第5話 予想外のお願い
「それじゃあ、行きましょうか」
休み時間。
教室を出て、俺は篠原の後をついて行く。
どうやら教室では話せない内容らしい。
正直どんな話なのか皆目見当もつかない
やがて俺達は屋上へとやって来た。
……そう言えば開放されてたな。
「それで篠原。伝えたい事っていうのは?」
もしかして告白!?……なんて勘違いは勿論しない。
「昨日の事で報告と、改めてお礼を伝えたくて。ぬいぐるみ、本当にありがとう。妹の結奈、とても喜んでいたわ」
篠原が真剣な表情を浮かべていたので深刻な話かと少し身構えていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
「そっか。喜んでもらえたなら何よりだ」
「むしろ喜び過ぎなくらいよ。結奈ったら、昨日はずっと早河君が取ってくれたぬいぐるみを幸せそうに抱きしめていたもの」
そう語る篠原の表情はとても柔和で、本当に結奈ちゃんの事が大好きなのが伝わってくる。
そんな篠原を見ると自然と頬が緩んでしまう。
「証拠にほら……」
篠原はスマホを俺に見せる。
画面には、満面の笑みでぬいぐるみを抱いている結奈ちゃんが写っていた。
昨日撮った写真のようだ。
たしか結奈ちゃんは5歳だったはず。
天真爛漫で天使のような美少女だ。
「結奈ちゃんも篠原に似てめっちゃ可愛いな。姉妹揃って美少女だな」
「っ」
「ん? どうした篠原?」
なぜか篠原の顔が赤い。
俺、なんか変な事言ったか?
「……早河君って、結構女たらしよね?」
「え、なんで?」
「……自覚ないのね」
篠原にジト目で睨まれてしまった。
「し、篠原。そろそろ教室に戻ろうぜ」
「あ、待って。じ、実はまだ———」
篠原が何か言おうとした瞬間、予鈴が校内に鳴り響いた。
「篠原。今何か言いかけてなかったか?」
「……何でもないわ。早く教室へ戻りましょう。授業に遅れるわ」
「そ、そうだな」
……それにしても、篠原は一体何を言おうとしていたんだろうか。
あんな恥じらった顔で……
◇◇◇◇◇
昼休みが終わり、いつもなら満腹で眠気が襲ってくる時間帯だが、今日は例外である。
なぜなら今日のこの5時限目の授業で、主人公と雛森の初イベントが発生するからだ。
「はーい。それじゃあ、今日の美術の授業は人物デッサンをしますので、男女二人のペアを作ってください」
先生からペアを作るよう指示され、男子達は一斉に雛森の元に駆け寄る。
「雛森さん。俺とペアになりませんか!?」
「いやいや、ぜひ俺と!」
「俺、絵上手いですよ!」
「え、えっと……」
突然大勢の男子に囲まれてしまい、雛森は困惑してしまっている。
ちなみに篠原のところには誰も来ていない。
最初何人か声を掛けようとしてはいたが、篠原のこっちに来るなオーラに尻込みして諦めたのである。
「うーん。これは決まりそうにないし、公平にくじ引きにした方が良いかな」
そう、誰とペアを組むかを決められない雛森を見かねて、先生がくじ引きを提案。
その結果、立花優斗と雛森が偶然ペアになるのだ。
そして、これをキッカケに二人の距離は少しずつ縮まっていき、やがて偶然は運命へと変わる。
これがストーリーの流れだ。
と、その時……クラスメート達が突然何やらざわざわとしだした。
何事かと視線を向けようとしたのと、声を掛けられたのは同時だった。
「あ、あの……早河君」
「え……ひ、雛森?」
振り返ると、なぜか雛森が目の前にいた。
「ど、どうした?」
「えっと、早河君にお願いしたい事がありまして……」
それから雛森は恥じらいながら、こう言うのだった。
「早河君。私とペアを組んでくれませんか?」
「……え?」
…………え???
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます