星屑の伝説 時は流れて。戦う女

塚葉アオ

第一章

第0話

 ・0



 異界を渡りし空の指輪を持つ者、「零士れいじ」と呼ばれ。


 魔法巧みに扱い、「旅人」と名乗るが、その謎多き。




 黒闇人獣大戦。終戦から、およそ二百七十年。


 二人の「迷い子」――。名前はない。推定年齢、七。場所は、ゼロズ。


「夜」の日(太陽が沈んだ一日)。


 後に、「ミラ」「フィア」と呼ばれる。



 *****



 ミラは立ち止まり、毅然とした態度で言い放った。彼女は正面を向き、横にいるフィアの小さな手を大事そうに握り締め、相手の目を見つめていた。


「あなたはここの偉いひとだよね」


 その相手とはエツだった。彼女は星銀の城(ゼロズ)にいる魔術師の中でも最高位の一人で、魔術組織『バルサ』の代表補佐を務めている。長身であり美しい白髪が特徴の女性で、大勢の人から「白銀のエツ」と呼ばれている。


 この時、エツは数人の仲間と共に行動していた。


 周りには、バルサとは関係のない人たちもいた。少女二人を追ってきたのだ。


 エツはまず何も言わなかった。ただ黙って、少女たちを見返していた。


 ミラは負けじと片腕を上げ、胸に手を当てる。


「このわたしをあげる。わたしを好きなようにしても構わない。だけど、その代わり、この子だけは守ってくれない」


 フィアは傍で聞き、混乱する。目を大きく見開き、心臓が速く鼓動するのを感じていた。


 ミラは知らず、続けた。「この子には、あなたたちが求めているようなものはない。あなたが約束を守ってくれるなら、私も約束を守る。私を好きにしていいから」


 ミラは一度わずかに頭を下げて、相手の顔をじっと見つめ直した。自分の言葉がどれほど危険なものかを理解していたが、守るためにはこの選択しかないと信じていた。


 フィアは口を開こうとした。そんなのだめ。わたしも。言おうとして、その声が喉に詰まる。


 周囲は静まり返り、少女の言葉がどのような結果をもたらすのかを見守っている。


 エツは表情を変えず、彼女の目に映る決意を感じ取りながら一言だけ述べた。


「いいだろう」


「ほんとう?」


「ああ」


 おい、そいつらは俺が。どこからか、そんな声が聞こえてくる。


 エツは少し間を置いた。「ベレ、いいですか。彼女はこれからバルサの管理下に置かれます」


「はい」


「この子の教育はあなたに任せます。いいですね」


「はい」からす天狗てんぐは事務的だった。「そちらの子は、どうされます?」


「彼女はもちろん安全な場所に。そうでなければなりません」

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