第11話 校舎裏の波乱 前

【玲奈視点】


 寡黙で人付き合いに消極的な男子。

 それが早河君に対して抱いていた印象だった。

 私達は隣同士の席だけど、話した事も挨拶のやり取りも交わした事が無かった。


 私にとって早河君はただのクラスメート。

 その認識はきっとこれからも変わらない、そう思っていた。


 でも今は……

 

 早河君が雛森さんに告白して振られたと言う噂が流れた頃から、彼の印象が大きく変わった。

 なぜなら、早河君の雰囲気や振る舞いが今までとは大きく異なっていたからだ。

 噂が流れる前はどこか近寄りがたい雰囲気を纏っていたけど、それが一変して雰囲気や物腰が柔らかくなっていたのだ。

 まるでこっちが素で、今までは・・・・あえてそう・・・・・演じていた・・・・・かのように……

 

 それからゲームセンターでの縁をキッカケに私達は関わるようになり、私は彼の人となりを知っていき一緒に遊びに行くくらいに関係は深まった。

 そして、私は自覚した。

 私の中で、早河君の存在が日に日に大きくなっていると。

 私にとって、早河君がただのクラスメートではなくなっていると。


 私は早河君のことを……お友達だと思っていると自覚したのである。

 

「でも……早河君はどう思っているのかしら」


 早河君が取ってくれたぬいぐるみを眺めながら呟く。


 早河君からぬいぐるみを貰った時。


『……友達』


 私にお友達と言われて、早河君は驚いた反応を見せていた。

 もしかしたら、早河君の中では私はまだただのクラスメートなのかもしれない。

 

「もしそうなら…………寂しいわね」

 

 それは単なる私の思い違いかもしれないけど、実際そうなのかもしれない。


「でも、直接本人に聞くのは恥ずかしいし……」


 結局、真相は分からずじまい。

 モヤモヤした気持ちを抱きながら、私はぬいぐるみに顔を埋めた。


「……いつかその答えを知る時がやって来るのかしら」


 仮に来たとしてもそれはずっと先の話だろう。

 この時の私はそう思っていた。


 しかし、その答えを私はすぐに知る事になる。



◇◇◇◇◇

【晴哉視点】

 

 ———週明け。


「おい、早河」


 学校の玄関に着いてすぐ、俺はとある男子生徒に声を掛けられた。

 

「なんだよ、田中」

「ちょっとツラかせ」


 有無を言わさない態度で命令する田中。

 一体何の用なのかは知らないけど、碌なことではないのだけは確かだろう。

 正直、田中に付き合っている時間は無いのだが、断ると余計に面倒な事になるのは目に見えている。


「……分かった」


 俺の返事を聞いて田中は無言で歩き出す。

 ついて来いと無言で命令しているのだ。


 田中の後をついていき、やがて俺達は校舎裏へとやって来た。

 ……ここに来るのは雛森に振られて以来か。

 そんな事を思っていると……


「おい、早河。お前には言いたい事が山ほどあるが……まず確認だ。お前、篠原と遊びに行ったよな?」


 どうやらあの日、田中もあそこにいたらしい。


「行ったよ」

 

 素直に認めると、田中は分かりやすく嫌悪感を露わにする。


「ふざけんなよ。篠原はな、お前みたいな陰キャ野郎が関わっていいような女じゃねぇんだよッ」


 なんでお前にそんな事を決められなければならないんだよ、と心の中でツッコむ。

 というかコイツ、前に篠原に言われた事もう忘れたのか?

 

「つーかお前。雛森に振られたからってすぐに篠原に乗り換えるとか、とんだ尻軽野郎だな。最低なクズだぞ、お前」

「悪いけど、それは田中の勘違いだ。そんな下卑た下心を持った事は一度もない」


 実際、雛森に振られたから篠原と関わろうなんて考えは一度たりとも思い付きすらしなかった。

 とは言え、わざわざ事情を全て田中に話すつもりもない。

 というか……


「その理屈なら田中、お前も最低なクズ野郎だな」


 篠原に振られた直後、やけになった田中がいろんな女子と遊んでいたのは知っている。

 見境がなかった分、余計タチが悪い。

 

「っ……テメェ!」

「田中。そろそろここに連れてきた目的を教えてくれないか?」


 田中に本題に入るよう促す。

 これ以上時間を無駄にしたくはない。


「ああ、いいぜ。早河、命令だ。お前、篠原と金輪際関わるな」


 ……やっぱり碌でもない事だった。

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