走る、お昼

「私たち、友だちだよね?」

 友だちはにっこり。

「ねぇ、なんで答えてくれないの?」

 ギュッと両手を握られる。

りん、完走しようね!」

「うぅ、っぐ…………は、はい」





 寒風かんぷう吹きすさぶ中、何故人は走るのか。

「授業だからね。はーい、スタートするよー」

 っしゃ!

「凛、凛! 最初から飛ばしちゃダメだって」

 そ、そっか。わかってるわかってる。

「おぅ」

「も〜、行くよ〜」

 スタート!

 友だちは軽快に走り出した。軽快に走ってる。…………私走るの、向いてない。向いてないかもしれなーい。

「待って〜〜」

 走るのってさ、力使い過ぎじゃない? もっとさ、こう、HPを小出しにローテンションのまま、持続可能な次世代エネルギー……みたいな走りが、あったりするんじゃないの? ね〜〜

「あ、七沢ななさわさん」

「林くん。……いや、『持久走あんま疲れない』林くん」

「なんで脇腹押さえてるの? 痛い?」

「う。こ、これはね、痛くなるなよ? と押さえてるのです」

 あはっと林くんが笑った。

「あのね、痛くなったら、痛い側伸ばすといいらしいよ」

「ほんと?」

 こうかな? グイーーっと走りながら伸びてみる。

「痛くならないとは別のだけど、あんま疲れない走り方で『ナンバ走り』というのがあって」

 林くんよ、何故に走りながら喋れるのじゃ? 凛は、凛は、もうアカン感じなのや……

「江戸時代に飛脚が使用していたと言われている走法で、右手と左足、左手と右足が同時に前後に動くのが特徴で」

 体幹の軸がブレずらい走り方なんだって、と。なんで林くんが、持久走あんま疲れないのか、わかった気がするよ。林くん、背中めっちゃ真っぐ、綺麗なんだもん。凛は体幹、ブレブレです。

 林くんは、ナンバ走りをして見せてくれた。私は、脇腹が痛くならないよう伸びながら走ってみた。二人して先生に、真面目に走らんかい、言われたよ。





 私は、友だちとも林くんとも別れて、独り走っている。

 もう、ゴール……してもよくない? まだなの? もう……充分……だよ(泣)。





 昼休み。

 YouTubeにお弁当ショート動画をあげている友だちが、スマホを構えている。

「凛〜、大丈夫?」

 私は持久走で力尽きていた。食べるより、こうして居たい。

「凛が机と同化してるよ〜。ねぇ、代わりにお弁当撮ってもいい?」

「いいよ」

 私の頭の上で……林くん? 顔を上げると、友だちが林くんのお弁当を撮っている。私も見たい。林くんのお弁当。

「あ、凛。すごいよ! 林くんもお弁当自分で作ってるんだって」

 へぇ〜〜〜〜!

「作るって、バイトで作ったの買っただけだけどね」

 バイト……

「林くん、バイトしてるの」

「スーパーの惣菜コーナーだよ」

「これ、林くんが作ったのー?」

 友だちがコロッケを食べている。

「雑用から、最近調理手伝いやらせてもらえるようになったんだ。七沢さんも食べる? コロッケ」

「え! いいの?」

「どうぞ」

 林くんのお弁当箱からコロッケを一つ、いただく。わー……

「ありがとう。いただきます」

「凛、にっこにこ〜。コロッケ好きなんだ」

「う、うん」

 林くんが作ったコロッケ…………冷たいのに、おいしいな。私、揚げ物はやったことないよ。

「揚げ物作れるなんて、すごいねぇ」

「業務用の調理器具が揃ってるから、出来るんだと思う。家の台所では作ったことないよ」

「そういうものなの?」

「そういうものだよ」

 私は林くんに、自分のお弁当箱を差し出した。

「タコとカニ。いる?」

 コロッケのお礼にタコ・カニウインナー。私のは、切込み入れて焼いただけだけど。

「ありがとう」

 なんか……作ったもの食べてくれるのって、いいな……

 今度、卵焼きでも作ってみようかな。


【終】

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