後の祭り

@tumiin

霊媒師の不思議なお話

みなさんは、物の怪というものを信じていますか?これは、私が若い時に体験した、奇妙な話です。

若い頃の私は、霊媒師をしていて、弟子の若い女と仕事をしていました。

ある日の朝のことです。

「友人が物の怪に取り憑かれたので、祓ってほしいのです。」と弟子から依頼を受けました。その友人は、なんだか様子がおかしいとのこと。私と弟子は、その人の家に訪れました。顔色が悪く、死にそうな程であったので、すぐさま物の怪を取り除く祈祷の準備に取り掛かりました。

そして、弟子が言うのです。「なぜ友人に物の怪が取り憑いているのか、知りたいのです。私の体に乗り移らせてください。」私は弟子の言葉に従い、物の怪の話を聞くため、弟子に物の怪を乗り移らせました。

弟子は俯き、一瞬喋らなくなったかと思うと、顔を上げて口を開きました。


「私は物の怪ではありません。ただの狐です。」

その時の目は、本物の狐の目をしていました。

続けて、弟子を乗っ取っている狐は喋ります。

「皆さん、少し私の話を聞いてください。塚穴の家には子供がいて、お腹を空かせています。ここには食べ物が散らばっていると思ってやって来ました。しとぎ餅でも食べて帰ろうかしら。」

と言い、とても悲しそうな顔をしました。私は家の人たちと共に、急いで餅を作り、狐の前に並べました。

それを見た途端、狐は餅に飛びつき、「うまい、うまい。」と言いながら食べ始めました。

それを見た家の人たちは、「この女は、しとぎ餅が食べたいから、狐が憑いているふりをしているんだ。」と、陰で言い合いました。


用意した餅を半分まで食べた後、満足した様子の狐。

「紙をもらえますか。それに包んで帰り、年寄りや子供達に食べさせたいのです。」と言うのです。家の人達は疑いながらも、紙を二枚引き違いにして重ね、餅を包んであげました。

狐はそれを腰に挟み、

「もう私をこの体から追い払ってください。退散しますから。」と言いました。

家の人達は次々に「どっか行け!」と言い放ちました。その後狐は立ち上がり、そして、その場で倒れてしまいました。


しばらくして、弟子が起き上がった時、懐にしまったはずの餅が無くなっていました。

狐がいなくなった時に餅も消えたので、狐が取り憑いていたのは本当だったのではないかと疑い始めました。


そんな奇妙な狐の霊と出会って数日経った後、私の元に誰かが駆け込んできました。その正体は、あの日取り憑かれていた弟子の友人でした。

その友人は口を開き、「あの人は友人なんかではありません。あの人は、たくさんの物の怪たちと手を組んで食糧や財産を奪っていく悪党です。」と私に向かって叫びました。

その後家を見ると、私の家に弟子の荷物は一つもなく、ただ腐った餅だけが置いてありました。

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