第15話 新学期早々、学校は大騒ぎ!何故って?それは文化祭があるから!
新学期早々、教室の中は常に大騒ぎだ。何故かって言うと、9月末に文化祭があるからだ。高校生にとって学校行事は何よりも楽しみなのだ。
「ドルフィンちゃんは、企画会議に参加しないの?」
花音ちゃんが私の顔を覗き込んで言った。
「ええっと・・・私は放送部で忙しいから、あんましクラスの出し物には参加できないんだよね。そんな人物が企画に口を出したらいかんでしょ?」
「うん?文化祭では放送部はそんなに忙しいの?」
「体育館でいろいろな団体の舞台発表があるでしょ?あれのPAを全部放送部がやるんだよ。」
「ぴーえー?・・・ぴーえーって何?」
「あっ、ごめん。普通は知らないよね。“ぴーえー”はアルファベットで“PA”って書くの。もともとは舞台で使われる電気音響システム、そう、マイクやスピーカー、アンプやミキサーなんかの機器を指すんだよ。 “PA”は“Public Address”を略した言葉で、直訳すると“公衆に対して小さな音を拡大して明確に伝達する”って意味になるかな。 舞台関係では、こういった機器に関わる担当者のことをPAって呼ぶこともあるんだよ。」
「へぇー、いや、流石放送部員だねぇ。そんなこともすぐに説明できるなんて。」
「へへ、私も最初は知らなかったよ。球技大会の時に、男子部員に“PAって何?”って聞いたら、さっきのように教えてくれたんだよ。だから、私の説明は受け売りなんだ。」
「それでも流石だよ。ちゃんと私にも判るように説明してくれたんだから。で、話を戻すけど、PAの係をやるから忙しいって訳?」
「そうなんよ。文化祭開催中は、ほぼ体育館に詰めて作業をするらしいよ。だからクラスの出し物にはほとんど関われないから。」
「それはちょっと残念だなぁ。折角の文化祭なのに・・・。」
「うーん。でも、逆に言えば放送部員にしかできない参加の仕方とも言えるんじゃない?それにPAは2年と1年の担当で、3年生はクラスの模擬店に参加していいことになってるし。来年は私たちが1年生に教える立場になるからね。とにかく今年は、PAのやり方をしっかり覚えないと。」
☆
放課後、舞台発表参加団体代表者会議が生徒会主催で開かれた。この会議には舞台発表を行う団体は必ず参加しなければならないのだ。
「なぁ、ドルフィンちゃん。会議での説明を俺たちの代わりにやってくれないか?」
いきなり、鯨山君が仕事を振ってきた。
「えっ、何で?メカの事なら鯨山君たちの方が詳しいじゃん。」
「確かにそうなんだが・・・俺たちはしゃべるのは下手なんだよ。その点、コンテストで賞を取ったドルフィンちゃんなら、安心だから・・・。」
うーん、確かに・・・鯨山君たちに人前でしゃべらしても、いまいち上手く伝わらないような気はする・・・。
「判った。いいよ。しゃべらなきゃいけない内容のメモを頂戴。目を通すから。」
「おぉ!有難い!はい、これが説明しなきゃいけない内容だ。よろしく!書類配りなんかは俺たちがやるから。」
「はいはい、よろしく。」
おっ、生徒会長のお出ましだ。いよいよ始まるのかな?急いでメモに目を通さなくちゃぁ。
「では、皆さん、全員揃ったようですので、会議を始めたいと思います。」
どうやら生徒会長直々に注意点の説明を行うようだ。
「・・・このように多くの団体が、舞台発表を行う訳ですから、“1、制限時間を守ること”“2、自分たちの発表の前の団体の発表中には、体育館横の控えに集合を終えていること”“3、発表を終えた団体は、速やかに撤収を行うこと”なお、撤収の制限時間は5分です。“4、入れ替わりに次の団体は5分以内に準備を完了すること”そのため、大道具、小道具の類は、発表順に体育館横に搬入しておいてください。また、次の団体が搬入しやすいように、発表を終え、撤収した団体は、大道具、小道具を全て体育館周辺から教室や部室に持って帰ってください。以上の注意点をくれぐれも守ってくださいね。」
なるほど・・・厳しいようだけど、イベントを滞りなく進めるためには必要な約束だよね。
「・・・続いて、発表の順番を決めたいと思います。なお、部活の発表は進行上の理由から、こちらで決めさせていただきました。吹奏楽部、合唱部、日本音楽部は文化祭初日の開会式の後に、演劇部は二日目の初っ端に、軽音楽部は三日目の閉会式の前に組ませていただきます。クラス、有志の発表は、二日目の演劇部の後からと、三日目の軽音楽部の前に入ります。順番は、公平になるようにくじ引きで決めたいと思います。それでは、くじ引きの為に前に集まってください。」
うむ、順番がどんどん決まっていくぞ。さて、そろそろ我々の出番かな?
