第10話 波乱の予感
ま、マジか……
あまりにも驚愕の展開に、言葉を失う。
……ていうか、二人は昨日初めて関わったはずなのに付き合うの早すぎない?
原作だと立花がヒロインと付き合うのはもっとずっと先だったのに、たった一日で……
しかし、実はこれはあり得ない事ではないのである。
なぜなら、本来ならゆっくりと時間を掛けて主人公への好意を自覚していく雛森と篠原の二人と、既に好意を自覚している藤宮とでは、そもそものスタートラインが違い過ぎるのだから。
とは言え、たった一日で攻略できたのは藤宮の手腕が優れていたからでもあるが。
……ちょっと待て。
この場合、雛森と篠原はどうなるんだ……?
それに———
「はるやおにぃちゃん、どうしたの?」
結奈ちゃんの声を聞いて、ハッと我に帰る。
「ううん。なんでもないよ」
今は二人と遊びに来てるんだから、考え事は後だ。
「待たせてごめんなさい」
少しして篠原が戻って来る。
「おねぇちゃん、おかえりー」
「ただいま。結奈、ちゃんと良い子にして待ってられた?」
「うん。ゆいな、ちゃんとまってたよ。はるやおにぃちゃんとこいびとさんになって」
結奈ちゃん、その言い方だと色々と誤解を招くよ……
「早河君。どういう事かしら?」
篠原が目が笑っていない笑顔で詰め寄ってくる。
「て、手を繋いでいるカップルを見て真似したくなった結奈ちゃんが、俺と手を繋いできただけだ。誓って変な事はしてない」
「……そう。分かったわ」
どうやら納得してくれたようだ。
それから俺達は次の目的地へと移動する。
その場所とは、子供から大人まで幅広い層が遊ぶアミューズメント施設———ゲーセンだ。
「ゲームがいっぱい!」
今の結奈ちゃんのテンションは今日一高い。
ゲームが大好きの結奈ちゃんにとっては、まさに楽園のような場所だからな。
「結奈、今日はどのゲームで遊びたい?」
「えっとね……あっ、これ!」
ゲーセンの中を見て回っている途中、結奈ちゃんはとあるゲームを選択する。
それは……
「結奈……クレーンゲームで遊びたいの?」
「うん。ゆいなね、このネコのぬいぐるみをとりたいの!」
結奈ちゃんが選んだクレーンゲームの景品は、可愛らしいネコのぬいぐるみ。
俺はチラッと横目で篠原の顔を見る。
「……」
篠原はぬいぐるみを物欲しげに眺めていた。
……結奈ちゃんが言った通りだ。
「それじゃあ、結奈ちゃん。俺がこのぬいぐるみ取ってあげるよ」
「うん。おねがい!」
俺は財布からコインを一枚取り出す。
前世でクレーンゲームマスターと(以下略)。
そして、前回同様に一回で景品をゲットした。
「良かったわね、結奈。ちゃんと早河君にお礼言わないとね」
「うん。ありがとう、はるやおにぃちゃん。これでおねぇちゃんとってもよろこぶよ!」
「え、それってどういう事なの?」
「このぬいぐるみはね、ゆいなのじゃないの。おねぇちゃんにあげるために、はるやおにいちゃんにおねがいしてとってもらったの」
「そ、そうなの?」
篠原が俺を見る。
俺は頷いて肯定する。
「篠原。前にクマのぬいぐるみを取る為に小遣いを全部使ってたけど、でも本当は元々そのお金でこのぬいぐるみを取ろうとしてたんだろ?」
「っ」
篠原の反応が図星であると自白していた。
篠原は元々このぬいぐるみが欲しかったが、結奈ちゃんを喜ばせる為にとそれを諦めたのだ。
「結奈ちゃん、その事に責任を感じてたんだよ。自分を喜ばせる為に、本当は欲しかったぬいぐるみを諦めさせてしまったって」
そして結奈ちゃんは俺に頼んだ。
篠原が元々欲しがってたぬいぐるみを取って欲しいと。
今度は篠原自身が喜ぶ為に。
「そう……だったのね」
「ああ。だから結奈ちゃんが言った通り、このぬいぐるみは篠原の物だ」
俺はぬいぐるみを篠原に渡す。
ぬいぐるみを受け取った篠原は顔を伏せる。
篠原の肩は小刻みに震えていた。
「……ありがとう。結奈、早河君」
「えへへー、どういたしまして」
「おう」
篠原はぬいぐるみをギュッと抱きしめる。
「とても嬉しいわ。私、お友達からこういったプレゼントを貰ったの人生で初めてよ」
「……友達」
「早河君? どうかしたの?」
「い、いや、なんでもない。喜んでくれたなら何よりだ」
それから俺達は他のゲームも遊んだ後にショッピングをして、外が暗くなる前に解散したのだった。
「……はぁ」
篠原達と別れて帰路についている途中、深いため息を溢した。
……これからどうなるんだろうか。
篠原と雛森の事もそうだが……それだけではない。
実はこのギャルゲーのヒロインは雛森と篠原の二人だけではない。
他にもいるのだ。
そして、その一人である
「……これは一波乱ありそうだなぁ。とりあえず週明けに立花と直接話してみるか」
しかし、この時の俺は知らない。
予想外の波乱が目の前に迫っている事に。
「なんで早河みたいなクソ陰キャ野郎が篠原と……ッ! 許さねぇ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます