第10話 『磐城ロッジ』
―葛西環那視点―
「はあ、勢いで学校さぼっちゃったけど、これからどうしよっかな」
堪忍袋を切らせて怒りのままに学校を飛び出した環那は、途方に暮れていた。
「うーん、へんなとこうろついてナンパとか職質とかされても嫌だしなー。」
ぶらつく候補として頭をよぎるのは、広先でも大きなデパート、ダリア野。
だが、こんな田舎で制服姿の女子高生が平日に一人でぶらついていてはどうにも目立つ。
「映画って言ってもなー。今見たいのやってないしなー。」
ダリア野の一角にあるシネマホールにでも行こうかなとも思ったが、特に見たい映画もない。
素直に家に帰って母親に今日の出来事をぶちまけてふて寝でもしようかとも思ったが、せっかく平日の日中にフリーで動ける時間ができたのだ。
そんな不意にできた時間を、なにか有効に使いたいという思いも消せなかった。
「そういえば、あいせーはダンジョン行くって言ってたな。」
たしかに言っていた。
そうだ。
ちょっと様子を見に行ってみよう。
そう思った私は、ハッカ堂にあるバスターミナルに足を運び、磐城山行きのバスに乗車した。
◇ ◇ ◇ ◇
『~磐城ロッジ前ー、お降りの方は、しっかりと停車してからお席をお立ち下さいー。』
磐城ロッジに着いた。
ここ、磐城ダンジョンへの入り口は、『磐城ロッジ』と呼ばれている。
かつての観光地であった磐城山。
ここには観光登山者の為のリフトがあり、その乗り場のロッジが山の中腹の大駐車場に設けられている。
磐城ダンジョンの入り口は、このリフトを登った山頂付近のところにあるため、この観光登山のリフトはダンジョン利用者のために、かつての姿のまま修繕のうえ運行されているのだ。
バスを降りた私はロッジの中に入る。
このロッジはダンジョンが発生してからは、リフトの発着場としての機能に加えて磐城ダンジョンの監視所としての機能も持つことになった。
さすがに探索者でもない私はリフトに乗ることはできないが、このロッジの中までは一般にも開放されている。
『探索者協会』の運営する施設は、ここの磐城ロッジのように、結構民間に開放されている。
各ダンジョンに必ず設けられているこういった監視所には、なぜか売店みたいなものも設けられキーホルダーやお菓子なんかも売られていたりする。
ここ磐城ロッジでは山菜のシーズンになると探索ついでに探索者が取ってきた山菜なんかも店頭に並べられたりもする。
そして、一般の人がそんな監視所に訪れる最大の理由として、ここにはダンジョン内を監視するモニターが多数あり、ダンジョン内の様子をリアルタイムで見られることにあるだろう。
各所のダンジョン内には、魔物の異常発生や氾濫を察知する為、また探索者同士のトラブルを防止するために定点カメラが設置されている。
また、そのほかにも無人ドローンも不定期に監視のために飛んでおり、そちらの画像もモニターで見ることが出来る。
探索者の中には自動追尾ドローンを探索に同行させ、リアルタイムでそれを動画サイトで配信するパーティーも少なくない。
藍星が荷物持ちとして参加している『暴熊』は配信をしていないため、藍星の様子を見るにはここのロッジに足を運ぶ必要があった。
「さーて、あいせーは映ってるかなー?」
私は多くのモニターの中から、藍星の映っているモニターがないか目で探した。
◇ ◇ ◇ ◇
―三上藍星視点―
磐城ダンジョン地下3階層。
5人組探索者パーティー(+藍星)、『暴熊』はそこでゴブリンと戦っていた。
「数が多いぞ! あいせーを囲んで円陣を組め!」
「あいせーちゃん、頭の位置低くして待機ね」
「セーカちゃんを未亡人にはさせねーど!」
「いや、星華は妹っすよ」
その時、低階層にしては珍しく多数のゴブリンが出現し、『暴熊』たちは12体のゴブリンにまさに囲まれている最中だった。
「あーめんどくしぇーな。なして
「ちょうど3組のゴブだぢとかぢ合うなんて運がねえなー。ほいっ」
「ってごとは、
だが、『暴熊』はここ磐城ダンジョンのある広先コロニーの中でもベテランの部類であり、上位5組には名を連ねるほどの実力を持っている。
いかに数が多かろうと、ゴブリン如き敵ではない。
「よーし、ラストだねえ。あ、あいせー、頭上げでいいよ」
「あらよっと。よっしゃ、手加減成功。あいせー、せっかくだからとどめさしてみろや」
「なにがせっかくなのかわかりませんけど、いいんですか?」
「ああ、遅がれ早がれ誰もが一度は通る道だ。それにな、今回みだいに囲まれた時、いつもオレ達が完ぺきに守ってやれる保証はねえ。だがら、あいせーも自分の身を守れるくらいにはなってもらわねーとな」
「そうそう、いざという時に殺すのをためらって自分がやられちゃあ笑えないがらねえ。」
「わかりました。じゃあ、いきます。」
藍星は、渾身の力を込めて弱ったゴブリンの首を断ち切った。
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