「では、放送部にバトンタッチします。」
Nコンに出たおかげで、この程度の人前では緊張しなくなったなぁ。さて・・・。
「では、続いて、放送部から皆さんへ舞台発表に関わる書類について説明いたします。」
私がしゃべり始めると、鯨山君、鰹島君、王子浜君の三人が手際よくプリントを配っていく。タイミングといい、配り方といい、実に見事だ。
「只今、皆さんの手元に配られた書類は、”セッティング表”と呼ばれるものです。この書類に必要事項を全て書いて、放送部まで提出していただきます。私たちは、この書類を見て皆さんの発表を支える環境を作っていきます。大事なものなので、手を抜かず、きっちりと作成してください。
では、“セッティング表”の書き方を説明します。まず最初の団体名、バンド名には必ず読みガナを書いてください。皆さんを紹介する際に、読み間違えないようにするためです。どのように読むのか判らない名前が多いので、書き漏れの無いようにしてください。
次に“SE”という項目です。SEとは、ステージへの登場の際に流す音楽の事です。ステージへの登場の際に使いたい音楽があれば、その音源をあらかじめCDに焼いて提出をお願いします。掛け間違いを防止するために、CDにはその1曲だけを入れてください。また、CDにはマジックで、団体やバンドの名前、流す曲のトラック、流す時間を書いておいてください。
3つ目、“ステージのセッティング図”です。2枚目のプリントに記入例をプリントしてありますから、参考にしてください。特にバンドで出演する人は要注意です。丸で囲んであるDr、Ba、Gt、Voは、それぞれパート担当者の立ち位置を示しています。Drはドラマー、Baはベーシスト、Gtはギタリスト、Voはボーカリストを示しています。四角で囲んであるB.AとG.Aは、それぞれのアンプを示しています。B.Aはベースアンプ、G.Aはギターアンプです。また、四角く囲まれた「M」は“モニター”を表しています。こだわりのある人はこのようにモニターの位置を明記してください。判らない人は“おまかせ”と書いてください。こちらで無難な位置に設置します。
四つ目、丸に矢印が刺さっているこのマークがあります。これは、マイクが必要な場所とその“向き”を示しています。矢印の向きが、マイクの上部が向く方向です。歌う人に向かって矢印が向くように書いてください。ボーカルだけでなく、ドラムやギターの人もマイクを使う場合は、忘れずに書いてください。歌わない場合でも、MCで必要なら書いてください。
五つ目、演奏曲目についてです。演奏する曲とMCの入るところを記入してください。なお、曲名の横にある欄には、演奏時間を記入してください。
六つ目、照明について書く欄です。ステージ全体を明るくするか、スポットを使うか明記してください。スポットを曲の途中から使う場合は、曲の何分何秒で入れるか、誰を照らすか明記してください。
七つ目、パート欄です。ここには、担当楽器とそれぞれの担当者の名前を書いてください。
我々は、各欄に書いてある情報を合わせて、ステージの全体像をつかんでいきます。ですので、“これはいらない情報だろう”と自分で決めつけないで、書ける所は全て記入してください。
締め切りは、9月22日、金曜日です。締め切りは必ず守ってください。では、何かご質問はありますか。・・・なければ、放送部からの説明を終わります。」
ふう・・・上手くしゃべれたけど、ちゃんと内容は伝わったかなぁ?
「お疲れ様!やっぱりドルフィンちゃんに任せて正解だったな。お見事!判り易かったよ。」
「恥ずかしいから、そんなに褒めないで。別に普通だよぉ。」
「いやいや。俺たちだと、ああはいかないよ。有り難う。まぁ、本番のPAの方は任せてくれ!」
「うむ、期待しておるぞ。」
さぁて、我が放送部も文化祭に向けて、いよいよスタートだ!
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