第14話  思わず、涙がぽろぽろ出た・・・。心の底から感心し、感嘆し、驚愕した!こんな嬉しいことはない。

 「おはよう、皆。」


 物理室に入ると、神倉先輩が既に来ていて、何時もの笑顔で私たちを迎えてくれた。


「「「おはようございます!先輩!」」」


 私たちの後からも、続々と部員が入って来た。


「うむ、集合時間の10分前に皆集まったな。感心感心。では、時間前だが始めるか。」


 西町先生が、そう言いながら一人でうんうんと頷くと、皆の前に立った。


「うほんっ・・・では、今回のNコンの結果を皆に報告しよう。神倉君だが、準々決勝、準決勝と順調に勝ち上がって、昨日の決勝に出場した。そして・・・。」


 ここで、先生は長い溜を作った。いや、そんな演出要らないから、早く結果を教えてくれい!あー、やきもきする!うん?神倉先輩が、何やら黒い筒から厚紙を取り出したぞ・・・あれって・・・え、え、えぇぇぇー!?


「皆さんの応援のお陰で、全国3位になりました!有り難うございましたっ!」


 そうっ!神倉先輩が手元で広げた厚紙は賞状!しかも、そこには確かに“優秀賞”と書かれていた!!


「「「おめでとうございます!」」」


 皆、心の底から感心し、感嘆し、驚愕した!我が校から全国で3番目に上手いアナウンサーが出たのだ!思わず、涙がぽろぽろ出た・・・それに気付いた紙織ちゃんと響子ちゃんが慌ててハンカチを出して涙を拭いてくれた。うぅ、二人とも済まぬ・・・。


「有り難う、みんな・・・もっと練習して、来年は1位を目指しますっ!」


 あれっ?先輩って、普段はこんな大仰なことを言う人じゃないんだけどなぁ・・・。うんっ?先輩の目元が何時もに無く緩んでいる。・・・そっかぁ、ほんとに嬉しかったんだろうなぁ、先輩。良かったですね・・・。私も頑張ろう!来年は東京を目指すのだ!


 ☆


 8月に入ると、お盆明けまで自主練習以外は特にすることが無いため、部活は夏休みに入った。2週間後、久し振りに登校すると、待ってたかのように西町先生に部員一同呼び出された。


「皆、揃ったかな?今日は、県総文の締め切りが近いので、エントリーするかどうかを聞こうと思ってね。」


 はて?聞きなれない単語が出てきたぞ・・・。


「先生!“けんそうぶん”って何ですか?」


 判らないことがあったら、すぐに聞く!神倉先輩の教えです!


「あぁ、1年生が知らないのも無理ないか。・・・そうだな、皆“インターハイ”は知ってるかな?」


「はい!体育系クラブの全国大会のことです!」


 響子ちゃんが、さっと手を挙げて答えた。


「正解!正式名称は、“全国高等学校総合体育大会”、全国高等学校体育連盟が主催する高校生を対象とした日本の総合競技大会のことだよね。通称“インターハイ”。“高校総体”とも呼ばれているね。実は、その都道府県バージョンがあるのは知ってるかい?」


「うっ・・・知りません!」


 私も初めて聞いたよ・・・。


「まぁ、そうだろうね。テレビのニュースになるわけでもないし、体育系クラブに所属する高校生とその保護者以外は知らないのが普通だよね。実は、都道府県レベルでも毎年秋に“総体”が行われているんだよ。“県高等学校総合体育大会”、略して“県総体”だ。インターハイも県総体も共通しているのは、硬式野球を除く全ての競技の大会が一斉に行われることだ。」


「はい!先生!何で野球はハブられているんですか?」


 響子ちゃん、攻めるなぁ・・・まぁ、私も“何で?”とは思ったけど。


「硬式野球は、高等学校体育連盟に所属していないからだよ。」


「えっ?!何でですか?」


「硬式野球だけ別団体、“日本高等学校野球連盟”を作っているから。“甲子園”は知ってるよね。インターハイの代わりが、甲子園で行われる全国高等学校野球選手権大会なんだよ。」


