篤姫のカステラ

額田兼続@みんなでカクコン頑張ろう

思い出の味

篤姫あつひめは、およそ2ヶ月程前に、輿入れしたばかりであり、嫁いだ家定いえさだとも、中々共に過ごすこともできなかった。

初夜ですら、まだ迎えていない。

自分は御台所という立場だというのに、家定とは滅多に会わない。

(家定様…きっと、私が嫌いなのね……………)

「篤?居るか?」

突然かけられた声に、びっくりして振り返ると、家定が居た。

「何を、そんなに驚いているんだ?こっちまでびっくりしてしまうではないか」

「…すみませぬ」

「よい、よい!そんな事よりも、篤。この菓子はいかが?」

家定の持っていた菓子は、黄色くて四角い、「かすていら」という食べ物だった。

「……よいのですか…?」

「勿論。よいに決まっているだろう?さあ、遠慮なく」

「で、では……」

ひとくち口に運ぶと、いかにもその美味しさが伝わった。

「味はどうだ?」

「ふわっふわで、甘くって、すっっっごい、美味しかったです!」

「それはよかった…その、篤に喜んでもらえるよう、試行錯誤し、頑張って作ったからな…」

(え…)

見かける事もなくなり、嫌われたのかと思ったのに。

こんな勘違いをしていたなんて、恥ずかしい。

(私なんかの為に…)

「…篤?顔が赤くなっているぞ?」

「あ、いえいえいえいえいえ何でもないんですぅ…!」

「はははっ」

「ちょ、ちょっと家定様、笑わないでくださいよ〜」


-2年後-


突然の訃報だった。

「家定様が…」

この日、篤姫は人生で一番の大泣きをした。

さらに、そのわずか10日後には、父・斉彬なりあきらまで亡くなってしまった。


篤は落飾し、天璋院殿従三位敬順貞静大姉、通称「天璋院」になった。

これから、篤の忙しい日常が始まるのである。

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