第37話 乱獲

「どっこいしょっと」


 オレは残り少ない体力で、足踏み脱穀機をリヤカーに据え付ける。


 そしてガラガラとリヤカーを押して、再度ダンジョンに突入する。


 そんなオレを、珍妙なやつを見るような目で見ているにゃあ助さん。


 え? お前は何をしているんだって?


 まあまあ、説明するよりやって見せるからちょっと待ってね。



 そして、最初のスライムのポップ地点までえっちらおっちらとやってきた。


 目の前にはプルプル震えるスライムさんが現れる。


 オレはおもむろにリヤカーから足踏み脱穀機をよっこいせと下ろして腰に手を当てる。


「さて、にゃあ助さんや」


「にゃあ」



「そこのスライムを、ちょいと爪で引っ掛けてこちらに投げてくれやせんかね?」


「にゃあ?」



「まあまあ、だまされたと思ってひとつ、おねげえいたしますよダンナ?」


「‥‥‥にゃあ」


 あきれたような表情をして、にゃあ助は爪を伸ばしてサクッとスライムに突き刺した。


 そこで、オレは足踏み脱穀機のペダルを踏んで、針金のたくさんついた円筒部分を回し始める。


「親方! おねがいしまーす!」


「‥‥‥にゃあっ」



 ため息混じりににゃあ助がスライムを投げてよこす。


 そしてスライムは、回転している脱穀機の円筒部分に接触し――




  ばりばりぐちゃぐちゃ


  ころん



「よっし! 狙い通りだ!」



 たくさんの逆U字型の針金がついた回転する円筒に触れたスライムは、見る見るうちにゼリー状のボディーを削り取られ、1秒するかしないかのうちに核を転がしてお陀仏されたのだ!


 うん、あの玄室にあった農具が対魔物用に変質しているのであればこの脱穀機も何らかのチカラを持ってるのではないかと思ったのだ。


 おっと、にゃあ助さん?


 驚いたのは分かりますが、あごが外れますからそろそろその表情を元に戻してくださいね?




 そこからは怒涛の討伐ラッシュが続く。




 スライム湧く。


 にゃあ助刺す。


 にゃあ助投げる。


 オレ脱穀機回す。


 スライム昇天する。

 


 これの繰り返しである。


 武器を振るうのとは違い、マナが減る感覚もほとんどない。


 

 というか、3体倒したときに待望の『マナ覚醒』を体験した。


 その感覚は、一瞬背骨の中に電撃が走ったようになり、その直後には身体の中にあるナニカが一回り大きくなったような感じだ。


 うん、実際に体験してみればわかるというのは本当だな。



 そうしてさらに30体くらい倒したところで、今度はにゃあ助がマナ覚醒した様だ。


 これでにゃあ助は3回目の覚醒である。


 たぶん、今のにゃあ助はヒグマやライオンよりもお強いのだろう。



 そうして興も乗り、ふと気が付いた時にはまたも100個近いスライムの核魔石が足元に転がっていたのであった。




◇ ◇ ◇ ◇




「‥‥‥お兄ちゃん?」


「おお、星華おかえり。」



「魔石、とっても増えてない?」


「ああ、今日狩ってきた」



 リビングの床には、リュックに入っているにゃあ助や星華たちが取ってきた魔石の他に、雑に紙袋に入れられた魔石も100個ほど置かれている。


「‥‥‥一日でこんなに取れたの?」


「ああ、正確には午後から行ったから半日だけどな」



「‥‥‥私たち、あんなに頑張って貯めたのに、それをたった半日で」


「おう、お前らにこれ以上危ないことはさせられないからな。あとはオレとにゃあ助に任せとけ」



「もう、お兄ちゃんに負担かけないようにって私たち頑張ったのに。」


「はっはっは、女子供に頼りっぱなしじゃオレの男が廃るのよ」



「お兄ちゃんだってまだ子供の年じゃないの」


「心は大人だ」



「はいはい。じゃあ、せめて今日の夕食は私に作らせてね。」


「おう、美味いのを頼むぜ」


 星華は手洗いうがいをするとエプロンを身に着け、冷蔵庫の野菜室からニンニクの塊を取り出した。


 おっと星華よ。その食材は危険だぞ?


 え? 今日は金曜日だって?


 明日は学校ないから大丈夫?


 いや、オレは明日ザワさんたちと潜るんだが?



 オレの説得の甲斐あって、ニンニク抜きで豚バラ肉を星華が炒め始めた時に環那と和也君が訪れる。



「お、間に合ったみたいだね」


 二人の手には複数のタッパー。


 今日もおばさん環那の母さんがおかずを持たせてくれたみたいだ。ありがたい。

 

「うちのお母さん、昼から張り切って作ったんだって。だからこんなに早く来れたんだよ!」


 いつも環那が来るのはもう少し遅い時間で、その時には我が家でもすでに夕食を取り始めていることが多い。


 毎日のようにおかずを届けてもらうからと言って、さすがにそれを期待して夕食準備をしないというのはさすがに人としてどうなのかという思いもあり、我が家でもちゃんと夕食の支度はしているのだ。


 だがどうやら、先日のザワさんたちを交えた交流会飲み会の中で我が家の夕食の時間や事情も話題になったらしく、それを聞いたおばさんが昼から料理を作り始めたのだとか。


 ちなみに、その辺の事情をおばさんに説明していなかった環那や和也君は、なぜもっと早く教えなかったんだとおばさんに結構怒られたらしい。

 



 タッパーの中の筑前煮は美味かった。

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