配信される世界2
「全部説明してやる。ただ先に飯作ろう。ダラダラしてると怒られるからな」
そう言ってイースラは料理を始めた。
鍋の水を火にかけてお湯を沸かす。
そこに干し肉を入れる。
ゆっくりと煮込んでいくと干し肉から旨味と塩味が出て、干し肉がやや肉っぽくなる。
これだけでも多少食えるようになったスープにしなびた野菜をぶち込む。
その間にパンを切って軽く表面を炙ってそれっぽく見せておく。
「完成〜」
干し肉スープとパン。
料理と呼ぶのにも貧しいぐらいのものだけど何もしないよりは遥かに食えたものになった。
「何してるの?」
「薄めてんだよ」
スープとパンを人数分取り分けるのだけどスープは水で少しかさ増しする。
そしてリビングスペースにいるみんなのところに持っていく。
「今ある食材ではこれが限界でした」
「なに? こんなもんしかなかったのか?」
「はい」
「……ポムテメェ! またロクでもねぇことに金使ってんな!」
「ベロン兄貴……それは……その……」
頬に十字の傷があるベロンという男がポムのことを睨みつける。
どうせ子供に何か作れるなんて思ってなかったポムは食材が足りないこともイースラたちに押し付けようなんて思っていた。
しかし残された食材でイースラはできる限りのものを作ってみせた。
割とちゃんとしたものに見えるものを作ってきたので食材がなかったというイースラの言葉の方が正しいとベロンには分かった。
そもそもポムには結構前科がある。
食材を買ってくるのも料理番の役割なのだけどポムはもらった食材費を別のことにも使っていた。
バレるたびに怒られているのだけど回帰前の記憶では改善したことはなかった。
「はぁ……」
「まあ食材無い中で頑張ろうとしたことは認めるわ。ただ私はいらない。外で食べてくるわ」
「そういうなよ、スダーヌ。意外と悪くないぞ」
「ならあなたにあげるわ、デムソ」
暗い赤髪の女性は一度スプーンで具の少ないスープを掬って顔をしかめた。
努力は認めるけれどあまり食欲が進みそうな料理じゃない。
逆にデムソと呼ばれた体つきのいい短髪の男性はスープを飲んで意外といけるものだと驚いていた。
スダーヌの分も受け取ってデムソはパンをスープにつけてふやかして食べている。
怒られてしょんぼりしたポムも大人しくスープとパンを食べ、バルデダルはスープに自分で香辛料を振りかけて味を足していた。
「おい」
「なんですか?」
「金をやる。今度はもっとまともなもん作ってみろ」
ベロンがイースラにお金の入った袋を投げ渡した。
正式に料理番に認められたようである。
「チッ……」
「お前に舌打ちする権利なんてねぇよ」
イースラたちが上手くいかなくて結局料理番はパムのところに戻ってくる。
そんな想定をしていたのに料理番はイースラの思い通りに取られてしまった。
思わず舌打ちをしてベロンにまた睨まれて、パムは慌ててパンを口の中に放り込んでいた。
「んじゃ俺たちも飯にするか」
リビングスペースから引っ込んでキッチンに戻ってきた。
イースラたちも食事にする。
「ほれ」
みんなに対して出したのは水で少しだけ薄めたスープだった。
そんなに味に変わりはないぐらいだったけれどそのおかげで残されたスープは意外とある。
これもまたイースラの狙いだった。
料理番は好きに料理の調整もできる。
食べ盛りのイースラたちは食事も多くの量を確保したいところだった。
そのために料理番という役割が必要だったのだ。
今回はスープを水で薄めて出し、イースラたちの分をちゃっかりと確保していた。
「んじゃ約束通り話してやるから食べながら聞いてくれ」
キッチンで三人で食事を取る。
孤児院にいた時より寂しい感じはあるけれど三人いればまだマシである。
「まず言っとくけど俺はちゃんとイースラだ」
サシャが疑うような目をしてくるのでちゃんと断っておく。
「けど……俺はただのイースラじゃないんだ」
「……どういうこと?」
パンをスープでふやかすサシャは不思議そうな顔をした。
「何があったのか……俺にも正確なことは分からない」
きっと懐中時計のせいだということは分かっている。
けれども説明をしっかり聞かなかったので何が起きたのか正確なことが分かっていないのである。
「この世界は一度滅んだんだ」
「……何言ってんだよ?」
「いいから聞いてくれ。これは夢なんかじゃなくこれから起きることかもしれないから」
イースラは回帰前のことを大事な部分だけかいつまんで話した。
これからこの世界に多くのゲートダンジョンが出現し、モンスターにやられて人間は皆死んでしまう。
イースラはそんな中でも戦い抜きで生き残り、最後の一人になった。
そしてイースラは最後まで戦って一人で死んでしまった。
という夢を見たと話した。
サシャとクラインは信じられないという目をしていた。
まだまだ魔道具とかそんなものを知らない二人である。
時間を回帰したなど言っても理解できず受け入れられないだろう。
だから夢というところで少し話を濁しておいた。
「そんなのって……」
「いきなり言われても……信じられねぇよ」
冗談でしょ?
そんなことを言おうとしたけれどイースラの目を見れば嘘や冗談でしている話ではないことは二人にも分かった。
確かにイースラの態度の変化もそうした事情があるなら理解ができる。
しかしにわかには理解し難い話だった。
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