第31話 孤高の星華
―三上星華視点―
時は少し遡り、三上家だけに地震が発生して、裏の畑の小屋の床に穴があいた翌日。
星華はいつものように学校に登校し、1年D組の自分の席に座る。
ここは、広先コロニー磐城中学校。
磐城近辺の学区に住む、おおむね13歳から15歳の少年少女が通う、公立の男女共学の中等教育を行う学校である。
「ねえねえ、今日も来たわよ」
「ねえ見て? 制服の肘とかテカテカじゃない。あんな制服着て、よく恥ずかしくなく学校来れるよね?」
はあ、今日もか。
毎日のように、私が登校すると聞こえよがしに陰口をたたく人たちがいる。
くだらない。
そんな非生産的な会話をするくらいなら、教科書の一行でも目を通せばいいのに。
星華の成績は、学年首位。
小学校のころから、その座から降りたことはない。
そして、眉目秀麗、そこらのネットアイドルなどよりも、とても整った顔立ちをしている。
そんな星華に対し、妬みややっかみなどの感情を向ける輩は多い。
小学校の時は、それほどでもなかった。
まだ両親がいた時は、それなりに流行りの服を着て、顔が整って勉強ができるという事で人気者でもあった。
ただ、星華生来の真面目さから、友人と遊ぶよりも学業を優先するというスタイルであったため、特別仲の良い友人と呼べる存在はいなかった。
そこに、転機が訪れる。
両親がダンジョンで行方不明となり、そのタイミングで星華は中学へと進学する。
当然、進学の際には学生服やらを新調する必要があり、周りの同級生たちは、もちろん卸したての新品の制服を着て入学式に臨んだ。
だが、その中でただ一人。
星華だけは、昨年まで環那が来ていたお古の学生服を着用していたのだ。
新品の光り輝く学生服の集団の中に、くすんだ感じの生徒が一人。
図らずも、星華は周囲の注目をマイナス面で集めてしまった。
そうすると、若い少女たちの遠慮を知らぬプライドと嗜虐心は牙をむく。
入学式のその日から、星華のことを陰で貶める女子生徒がそこらに湧いた。
だが、星華は揺るがない。
凛として気高く。
孤立ではなく、孤高。
排除ではなく、突出。
その在り方は、未成熟の少女たちの嫉妬心や自己顕示欲をさらに増長させる。
「ねえ、たしかあの子両親いないんでしょ? だから貧乏なのよね?」
「なんか、兄と暮らしているらしいよ? まあ、たぶんその兄も貧乏でみすぼらしい格好してるんでしょうね」
「なまぽとかもらってるんじゃないの? 社会への寄生だよね~」
「この前ね、カラオケ誘ってあげたんだけど、なんて反応したと思う? 無視よ無視! お金なくて行けないならそういえばいいのにね~」
「絶対、疑似マッチングアプリなんか使ってないよね? 料金かかるし~」
「変なおっさんとかとマッチしたりしてね? 彼氏とかも絶対いないよね~」
恥を知らない少女たちは、罵倒をエスカレートさせていく。
だが、星華は意に介しない。
正直、両親や兄のことを言われているのには腹が立つ。
何でこの人たちは、よく知りもしない私の家族のことまで貶めるのだろう。
そんな想像力があったら芸術方面にでも生かせばいいのに。
そう思って、耐えてきた。
だが、この日。
決定的に容認できない言葉が発せられてしまった。
「お兄さん、進学してないんだってね? 無職? 貧乏なのに? ウケる~」
「ご両親だって、なんかやらかして蒸発でもしたんじゃないの~」
さすがに反論しようと思って立ち上がろうとしたその時――
「ふざけんなお前ら!」
私の代わりに、声を上げてくれた人がいた。
「星華のご両親はな! 命がけで魔物の氾濫からぼくたちを守ってくれたんだぞ! そんな恩人に、なんでそこまでひどいことが言えるんだ!」
それは、同じクラスの男の子。
家が隣で、環那お姉ちゃんの弟で、幼馴染の和也君だった。
「え~なに~。和也っち、何でマジになっちゃってるの~?」
「もしかして、あの貧乏人のこと好きなんじゃない? ひゅーひゅー」
「うるせえ! 星華のご両親は、ぼくの尊敬する人なんだ! それを馬鹿にされて黙ってられるか! それに、藍星兄さんは無職なんかじゃない! 藍生さんも、命がけで探索者として頑張っているんだ! そんな一生懸命生きている人を馬鹿にするんじゃねえよっ!」
私は――呆気に取られてしまった。
私の代わりに、怒ってくれる人がいた。
ただ、そのことに戸惑い、
先ほど抱いた怒りは霧消していた。
そして、そのタイミングで教師が教室に入ってくる。
騒然とした教室は、そのまま何もなかったかのように静まり、いつもの授業風景に戻っていく。
そして私は――
頬に伝う涙を誰にも見られないようにするのに多くの努力を要した。
その日の放課後。
私は、和也君にお礼を言った。
そしてお礼の途中で、また泣いてしまった。
悔しさと、嬉しさ。
その感情を整理できず、身体が勝手に泣いてしまった。
和也君は、私が泣いているのを他の人に見られないよう、近くのカラオケボックスに連れて行ってくれた。
幸いにもその様子は学校の誰にも見られなかったらしく、変な噂で和也君に迷惑をかけることはなかった。
カラオケでは、私の泣き声をかき消すように、和也君はひたすら流行りの曲を歌っていた。
そしてどうにか泣き止んで。
人に見られないよう、和也君とは別々に帰り、家についた時には午後5時近くになっていた。
泣いたことをお兄ちゃんに知られるのが怖かったけど、その日のお兄ちゃんも何だか様子がおかしくて、知られずに済んだことで安堵した。
あとで思えば、あの時お兄ちゃんの異変に気付くことが出来ていたら、お兄ちゃんはあんな怪我をしなくてもよかったのかもしれない。
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