「へぇー、知らなかった・・・。」


 そうなんだ・・・勉強になるなぁ・・・。


「話が随分とズレてしまったな。で、話の続きなんだが、体育系クラブにインターハイがあるように、やはり文化系クラブにも総合競技大会があるんだよ。こちらは、“全国高等学校総合文化祭”、略して“全総文”だ。こちらは“全国高等学校文化連盟”が主催している。全国レベルで技術や技量などを競い合う大会だ。ちなみに・・・。」


 急に先生のしゃべる速度がゆっくりになった。


「規定部門として19の部門があって・・・ええっと、演劇、合唱、吹奏楽、器楽・管弦楽、日本音楽・・・それと、吟詠剣詩舞、郷土芸能、マーチングバンド・バトントワリング・・・ええっと、美術・工芸、書道、写真、放送・・・囲碁、将棋、弁論、小倉百人一首かるた・・・あと、新聞、文芸、自然科学・・・だ。」


 先生は、指折り数えながら専門部の名前をあげていった。さすがに19もの専門部をすらすらとは言えないか・・・そりゃそうだよねぇ。


「・・・その都道府県レベルのものが“県高等学校総合文化祭”、略して“県総文”だ。通常、この県総文で優秀な成績を修めたものが次の年の全総文に出場することになる。神倉君は、去年の県総文で優秀賞を取ったので、こないだ、8月頭に鹿児島まで行ってくれたんだぞ。」


「えっ!?東京から帰ってきてすぐじゃないですか。また、すぐに出かけたんですか?しかも・・・か、鹿児島!遠っ!!」


 思わず、本音が口から出てしまった・・・。


「そうなのよ・・・。でも、Nコンの直後だから、気が抜けちゃってて、あんまし納得のいくパフォーマンスは出来なかったのよねぇ・・・。」


 神倉先輩が溜め息交じりにぼそっ、と言った。


「先輩でもそんなことがあるんですね。」


「私も人間だから・・・私たち放送部の頂点は、やっぱりNコンなのよ・・・。全総文は、何というか・・・ある意味物見遊山的なところがあるのよねぇ・・・。まぁ、鹿児島観光は楽しかったから、それはそれでいいのだけど・・・。」


「・・・神倉君、話の続きをしゃべってもいいかな?」


「あっ!す、すみません、先生!ど、どうぞ!」


 あはっ、焦っている神倉先輩なんて、初めて見た。いやぁ、焦っている姿もまたお美しい・・・。眼福、眼福。


「うほんっ・・・その県総文の要項が届いたと言う訳だ。日時は11月19日日曜日、場所はNコン県大会と同じ会館だ。申し込み期日は、今月末の31日だ。参加するかどうか決めて、早目に先生に申し出てくれ。」


「「「判りましたぁ!」」」


 ☆


「神倉先輩、どうしてNコンと日程が連続することが判っている全総文にもエントリーしたんですか?」


 私は、一番疑問に思ったことを先輩に聞いてみた。ほんと、何故なんだろう?


「栗須さん、最初に言っておくけど、私が全総文に行くことも、Nコン全国大会に行くことも最初から判っていた訳じゃないのよ。私が選ばれないことも十分ありえたのよ。他にも上手い人はたくさんいるのだから。」


 えっ?!・・・言われてみれば、そうか・・・今の先輩があまりにも上手いから、全総文にもNコンにも行くのが当然と思っていたけど、全総文の予選たる県総文は去年の話だ。確か先輩も、去年はNコン全国大会には行けなかったと聞いている・・・。両方とも行けるなんて、去年の夏の時点では判らないのが当たり前か・・・。


「ごめんなさい・・・先輩なら行けて当然と思ってました・・・。」


「ふふっ、有り難う。でもね、私だって最初から上手かった訳じゃないのよ。去年のNコンの結果が、あまりにも悔しかったので、その後猛練習を重ねたの。県総文も場数を踏む為に、迷わず申し込んだわ。年に1度のNコンだけじゃ上手くなれるとは思えなかったから。」


 そうか!運動部も、強くなる為に練習試合を繰り返し行うって聞くし、やはり上手くなる為には試合の場数を増やさないといけないんだよね!


「判りました、先輩!私も場数を踏む為、県総文に申し込みます!」


「そう、その意気が大事よ。頑張ってね。」


「はいっ!頑張ります!」

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