔族は怖くないですよ……と、人々に
そうやって民を落ち着かせることも、王国側の
剣聖バルガス・カイトの役目は、勇者姫のための
つまり、王国軍の切り込み隊長だった。
彼は『
彼がいる戦場といない戦場では、王国軍の戦果は
バルガス・カイトが重要人物だったのはわかる。
勇者の兄で、王子で、剣聖の人物が進んで
それを兵士たちが
彼を死なせないために、必死にサポートしていたんだろう。
だけど……そのバルガス・カイトは死んでしまった。
ここにいるのは同じ顔をした替え玉だ。しかも人見知りの
バルガス・カイトと同じことができるわけがないんだけど──
「……俺が逃げたら、王国軍は
書庫の床には箱が置かれている。
中身はバルガス・カイトの遺品だ。
人前に出るときは身につけるように言われている。
武器類は勇者姫に引き取ってもらった。
残っているのはマントなどの
高級そうな品ばかりで、俺が身につけていいのかって思う。
しかも、これらは見た目を
例えばペンダントには炎を防ぐ
他にも、ブレスレットなんかもある。これはバルガス・カイトのお気に入りだったらしい。
その効果は不明。ただの装飾品かもしれない。
王子や王女なら普通に身に着けられるんだろうけど、俺が身に着けるのは気が引ける。というか、光り物なんか身に着けても似合うとは思えない。
やっぱり、これはしまっておいた方が……って、あれ?
このブレスレット……中央に
ブレスレットには青い宝石がついている。
宝石の下には銀色の台座があって、その下に隙間がある。
よく見ると……隙間に小さな紙が
なにかのメモかな。これは……えっと。
『兄が妹の
これは……バルガス・カイトが書いたものか?
あの人は勇者姫に
だから
でも、最強騎士ってなんだろう?
……ん?
文章の下に、呪文のようなものがある。
「『我こそはすべての邪悪を
「よかろう!」
突然、ブレスレットから声がした。
銀色のブレスレットが光を放ち、表面に小さな人影が現れる。
それが空中に浮かび上がり……目の前で人の姿になる。
現れたのは人形のような小さな姿。
体長は30センチくらい。大きな羽のようなリボンをつけている。
金色の髪と、桜色の瞳。
小さな人物は手を伸ばして、俺の額に触れた。
「
小さな人物が宣言した。
その人物が生み出した光の粒が、俺を包み込む。
光の粒が俺のまわりに集まり……
さらに
気がつくと俺は、
馬もいる……いや、馬じゃない。なんだこれ、トカゲ……いや、竜か?
金色のタテガミを持つ竜だ。胴体からは大きな羽が生えている。
「初めてお目にかかるのだ。自分は
「………………」
「神竜騎士はあらゆる毒と邪悪を清める能力を持つ者。お主は300年ぶりの神竜騎士として、世に
「……………………」
「ホリィはお主と一緒に戦い……こら。主さま。なんで離れていくのだ? どうして本棚の後ろに隠れようと……って、どうして無理に
「し────っ」
「え? 声が大きい? ごめん……じゃなくて、どうして主さまがホリィに
「…………脱がして」
「……あ、はい」
「鎧を、脱がしてくれ」
「はい」
ホリィと名乗った人物……精霊が手を振ると、金色の
…………いや、そうじゃない。
なんで俺が変身してるんだ?
『剣聖の替え玉になれ』と言わたと思ったら、今度は『神竜騎士』?
いくらなんでもいきなりすぎる。
「……説明を」
「……はい。ごめんなさい。主さま」
「……怒ってない」
「え?」
「怒ってないから」
「はい」
「きつい言い方をして、ごめん」
「いやいや、主さまは悪くないのだ!」
「大声」
「…… (こくこく)」
「怒ってないからな」
「わ、わかったのだ」
「話を。説明を」
「承知なのだ。なんでも、お答えするのだ」
「じゃあ、ここに」
俺はテーブルを叩いた。
身長約30センチのホリィは、俺の前に腰を下ろす。
「神竜騎士について」
「は、はい」
「詳しく」
「了解なのだ」
そうして、精霊のホリィは説明をはじめたのだった。
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