第3話 ギャル、コギャルになる。

 オークとひとしきりショーを繰り広げたアベカナは満足し、ようやく男の子が捕まっていた事情を聞いていた。


「へぇ、オタクくん、課外授業中に遭難してオークに捕まったんだ」


「そうなんです!魔力切れを起こして前後不覚だった事もあって、抵抗も出来ず……って、オタクくんってボクの事ですか?」


「うん、最初ナビキャラかと思ってたけど、解説しすぎだし、ぶつぶつ独り言多いし、眼鏡だし、ただのオタクくんじゃん、もう」

 アベカナの中では、オタクは既にキャスト扱いされていない様だ。


「ボクにはオータ・クロックという名前が……でも、略称はオタクだから間違ってはいませんか……。ともあれ、本当にあなたは、命の恩人です!このご恩を返させて下さい……!」


「いいっていいって」


「いえ、このままではボクの気が済みません!」


「うーん、どうしよう。……あ!じゃあさ、しばらく撮影班してくんね?さっきみたいに」


「サツエイですか……はい、先程のお役目であれば、お安いご用です!……それに、さぞ高名な魔法使いであらせられるであろうお方のお側にいられる事自体、光栄ですから!……それと、差し支えなければ、お名前をお伺いしても……?」


「アベカナ」

 スマホをいじりながらオタクの言葉を受け流す。まさにギャルそのものだ。


「アベカナ様!短いながら、とてもいい響きのお名前です……」


 そんなやりとりをしていると、オーク達がアベカナに声をかけてきた。


「アネゴ!!よろしいか!」

 着ぐるみのマスコットと化したオークの村長を筆頭に、オーク達は正座をしてアベカナにペコペコとしている。

 

「ん?オーちゃん、なに?」

 オークを早速愛称で呼ぶのは、生粋のギャル。


「へ、へぇ、そこのオスと同じ様な事を言うのもアレですが……オークって種族は、強いモノの下につくもんでさぁ、何でも従いますから、あっしも配下に置いてくださいますかねぇ……?」

 まるで、三下のような風情だ。


「こう見えてあっし、この辺の土地勘はあるもんで、色々お役に立てるかと思いやす」


「……アベカナ様、差し出がましいのですが、断った方がよいかと」

 オタクが申し訳なさそうに横槍を入れる。


「このオーク達は、人族と魔族には与せずに中立ですが、その分見境なく各地で様々な種族を食い物にしている、悪名高い奴らです。事実、ボクも殺されかけていますし。今でもアベカナ様に従ったフリをして、寝首をかく算段を立てているのでは……?」


「わけわかめ。いらない設定だわそれ。動画だったら[スキップ]か[スワイプ]してるとこ」

 ギャルにとって必要情報の取捨選択は、秒単位だ。


「それにオーちゃん達も、生きるために必死だったんでしょ。あたしも人の事言えないワ。だって牛とか豚とか食べてるしさ~」


「う、それは、否定できませんが……」


「それよか、見てオーちゃんの可愛い見た目を!いい匂いにもなったし、こんなオーちゃんがそんな事するワケないって!それに、一緒にいたら動画の賑やかしになるじゃんさ」


 アベカナが村長ことオーちゃんに抱きつく。オーちゃんは豚鼻の下を伸ばしている。


「確かに、この村のオークに関しては、事象の改竄としか思えない現象によって、今までの悪行がかの様に、善性の部分しか残っていませんが……それでいいのでしょうか……」

 心配するオタクをよそに、アベカナの表情は恍惚としている。


「へぇ、それじゃアネゴ、友好の証としまして、我々どもに伝わる儀式をさせて頂いても……?」


「出た!部族でよく見る友好の儀式!もちろんいいよ!」


 アベカナはテンアゲで儀式を承諾する。


 メスのオークに櫓の中へ案内されたアベカナは、衣服を脱がされて全身を赤土で塗られる。髪の毛を上部で結われ、ヤシの木の様なシルエットが作られた。ヒョウ柄の毛皮で出来た服を着用した後は、顔に化粧を施される。


 1時間ほどで儀式用の姿になったアベカナが、櫓から出てきた。


「うわ~、平成のコギャルみたいじゃね?[チョベリグ~]」

 オタクに持たせておいたスマホで自撮りをしつつ、一昔前のギャル言葉を発する。


「ええ、アネゴ、似合ってます!チョベリグでっせ!」


「「「チョベリグ~」」」

 オーク達が応じた瞬間、全員に活力がほとばしった。


「ほらほら、オタクくんも!」


「は、はいっ…!チョベリグ!」

 オタクが応じると、活力が漲る。陽キャのノリに、種族間の隔たりなど無いのだ。


「これは、付与魔法……!?掛け声だけでこれだけ全体の能力を底上げするバフがばら撒けるだなんて……上級の魔法使いでも、詠唱に2分はかかりますよ……!?」


 そうして、オーク達の儀式はグロいイモムシを食べさせられたり、カメの生き血を飲まされたり、円錐形に立てかけられた薪を囲んだ盛大な焚き火の周りで踊ったりするものだったが、バフが付与されたアベカナはノリノリだった。



「[あげぽよ]~!」


 アベカナがギャル語を発すると、焚き火が盛大に燃え上がり、火柱を形成する。


「ぞ、属性強化魔法まで使えるのですか……!?何でも有りですね、もう……」


「何落ち込んでんの、オタクくん?とりまオールでパラパラ三昧っしょ!」

 自信を無くしかけていたオタクを励ましたアベカナは、オーク達と一晩中騒ぎ倒し、そのまま倒れるように爆睡したのだった。

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