配信される世界3
「信じなくてもいいさ。でも俺は……夢の中と同じように人類を滅ぼさせるつもりはないんだ」
信じてもらえなくてもいい。
イースラのやることは変わらないのだから。
「……私は信じるよ」
「サシャ!? こんなの信じるのか?」
「うん、だってイースラもウソみたいなこといっぱい言ったけど今みたいな真剣な目をしてウソついたこと一回もないもん」
悪ガキだったイースラは嘘をついたことも多い。
けれどウソをつくときのイースラはあたかもウソをついているのだと態度に出していた。
それで騙されるならいいし、騙されないのならそれでもよかったみたいな分かりやすいウソだった。
本気で人を騙そうとしたことがない。
イースラが真面目な顔をして真面目に何かを言うときは本当のことなのだ。
「実はクラインが花瓶割った時だってシスターモーフ分かってたんだよ」
「げっ、そうなのか?」
少し前にクラインが箒を振り回していて花瓶を割ってしまった。
それをイースラが庇うように自分が割ったとウソをついた。
一見するとおちゃらけて自己申告しているようだったけれどウソをつけないイースラなりの精一杯のウソだったのだとシスターモーフは見抜いていた。
「だから信じるよ。それに……イースラはイースラだからね」
「サシャ……ありがとう」
まだまだ子供っぽいところはあるけれどやはりいい女性であるとイースラは思った。
「まあこの知識ってか、記憶を元にして動いてるわけだけど、俺はこの生活も長く続けるつもりはない」
「……どうするの?」
「金稼いでちょっとは強くなって……みんなでさっさとここを出ていこう」
「出ていくったってどうやって?」
残ってた食材すらこの有様である。
子供が生きていけるだけ稼ぐのも楽ではなさそうだとクラインは思う。
「そのために料理番になったし……そのためにこれを買ったんだよ」
イースラはニヤリと笑って懐から冒険者ギルドで買った目玉がついた箱を取り出した。
「そーだ! それもなんなんだよ?」
時間もなくてちゃんと聞けなかったけれど目玉のついた気持ち悪い箱についても気になっていたことを思い出した。
「今この世界がどうなってるか知ってるか?」
「ん? どういうこと?」
「俺たちは二回身分登録をしただろ?」
「ああ、そういえばそうだな」
冒険者ギルドでは二回なんか書類を書かされた。
書いたのは受付の人だけど二枚のカードをもらった。
「一つは冒険者登録。冒険者として活動するための登録だ。冒険者は分かるな?」
「ああ、モンスターと戦ったり、ゲートダンジョンクリアする人だろ?」
「その通りだ」
世の中色々な職業があって、その中に冒険者という仕事がある。
世界中にいるモンスターを倒したり、突如発生するゲートと呼ばれるものを攻略したりするのが主な仕事だ。
自由度の高さと上手くやれれば一攫千金も狙えたりする仕事なので危険な割に冒険者という職業を選ぶ人は後を絶たない。
普通のお姉さんの受付で登録したのも冒険者としてやっていくためのものであった。
「もう一つは配信者登録だ」
「配信者って何?」
サシャが肩をくすめる。
冒険者は分かっても配信者というものが分からない。
「今は冒険者と表裏一体になってるようなもので、配信を行う人のことを配信者っていうんだ」
「配信……ってなんだよ?」
「歴史のお勉強みたいになるけど軽く説明してやる」
この世界は配信されるようになった。
一番初めは巨大な帝国だった。
時の皇帝の前に奇妙な仮面をつけた奇妙な商人が現れた。
“暇を持て余していませんか?”
不思議な商人はこう問うた。
“暇だとしたら何をしてくれる?”
皇帝はこう問い返した
“ゲートダンジョンを攻略する様を見学してみたいとは思いませんか?”
不思議な商人は翼がついた目玉のようなものを取り出した。
魔物だと周りが騒然とし、兵士たちに槍を向けられる中でも不思議な商人は平然とした態度を取っていた。
“これを使えばゲートの中をここから見ることができます”
興味を持った皇帝は不思議な商人を受け入れた。
不思議な商人は摩訶不思議な魔法を使い、遠く離れたゲートの中の様子を皇帝の前に映し出した。
「その不思議な商人は世界中色んな王様や貴族の前に姿を現したんだ」
安全なところにいながら緊張感のあるゲートの攻略を見られる。
暇を持て余していた王や貴族は不思議な商人が提供する体験に飛びついた。
「これが配信さ」
遠く離れたところの光景をリアルタイムで映し出すことを不思議な商人は配信と呼んだ。
最初は王様や貴族などの一部の人が配信を見て、王様や貴族が抱える兵士などが配信を行っていた。
けれど不思議な商人は段々と手を広げていき、配信はいつの間にか平民階級にまで広まったのである。
「今じゃ多くの冒険者がモンスターを倒す様子とかゲート攻略の様子を配信してるんだ」
イースラたちが行った配信者登録は配信を行うために必要なものだった。
「配信者カード、持ってるな?」
「うん」
「メニューって言ってみろ」
「メニュー? ……わっ!?」
「メニュー……なんだこれ?」
メニューというとそれぞれの前に薄く半透明に透ける四角い板のようなものが現れた。
「これが配信魔法ってやつの基本でメニュー画面、ウィンドウ、表示、いろいろ呼ぶやつはいるが俺はとりあえずメニューって呼んでる」
それぞれ見えているのは自分のメニューだけで他の人のメニューは見えていない。
メニューにはいろいろと言葉が表示されていてサシャもクラインも訳がわからなかった。
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