5 気絶

知らなかった、あんなところにいたなんてー

(姉上…?)

不思議に思った。

いるわけない、こんなとこ。

でも、同じ親から生まれてきた大好きな姉だ。


「皇太子殿下?」


友人が自分の位の名前を言う。

いい加減、名前で呼んでほしい。


「悠超。俺にも名はある。名で呼んでくれないか?」

「名で呼ぶ…」


少し詰まり、わかりましたと言ってくれた。


「ありがとう」


彬因ひんいんが笑顔になると、悠超も微笑んでくれる。


「こちらこそ。ところで殿ー彬因、何か嬉しそうだね」

「姉に似てる人を見つけてね。ふふっ」



◆◆◆


(うわーっ)

お気の毒に。そう思う。

この顔をした、ということはとりあえずその者は苦労する。

1日中追っかけ回されるか、べたべた四六時中監視されているような感じで目線をやられるか。

とにかく、その姉に似た者とやらに同情した。

かつて私もそうだったからだ。


「次授業だけど、彬因も行く?」


護衛ついでに、だ。

皇族も入る学院なので警備はばっちりなのだが、万一のために自分はいる。

それもあるが、彬因といるのが楽しいからだ。


「ああ、行くよ。次は何?」

「次は確か…経書の要約だったかな?」


(確か要約は彬因の苦手分野…)

彬因は授業もめんどい、と言い普段サボっているのだがそろそろ本気を出してきたようだ。


「とりあえず行く」


めんどくさそうに頭を上げた。


(よくそんなんで点取れるな)

天才、ということか。


「とりあえず行くか」

「うん」


彬因がにこりと笑う。

それにつられて、悠超も笑った。



授業が始まったときのことだ。


「侵入者だ!1年の教室に出たらしい!」

「部屋っ?!」

同じクラスの者がなぜかいないと思っていたが、報告のためだったのか。


「どういうことだ!」


悠超は報告をした者の胸ぐらをすぐに先生に注意されるが掴む。


「やめなさい!喧嘩だなんて、国の未来を補うあなたたちがしてはならないことよ。すぐに離しなさい」


経書の先生、よう先生が自分を睨む。

睨まれたところで、どうもしないのに。


「楊先生…!」

「な、なにっ?!」


今度は自分が楊先生を睨む。最悪だ。教師を睨むなど、あってはならない。

けれどこればかりは止められない。


「先生を睨むなど、どうかしてるわ。訴えますよ」

「どうぞ、どうぞ。私は大事な義弟の命を諦めろ、と仰った楊先生を訴えますがーよろしいので?」

「楊先生…」


睨まれるのが怖くなったのか、楊先生は怯む。


「私は大事な義弟がいます、1番の教室に」


少し切らし、続きを言う。


「なによ」

「教師だからって偉そうに。来るんじゃなかった。ーはぁ」


悠超は髪を解き、術を使おうとする。

手から水色の光が、きらきらと輝き出す。

今にも飛び出そうなほど、怒りは強かった。


「私は授業なんかよりも、大事な命を優先する。行ってきます、楊先生ー」

「待ちなさいっ!授業がっ!」

「…授業より命が大事っつんなら、!その腐った生根ッ!これから起こるやもしれぬ事件で治しやがれクソったれ!!!」


バンッ!


扉が豪快に開かれる音がし、教室にいた生徒が次々と悠超のうしろについていく。

ちっ、と思ってたに違いない、楊先生は。



◆◆◆


(義兄さまっ…!)

ブルりと手が震える。

なぜなら賊が忍び込み、誰かを探しているからだ。

それがもし自分なら、確実に殺される。

未来がもう見えていた。


「…蒼法っ?!」


蒼法は法剣を手から抜き出し、戦おうとする。


「すぅ…」


息を吸おうとしている。

すると、突然…


バァァン!


扉が開かれるような音がした。


「おいおい、誰だぁ?」

「俺らの可愛い1年を襲おうとしてた奴。絶対に許さんッ!」

「めんどいけど、やるか」


2年生ー

が教室に入ってくる。

なぜ…

だろうか。

2年生も暇なわけない。

授業がある。

なのになぜ。

(まさか、助けに…?)

怖かった、恐ろしかった。

感情が押し込み、涙を流す。

カッコいいー

その想いが強かった。自分も、あんな2年生になりたい。そう思えた。



◆◆◆


賊に比べものにならいくらい圧倒的に強かった悠超たちは、あっという間に倒す。


「ありがとう、2年生諸君。おかげで1年生たちの命は助かった。さあ?君たち、ありがとうと言うんですよ」

『ありがとうございます』


教室にいた生徒全員に礼を言われ、なんだか小っ恥ずかしった。


「ところで君たちー授業はどうしたのかな?」

「先生を脅してきました。徐 損陣じょ そんじん先生、どうか罰を。退学処分でも構いません。どうか皇太子殿下だけはお咎めなきよう」


悠超が土下座する。

授業を中断させたのだ。

土下座どころでは済まないだろうけど、土下座しないよりはマシだ。


「土下座することはなにもない。むしろ、楊先生に責任がある。楊先生が止めなければ、救援は早く届き、さらに学院は安全を保てた。罰を受けるとすれば君じゃなく、楊先生の方だよ。まあ、といっても決断を下すのは楊先生でも俺でもない、学院長先生だ。わかったね?」

「はい、わかりました。徐先生」


悔しそうに顔を歪める。

もしかすると、楊先生に罰は下らず、自分たちに罰が下ると理解したからだ。

(いくらなんでも不平等すぎる。まあー仕方ないか)

これで終わりたくない。



平等ではない判断を下された悠超たちは、罰を受ける堂ー颯風そうふう堂で残酷な罰を受けることとなった。


自分だけは仕方がない、と感情は動かなかったのだが、皇太子殿下である彬因と一緒に助けに行ってくれた同学年の者たちも罰を受けることになったので、とても申し訳ない。

(たくさんの人を巻き込んで、僕は何をやってるんだっ…)

自分を殴りたくて仕方ない。


「うっ…」


そのときだった。

視界が見えなくなかったのは。

そう。あまりにもむちが痛すぎて、気絶してしまったのだ。

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